176 【狂化】スキルを使いやがった! ―冒険者たちside―

 もうすぐ防壁を越えてしまう!

 機動性で劣る人間をせせら笑うように、ハーピーたちの蹂躙じゅうりんが始まってしまう!


 誰もが焦ったその時だった。


 ギィヤアアアアアアィイイァァアアアアアアアア―――――――――ッ!


 3m級の一際ひときわ大きいハーピーが叫んだ!


 すると、他のハーピーはほんのり赤い光に包まれると、みるみる目が釣り上がり、口角が裂けて牙が伸び、爪も更に太くて長くなり、皮膚も鱗のようなもので覆われる!


 そして、格段に動きが速くなった!


「【狂化】スキルを使いやがった!」


「伝説じゃなかったのかっ?戦闘に特化したハーピージェネラルってっ!」


「落ち着け!狂化した所でせいぜいCランクだ。一匹を数人で囲んで倒せ!」


 冒険者ギルドのギルドマスター…リックの叱咤に、浮足立ちかけていた冒険者たちは気を取り直す。


 しかし、【狂化】スキルで風魔法も強化されてしまったため、こちらの遠距離攻撃が当たらなくなってしまった。


「あっ!バカっ!出て来んな!」


 そして、先程のハーピーの大きな叫び声が気になり、建物の中から出て来てしまった人たちが数人。

 無防備な彼らにすかさず気付き、ハーピーの爪が襲う!


「グァッ!」

「ギャッ!」

「イギャッ!」


 血しぶきが舞ったが、怪我はさほど深くなかったらしく、顔を覗かせた好奇心の強い連中はそのまま室内へと避難する。

 そこで、冒険者が駆け付けて来て、ハーピーの伸ばした鉤爪足を長剣で切断した。


 Bランクのギースだった。


 そのまま、ギースはハーピーの喉を切り裂いて止めを刺すと、建物の壁のデコボコを利用して、屋根の上に跳び上がり、降りて来ようとしていたハーピーを牽制する。


「スゲー。さすがBランク」


 通りすがりの冒険者が感心するが、そんな場合じゃないので、悲鳴が上がってる方向へ急いで走って行った。


 そこで、誰かが叫ぶ。


「伏せろ!竜巻が来る!」


 こういった場合、即座に従うのは常に生死の境をさまよう冒険者の本能的判断のおかげだろう。

 ギースは即座に屋根から降りて建物の影に伏せ、少し遅れて警備兵、兵士、青年団の有志も伏せたが、一番、反応が遅れた後方支援の人たち、中でも体重が軽い女たちが竜巻の強風に煽られて舞い上がった!


 舞い上がる女たち、青ざめた人間側を、ハーピージェネラルはニヤニヤといやらしい顔で太い牙を剥き出しにしてあざ笑う。ハーピージェネラルのスキルか魔法だったらしい。

 風魔法で飛んでいるらしく、両腕の翼は羽ばたかず、横に伸ばしたままだった。


 舞い上がった女たちは、竜巻から生まれるエアカッターでどんどん切り裂かれて行く。


 跳んでも届かない高さの空中では、助ける手段がなく、ギースも他の冒険者たちも歯噛みするしかなかった。

 この強風の中では飛び道具も飛ばす魔法もそらされてしまう。

 唯一、救いがあるとするなら、ハーピージェネラルとて、ずっと竜巻を起こしていることは出来ないことだ。

 しかし、多少でも竜巻が弱まるまで女たちが保つかどうかは……。



 そこで、いきなり風がやんだ!


 スパンッ!


 音は聞こえず、脳内で補完しただけかもしれない。

 それ程、見事な一太刀だった。

 ハーピージェネラルの首が飛び、青い血しぶきが上がる。

 再生能力が高い魔物の場合、ね飛ばさないとくっついて再生してしまうからだろう。その辺りも実戦経験の豊富さを窺わせた。


 エアだった!

 エアがハーピージェネラルの後ろにいたのだ!

 3m近い身長で翼も広げていたハーピージェネラルなので隠れてしまい、エアがいつから背後にいたのかは分からなかった。


 ハーピージェネラルの首と身体をどこかに収納した後、それが普通とばかりに、エアは、何かを見付けたのか、北西方向を見つめ、そのまま踏み切って跳躍し……その後は速過ぎてBランクのギースにも見えなかった。

 エアの戦闘力予想は、かなり上方修正するべきだろう……。


「にゃ!」


 いつの間にか竜巻で舞い上がっていた女たちは地上に下りていた。

 打ち所が悪いと死ぬような高さに舞い上げられていたが、女たちに落下の衝撃による怪我はない。風魔法でやんわりと下ろしたのだろう。


 その側にいた金目ブルーグリーンの猫型精霊獣が鳴いて注意を引くと、後は自分たちでやって、とばかりに、どこからか出したポーション瓶を十本程置いて、そのまま消えた。



 ******



「ギースさん、見たよな?ハーピージェネラルがいたよな?精霊獣も」


 まずはポーションで女たちの治療をした後、次の現場へ向かいながら、冒険者の一人がそう訊いて来た。

 あまりの早業はやわざに実感が薄かったらしい。


「ああ。ハーピージェネラルの首をねたのはエアだ。いつの間にか背後にいて。空を歩く?飛べる?マジックアイテムを持っているか、魔法でやれるらしい。…それより、お前はあっちに応援に行け!」


 ギースはハーピーを何とか空から落としたものの、風魔法を使われて手こずってる集団を指差し、ギース自身は下降して来たハーピーの数匹を目指して走った。屋根の上を。






――――――――――――――――――――――――――――――

ハロウィン4「大コマ」漫画更新!https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093087279809550



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る