226 砂漠トカゲを借りよう!
砂漠の夜はかなり冷えたようだが、エアたちは快適だった。
寝てみると硬めの砂漠羊毛マットがちょうどよく、布団も軽くて柔らかくてふわふわ、天蓋付きベッドの薄いカーテンで温かい空気を逃がさなかった。かといって温か過ぎることもなかった。
当然、部屋にも宿内にも暖房の魔道具が設置してあり、温度差にヒヤッとすることもない。気温が上がる日中に合わせて徐々に気温を合わせて行き、宿内は快適温度に保っているそうだ。
こういった所にお金をかけている宿は人気があって当然なのだが、他の宿の設備もどうやらいいらしい。
食堂での朝食の時、他の客がそんな話をしていた。
朝食のメニューは薄いパンに砂漠トカゲ肉のフライと葉野菜を挟んだもの、海藻ならぬ、湖藻のスープだった。
焼きたて、揚げたて、でそれだけでも美味しさが上乗せされる。
「早朝に釣りたての魚もありますが、いかがですか?香草焼きがおすすめです」
エアと精霊獣たちの食べっぷりにか、店員がそうすすめて来たので、それも七匹、注文した。
「あの、結構、大きな魚で50cmぐらいありますが…」
「余裕。辛過ぎなければ。……あ、みんなで分けて食べると思ったのか?」
何でそんなことを?とエアは考えて、少々誤解があったことに気付いた。精霊獣たちは猫サイズなのだ。それぞれぺろりと一人前の朝食を食べているが、更に身の丈ぐらいもある大きい魚を丸ごと食えるとは普通は思わないか。
「はい。よく食べるんですね」
「美味しいものに限り、な」
「にゃん!」
当然!とばかりに返事をしたのは、金目真紅猫型の火の精霊獣のロッソである。
「んん?兄ちゃん、言葉が分かる猫なのか?」
そこで、近くの席の三十代ぐらいの商人が口を挟んだ。
「高位の精霊獣だ。もちろん、言葉も分かる」
「高位の…そうなのか。キレイな色の猫たちだなぁ、とは思ってたんだが」
「普通の猫を砂漠に連れて来ないだろ。暑さ寒さに弱いし」
「そう言われると確かに。でも、精霊って魔力だけでいいとかじゃなかったっけ?」
「精霊によるらしい。食べ物を飲み食いしても魔力に変換出来るそうだけど、
「そうなのか。…そういえば、兄ちゃん、冒険者なのか?」
この街にもガタイのいい冒険者がやはり多いので、細身で若いエアの職業を判断し難かったのだろう。
「ああ。依頼で来たワケじゃないけどな。他の場所とは色々と違ってそうだから、面白そうな依頼があれば受けようかと思ってる。サンドビッグキャンサーがいるそうだし」
サンドビッグキャンサーはその名の通り砂漠のカニで、体高4mカニの足を伸ばせば横幅6mぐらいあるカニの魔物で、『ホテルにゃーこや』で食べたことがあるが、旨味が凝縮されていて美味しかったのだ。
「ええっ?結構なレア物だし、見付けてもでかくて素早いから中々討伐出来ないと思うぞ」
「おれはソロのCランク冒険者だ。もっと過酷なダンジョンの砂漠フロアを踏破した経験もあるから、まず遅れを取ることはない」
こちらの砂漠は砂塵よけ程度で、がっつりな砂漠装備はいらないそうだが。
「そ、そうか。ダンジョンの砂漠を…。よく見れば、かなりいい装備だな」
精霊獣たちに気を取られていて、エアの装備のよさに気付いてなかったらしい。鑑定対策はしてあるので、商人が思っているより、もっといい装備である。
「別に急ぎの用事がないのなら…」
「護衛なら断る。この街に到着したばかりで土地勘がないし、一般の人たちの体力配分も分からんからな」
体力だけじゃなく、エアたちは寒暖耐性があるだけに、無理させそうである。
他の冒険者たちと合同の護衛だった場合でも、その冒険者たち基準にしてしまいそうなので。
「やっぱり、無理か…。体力のある冒険者でも砂漠は勝手が違うから、片道だけで二度とごめんな人も多くて」
護衛が不足しているらしい。
「時間がかかっても砂漠は最低限の迂回ルートの方が断然、安全だろ」
