179 臨時治療室も外と同じく戦場だった ―冒険者&警備兵side―

「おい、眠るな!意識を保て!」


「…すみませんっ!回復術師の人はどこにいますかっ!」


「もう、魔力がないっつーのっ!MPポーションを持って来い!それか、魔力を込めたオーブ!」


「そこ、もっとしっかり縛れ!止血が出来てないぞ!」


「バカッ!そのまま布を巻くな!水で流すかクリーンをかけろ!腐るぞ!」


「誰か!中級ポーションを持ってないですかっ?」


「医者はどこだ!」


「治療師はっ?」


「こっちに毒消しを下さい!」


「毒消しの薬草ならそこだ!」


 冒険者ギルドの中に作った臨時治療室も外と同じく戦場だった。

 あまりに多い怪我人に治療が間に合わず、集めていた薬もポーションも足りなくなって来ていた。

 それでも、少しでも何とかしようとそれぞれが奮闘していた。


「もう少し頑張れ!諦めるな!もうすぐ、もうすぐ薬が届くから!」


「いかん!出血が多過ぎる!…おい、ポーションはまだ届かないのか?」


「大きな怪我から先に治療しろ!」


 そこに、ふわり、とやわらかで温かい光が差した。

 いつの間にか棚の上に現れた金目白銀の子猫が光っていたのだ!

 子猫型の精霊獣…ルーチェである。


「にゃー!」


 可愛い姿に似合わず、鋭く鳴くと、どんどん光が強くなり、目を開けていられない程の眩しさになった。

 やがて、ふっと光が治まると、白銀の子猫の姿も消えていた。


「今のは……?」


「動く!動くぞ、手が!怪我が治ってる!」


「こっちもだ。深い傷が治ってる!」


「潰れた足の痛みもなくなってるぞ!」


「毒も消えてるわ!」


「今の猫、神獣だったのか?」


「違う!精霊獣だ!六体連れた細い冒険者がいるって…まさか、光の精霊なのか?高位精霊ならあらゆる怪我や病気を治すと……」


「…はぁっ?マジで?もーのすごくレアじゃ…」


「精霊獣自体が伝説だっつーの!える人によると、大半の精霊はちっちゃくて、猫サイズでも結構大きいって話…」


「人が乗れる程、大きくもなれるらしいぞ!依頼で乗せてすごく速く移動したって噂になってた!」


「どうも、高位の精霊獣らしいな…」


「そんなことより、治った人は外に出て頂戴!まだまだ怪我人が運び込まれてるから、場所を空けて!」


「あ、ごめん」


「運ぶの手伝うよ」


 いつの間にか机の上に置いてあったポーション各種に気付くのは、もっと後になってからだった。



 ******



 何か赤いものが飛ぶと、ぼとぼととハーピーが墜落して行く。


 防壁の上でその様子を見ていた警備兵たちは、望遠鏡を片手に何が起こっているのか探っていたが、中々焦点が合わず、何が何だか分からなかった。


「味方、なんだよな?」


「だろ。このタイミングで他の魔物がハーピー限定で襲うワケがないし」


「誰かの従魔か?」


「どんな?空飛ぶ従魔がいる冒険者は何人かいても、小さい鳥や虫系で戦闘力より情報伝達系しかいなかったような……」


「あっ!従魔じゃなく使い魔で精霊獣かも!」


「って、猫型の?あんなに速く飛べるのか?…いや、精霊だっけ…」


「でも、あれが精霊獣ならもう五体いるハズだぞ。何で一体だけ?」


「冒険者たちの応援に行ったんじゃないのか。…あ、ほらっ!誰かがあのでかいハーピーを倒したぞ!」


「おおおおおっ!!」


 警備兵たちから喜びの歓声が上がったが、それも長く続かなかった。


「ちょっ……みみみ…見ろっ見ろっ見ろよっ!あれっ!あれっ!」


「何だ?……うわっ……」


「う……う…わ……おい……おい…」


「退避!退避だ!ここは放棄!さっさと退避しろ!伝令を走らせ……ぎゃっ!」


「ぐっ!」


 ゴォッ!!

 立っていられない程の突風に煽られ、警備兵の何人かが吹っ飛ばされた。

 警備兵たちが見たのは、更に飛んで来たハーピーの群れ。


 その中心にはハーピージェネラルより更に大きい5m級、褐色の肌に艶のない赤の髪、赤い目、四枚の黒い翼を持つハーピーがいた!





――――――――――――――――――――――――――――――

150万PV、70万PV突破感謝!4コマ漫画2本更新!

https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093087484566762



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る