178 落ちて来るぞ!備えろ! ―冒険者たちside―

「おおっ!やっと来たか。よろしく頼むぞ!」


 金目水色の猫型精霊獣がどこからともなく屋根の上に現れたので、冒険者ギルドのギルドマスターのリックは喜んでそう声をかけた。

 しかし、その精霊獣…クラウンは小首を傾げたまま、ハーピーと戦っている冒険者、兵士たちに加勢することなく、動かなかった。


「え、倒してくれんのか?」


 リックは拍子抜けした。

 どうやら仲間を呼んだらしく、続々と増えているハーピーたちも、精霊獣たちが倒してあっさりと片付くと思っていただけに。


「エアや他の精霊獣を待ってるとか?違う?」


 リックが精霊獣を気にしている間に、ハーピーからエアカッターが飛んで来る!

 盾を持ったタンク職の冒険者がシールドバッシュで弾き、リックもアイスバレットをぶつけて相殺するが、広範囲をカバー出来ず、他の冒険者や兵士たちが傷付く……いや、大丈夫だった!

 いつの間にか水の盾が現れて攻撃を弾いていたのだ!


「おおっ!助かった!」


「防御系の精霊獣なのか!ありがとう!」


「って、首を横に振ってるぞ?違うってこと?」


「見ろ!ハーピーたちの背中に何か大きい水玉みたいなものが!」


 近くにいるハーピー五体の背中に、大きな水玉のようなものが乗っていた。それはかなりの重さらしく、バランスを崩す。


「落ちて来るぞ!備えろ!」


 水属性の精霊獣のようだが、そんな考察は後回しにし、リックは指示を飛ばした。

 ハーピー単体ならDランク。さほど強い魔物ではない。飛んでいて群れで連携して攻撃して来るから厄介なだけなのだ。


 皆で協力して難なく討伐したが、水色の精霊獣はいつの間にかいなくなっていた。



 ******



「おい、手伝え!こっちに瓦礫がれきの下敷きになった人が数人いるぞ!」


「がーっ!ハーピーがやたらとエアカッターを連発しやがるから!」


「でかい魔法やスキルを使ってよけられて、建物を壊したバカもいるけどな!」


「あーっ!もうっ!うっとうしい!寄るな!ブスっ!」


「ハーピーって頭悪いから悪口を言った所で通じないって」


「分かってても言いたくなるもんだろ!」


 頭の悪いハーピーでも、剣や槍の届く範囲には中々近寄らないので、弓や投石で地道に削るしかなかった。

 街中で魔法や広範囲スキルを使うと周囲の被害の方が甚大だと、やっと分かって来た所である。

 兵士も冒険者たちも市街戦にはまったく慣れていなかったのだ!


 撃退と救助、どちらを優先すればいいのかも各自バラバラ。

 即席の集団なので仕方ないが、日頃からもう少し訓練をしておけば、結果は変わったことだろう。


 その時、瓦礫が動き、潰れていた出入り口が再び構成された!

 助けを求める声が更によく聞こえるようになる。


「にゃにゃ!」


「……金茶トラ柄の猫?」


「違う!精霊獣だ!……え、ポーション……使っていいの?ありがとうなっ!」


 集まって来た人たちの前に、金目金茶トラ柄の猫型精霊獣…ロビンが、どこからか出した小瓶をずらっと並べた。一番よく使う下級ポーションだった。

 そして、ようやく役割分担をし、戦闘力が劣る兵士がポーションを持って怪我人の救助に、冒険者たちがハーピーたちに立ち向かった。

 

 しかし、やはり、飛ぶハーピー相手には決定打に欠ける。

 どこからか、どんどんハーピーが飛んで来ていたのだ!

 このままでは消耗戦になってしまう。

 魔物より体力も魔力もある人間は高ランク冒険者ぐらいだろう。

 被害と犠牲覚悟で勝負を仕掛けるべきか。

 焦る気持ちが狙いをそらしてしまう。


 その時だった。


 バシュッ!バシュッ!バシュッ!


 軽快な貫通音が響き、ハーピーの片翼が撃ち抜かれ、次々とハーピーが落下して行く! 


 一体、何が起こった?

 分からないまま、冒険者たちは落下したハーピーに駆け寄り、止めを刺して行く。落下したぐらいじゃ死なないタフな魔物なのだ。


 いつの間にか金茶トラ柄の猫型精霊獣は姿を消し、大量に倒したハーピーの死体もなくなっていたが、冒険者たちが気付いたのはかなり後になってからだった。





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