「それはそうなんだが、その分、費用がかかるのがなぁ」
行商人はその辺が悩み所なのだろう。
しかし、商売は何でもリスクがつきものだった。
******
朝食後。
エアたちは冒険者ギルドへ向かった。
目立ち過ぎるので精霊獣たちは、エア以外には姿が見えないようにしている。
混雑のピークが治まって来たぐらいの時間だが、砂漠を越える護衛依頼はたくさん残っていた。どうしても護衛が集まらなければ、迂回ルートに変更するのだろう。
砂漠羊、砂漠トカゲの依頼もたくさんあり、砂漠トカゲは肉目当てだけじゃなく、訓練して騎獣とするための捕獲依頼もあるのが珍しかった。
テイマーがテイム出来る魔物の個体数は、そのテイマーの能力にもよるのだが、騎獣の場合、ずっとテイムしていないとならない、ということはない。
一匹テイムすれば、同じ種類の仲間との通訳や指南、みたいなことをしてくれるからだ。
この辺では騎獣としても多い砂漠トカゲは、損得が分かるぐらいには賢いので、不当な扱いをしない限り、優秀な騎獣となる。
もちろん、個体差があるが、中には騎士が乗る馬より賢い個体もいるらしい。
砂漠トカゲは食肉としてもメジャーなのだが、それは数が多いからで、賢い個体は当然ながら食べない。
生きたままの捕獲、となると難易度は高くなる。
テイマーならば、簡単だろう。問題はテイマーがオアシスの街まで来るのか?という所である。
毛皮がある従魔と砂漠は相性が悪そうだ。
ちなみに、猫型精霊獣ももふもふだが、寒暖に左右されず、砂塵も平気なので、まったく平気である。
エアはテイムスキルは持ってないが、砂漠トカゲを眠らせて縛り上げて連れてくればいいだけなら、全然、問題ない。
エアは砂漠トカゲに乗ったことがないので、貸し騎獣屋で砂漠トカゲを借り、友釣りみたいな感じで野良砂漠トカゲを捕獲してもいいかもしれない。
そういった方法でも捕獲出来るのならば。
まず、エアは受付で砂漠トカゲの捕獲方法を訊いてみた所、友釣りでも行けるらしい。なのに、依頼票が残っているのは、トカゲ騎獣を持っていないのなら借りる費用がかかるし、友釣りでは二匹が限度で、手間もかかる。捕獲した砂漠トカゲも守りながら戻って来ないとならないからだ。
それに他の割のいい依頼がたくさんあり、少人数パーティではキツイので、中々受注する冒険者がいないらしい。
エアならソロでも問題ないので受注してみる。
テイムスキルを持っている、なんてことはまったく言っていないのだが、見た目が若くて細身なのに、装備がいいことをギルド職員は目敏く気付いたらしく、普通に受注出来た。
次は貸し騎獣屋だ。
どこの街でも同じように、このオアシスの街でも防壁門の側にあった。
エアはトカゲ騎獣に初めて乗るので、店の人にコツを教えてもらったのだが、変なプライドや選り好みがない分、馬より簡単なぐらいだった。
それに、砂漠トカゲは這って進むので馬のように縦には揺れず、大きな動作もないため、乗り心地がよく、意外と速度も速く、体力もあった。
まぁ、その辺りは魔物なので、馬と比べるのは間違っているのだろう。魔物の血を引く馬も多いが。
砂漠トカゲという名前だけあり、乾燥している場所以外では体調を崩し、高低差のある岩場は弱いそうなので、常用の街乗りには出来ないらしい。残念なことに。
どんな騎獣でも向き不向きがある、ということだ。
エアはくすんだ薄い黄色の一般的な砂漠トカゲにしたが、頭から背中にかけて赤や青の柄が入った砂漠トカゲは、更に高くなっていた。能力差ではなく、見映えで。
馬にもそういった差を付けていた所があったな、とエアは思い出した。能力優先だろうに。
赤や青の柄入りトカゲも人気があるらしい。
エアはいつもの薄い色の入ったゴーグル、砂塵よけのバッチ型のマジックアイテムも装備した。
では、砂漠へ行こう。
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