タクララン国・砂漠のオアシスの街

224 砂漠料理に舌鼓!

 エイブル国の南隣のリビエラ王国の西、小国郡の一つのタクララン国は国土の三分の一が砂漠だった。

 ダンジョンの砂漠フロア程、過酷ではないものの、朝晩の温度差が激しく、砂塵による健康被害も大きい。それに、魔物がたくさん生息している。

 砂漠に一般人が暮らすのはかなり厳しいため、余程、思い入れがあるか、訳ありの人じゃないと砂漠で暮らすことはない。


 唯一の例外が大きいオアシスがあるオアシスの街だ。

 前は別の名前を付けられていたそうだが、皆が「オアシスの街」と呼ぶため、こちらが正式名称になったらしい。名称あるある、である。

 オアシスの街は砂漠全体からすると左端にあり、馬より速いトカゲ騎獣で西へ二時間程で砂漠を抜けられるので、他の街との交流も可能、孤立することもない。


 どこかで川と繋がっているらしくオアシス自体が大きく、オアシス特有の魚介類が生息し、渇水したことがない程、水量も豊富。土魔法使いが開拓に協力しているおかげで、農業も盛ん。

 そして、砂漠に住む魔物は手強いものの、旨味を凝縮したように美味。

 砂漠の夜は零下まで気温が落ちるので、氷系魔物も生息し、そのおかげで希少な氷魔石が容易に手に入り、冷凍する魔道具で凍らせ、他の街へと生鮮食品を運ぶことも可能だった。


 当然ながらデメリットもあり、砂漠を越える行商は、どうしても過酷になることだ。

 砂漠を避けて迂回すると、三倍以上の日数と費用もかかるため、大半は商会がいくつか集まって隊商を作る。そうなると、護衛の人数も多くなってしまうが、何も隠れる所がない砂漠での野営リスクは少しでも減った方がいい。



 エアはエアジェットブーツの認識阻害をオンにし、猫型精霊獣たちはエア以外には姿を見せないようにしてから、【ゲートリング】を使ってオアシスの街の市場の側に転移した。

 ラーヤナ国より南の国になるし、砂漠なので気温はもっと高い。


 しかし、直射日光を避けるためか、日よけの布をまとうかローブのフードをかぶる、帽子をかぶるのが普通らしいので、エアはちゃんと服装を合わせ、ローブを纏いフードをかぶってから、認識阻害をオフにした。

 ステータスが高く熱・寒暖耐性もあるエアだと、どんな格好でも日焼けはしないし、眩しさに目がやられたりもしないが、一応。


 市場にいる人たちの人種は実に様々だった。

 南の方の国に多い浅黒い肌の人も当然いるが、白い肌の人もいる。

 タフな獣人だと過ごし易いのか他の街より多く、トカゲ系が目立つ。砂漠を渡るのはトカゲ騎獣が普通だそうなので、獣人も同じくなのだろう。


 まだ明るいが、気温が下がり始めた時間なので、屋台の焼き物料理がたくさん焼かれ始めていた。香ばしい、スパイシーな香りが漂い、ジュージューと脂が落ちる音と香りが更に胃袋に直撃する。


 たくさんある屋台から、どれを選ぶのか?という目安は、行列の長さだと思うが、人が多くなって来ているため、どの行列がどこの行列、と分かり難くなっている。

 そんな時にもお役立ちなのは【直感】スキルだ。

 エアの鑑定では美味しい、マズイは分からない。


 ここまで人が多ければ、カラフルな精霊獣たちでも、猫サイズならあまり目立たないか、と姿を見せる。

 全員一致でまず選んだのは串焼き。

 砂漠羊の香草焼きはハズレなしだろう!

 この周辺では、香辛料が気軽に手に入るため、辛くしている物も多いらしいので、気を付けるのはその辺りだ。


 市場の側に食べるスペースとして空けてある空き地は、空の木箱が椅子替わりとして使われていたが、古くて崩れそうな物も多いので、エアは影収納からテーブルと椅子を出し、精霊獣たちはテーブルの上に布を敷き、そこで食べる。


 香辛料のピリッとした辛味は後を引かず、香草が肉の臭みを消して爽やかな香りを追加し、砂漠羊は聞いていたと通りにかなりジューシー。硬くなく弾力のある肉質で、脂が少し甘く、外側の焦げた所も何とも言えない食感で美味い!


 親指程の大きさのオアシス魚の丸ごとフライは、少し甘めのソースが染み、わずかな苦味がアクセントになり、これまた美味い!

 同じくオアシス魚の佃煮は、ご飯のお供にもってこいだった!

 パンに挟んでもいい、とのことだったが、これはご飯一択だとエアは思う。

 長細い米はあっても、炒めて食べるのが大半らしいが。

 エアは時間停止収納のストックから、炊いてあるご飯も出して食べた。精霊獣たちにも分けて。


 味の濃い物ばかりも何かと、野菜炒めも買って来ていた。

 しかし、予想外に甘い味付けに驚く。

 ……ああ、そういえばそうだった。デーツという甘い実がオアシスの周辺でたくさん採れるので、そこから砂糖も作れて甘い料理やスイーツも多い、と本に書いてあった。

 マズくはないが、さっぱりした物が食べたかったので、手持ちの柑橘系フルーツを搾ってかけ、調整してみた。…うん、ちょうどいい。

 はい、と皿をエアに差し出すので、ちゃんと精霊獣たちの分にも柑橘汁をかける。


 平たいパンみたいなものも買ったので、野菜炒めを包んで食べてみる。芋系の何かが混じってるようで、パンはもちもち食感だった。もう少し肉系が欲しいので、串焼きの串を抜いてトッピング。


 ふと、金目真紅のロッソが近くで食べてる人をじーっと見ているのに気付いた。


「あ、エビみたいなのを食べてるな。どこで売ってたのか聞いて来る」


 エアはロッソが見ていた理由に思い当たり、そそくさと席を立って訊いてみた。

 オアシスには小魚だけじゃなく、貝も海藻…湖藻?もいるようだが、エビ類もいるらしい。カワエビ系らしく、ハサミの足が細くて長く、大きさも5cmぐらいで海のエビと違って大きくない。


「ちょっと教えてくれ。それ、どこの店で売ってた?」


「あ?ああ、このエビか。いや、今買ったもんじゃなくて、昼間買っておいたものなんで、今の時間にあるかどうか」


「そうなのか。ありがとう」


 オアシスエビはカリッと揚げてあるようなので、暑い中でも数時間ぐらいは大丈夫なのだろう。

 朝市ならありそうなので、明日の朝、探してみるか。

 エビ系は色々食べているが、色々違ってみんないい!


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