177 うっわ、何、あのでかいの。上位種か……

 アリョーシャダンジョン24階、海フロア。

 エアと猫型精霊獣六体総出でせっせと狩り、丸ごと魚ドロップを集めていると、誰かの使い魔の小鳥が飛んで来た。仲間内で一番出入り口に近い位置にいた金目銀色子猫型のルーチェに。


 クチバシにはメモが挟んであり、ルーチェがそのメモを取ると、小鳥の使い魔が消える。そういった短時間の使い魔だったらしい。

 ルーチェがメモをエアに見せてくれた。


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ハーピーの群れの襲撃。緊急召集、強制依頼

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 メモには走り書きでそれだけが書かれていた。


「あらま。でも、大型の弓が防壁の上にあったし、ギルマスは元AランクでBランクのギースもいる。おれたちがダンジョンを出て街に行く頃には片付いてそうなんだけど」


 しっかりと街の戦力を見ていたエアは「ダンジョンに潜ってる連中にまで応援を頼む程か?」と首を捻る。ハーピーは単体だとDランク、群れだとCランクの魔物だ。

 すると、ちょいちょいとルーチェがエアの腕を軽く叩き、自分の翼を生やして飛んで見せた。


「飛べる?…あ、飛べる魔物相手だと苦労するかもってことか。でも、人間が目当てなら降りて来るだろ。……まぁ、群れの規模にもよるか。街には戦闘力はあまりない一般人も多いから、守りながら戦うのは難しくなる」


 街の人たちが多いので、守り切れない場合も多いだろう。

 魚系魔物を狩る手を止めないまま、エアは色々考えた結果、ダンジョンを出ることにした。精霊獣たちを集めて【影転移】でアリョーシャの街の防壁門の側に出る。

 防壁門は閉ざされていた。

 エアはすぐに足場結界を蹴って跳び上がり、防壁の上に立つ。


 ハーピーは50匹ぐらいか。

 思ったより多い。

 バラバラになったハーピーの死体も転がってるし、建物に遮られてもいるので、最初はもっと多かったことだろう。


「うっわ、何、あのでかいの。上位種か……」


 エアが全部のハーピーを一掃することは容易いが、時間をかければ倒せそうなのに、しゃしゃり出るのも何…と思っていたのだが、あのでかい上位種は手に余るだろう。

 ギースがでかいハーピーの近くにいるのは見えたが、飛べないらしく、近寄れないのだから。


 エアは試作のポケット型マジック収納に、ドロップで出たものと練習でたくさん作ったポーションを詰め、精霊獣たちに配る。

 「おれが上位種を倒すから、他の精霊獣たちは冒険者たちのお手伝いや治療を…」とエアが指示した時、上位種の魔力が膨れ上がった!


「伏せろ!竜巻が来る!」


 誰かが叫び、伏せるのが間に合わなかった女たちが舞い上がる!


【ハーピージェネラル…【狂化】【統率】スキル持ち。風魔法『竜巻』を得意とする】


 エアのまだレベルが低い鑑定スキルでも、これだけは鑑定出来た。

 他のハーピーたちがうっすらと赤い光をまとっているのは【狂化】のせいか。

 他の鑑定持ちの人もそれが見えて、叫んだのだろう。


 指示するまでもなく、風の精霊獣のシエロが竜巻を消し、舞い上がってる女たちをゆっくりと地上に降ろす。ハーピー程度の魔法が風の精霊獣にかなうワケがない。


 簡易結界を足場に矢よりも速く空を飛んだエアは、ハーピージェネラルの背後を取り、その逞しい首をねた!

 青い返り血を浴びないよう、風魔法で散らし、同時に首を離れた所へ移動させる。再生能力が高い魔物だとくっついてしまうことがあるのだ。


 エアは空中に立ったまま、ハーピージェネラルの死体を収納すると、北西からかすかな悲鳴が聞こえた。

 ハーピーに誰かが追いかけられているようだが、そちらに冒険者や兵士がいないらしい。

 そもそも、何故、襲撃されてる最中に戦闘力のない人間が外にいるのやら。後方支援なら固まって作業しているハズなのに。


 エアはそちらへ向かった。



 ******



「もーいやぁっ!やめて!…ぎゃっ!」


 ハーピーの鉤爪足が逃げる女の背中を傷付ける。

 一瞬転んだ女だが、浅手だったので女は再び逃げ出す。足首を捻ったのか、左足を引きずりながら。


「キシャアアアアアアアアア!」


 ハーピーは威嚇の雄叫びを上げる。

 ……ん?メスしかいないハーピーでも「雄叫び」でいいのだろうか。

 ふとそんなことが気になったエアだが、かすかに声が聞こえてもまだ距離があり過ぎて何の手出しも出来なかったのだ。


 様子がえているのは、影転移の派生で【千里眼】スキルが生えたからである。

 そう、ならば、影転移が出来るのだが、狭い範囲しか分からない襲撃最中の場に、影転移なんて出来るワケがない。場合によっては、転移した場所がちょうど魔法が通る位置、スキル技の目の前で直撃してしまう、ということだってあるのだ。


 幸い、ハーピーは一瞬で首をもぎ取れるだろうに、女をなぶっているらしい。

 ハーピーの両手の翼の先が少し焼き焦げている所からして、魔法でやられた八つ当たり、なのだろうか。


 そこで、小さな火球ファイヤーボールが飛んだが、速度が遅過ぎてハーピーに簡単に回避される。

 火魔法を使ったのは逃げてる最中の女だった。

 すると、ハーピーの焦げ痕は女がしたことで、八つ当たりじゃなく、腹が立ったので嬲りながら復讐している、ということか。


「さけるな!卑怯よ!」


 え、どこが?

 介入出来る程、近寄ったエアだが、理不尽な言いがかりに、もう少し様子を…見るまでもなく、ハーピーの首をねる。

 どっちみち襲撃して来たハーピーは殲滅することになる。


 ハーピーは使える素材がほとんどないが、Dランク魔石はそこそこ使えるし、中々遭遇しない魔物の解体練習にも必要だし、そもそも、この暑い時期だと放置すれば腐る、とエアは影収納に入れておいた。


 面倒そうな女は放置すると、また余計なことをしそうなので、土のかまくらを作って閉じ込めておく。空気穴はちゃんと空けてある。

 近くの家や店に放り込みたい所だが、その人たちが非常に迷惑しそうだった。

 まぁ、襲撃の片付けの時に、誰かが気が付いてくれるだろう。





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