175 ハーピーは単為生殖です ―にゃーこやside―

【マスター、ハーピーの群れがアリョーシャの街に接近中です。ハーピーの数は現在37匹】


 アリョーシャの街の警備隊がハーピーに気付く少し前、アリョーシャダンジョンのダンジョンコア…アーコはマスターたるシヴァにそう報告していた。

 その時、シヴァはキエンダンジョンマスターフロアの温泉宿風自宅にて、学習機能付きもふもふ二足歩行ゴーレム、にゃーこたちのブラッシングをしている所だった。


「アリョーシャなら防壁の上に大型弓バリスタがあっただろ。警備隊と冒険者たちで倒せそう?」


【時間はかかるでしょうが、問題ないと思います。ただし…】


「犠牲者は出る、か。でも、おれらがあまり手を出し過ぎるのもなぁ。かといって、これ以上、ハーピーが増えたら対処出来ねぇだろうし」


 このぐらいは自分たちで何とかして欲しい、とシヴァは思う。そうじゃないと、この世界は中々発展しない。


【ちょうどエア様がわたしのダンジョンにいらしてますよ】


「ナイスタイミング!…いや、逆か?精霊獣たちの強い魔力に惹かれてハーピーたちが来た、かも?近付けば、本能的にヤバイと思って逃げるだろうけど、遠くからだと分からなくて」


【精霊獣たちよりもエア様だと思います。魔力タンクのせいか、色んな人種が混じっているせいか、独特な魔力をしていますし、ハーピーたちの繁殖は…】


「ゲッ、まさか、ハーピーは人間の男と性交するって?オークやゴブリンとは性別逆だけど」


 オークやゴブリンが人間を襲うのも実質は性交じゃなく、寄生蜂と同じく受精卵の産み付けだ。単に栄養ある獲物の穴に植え付けてるだけ。なので、犠牲者に女が多いのは単に戦闘力の問題だった。

 オークやゴブリンの雌雄も生態も、よく分からない所がある。

 同種間でも体内で子供を孵さず、その手前、受精した所で他の生き物に産み付けている、のかもしれない。


 あいにくと、他にも気になること、やりたいことが多過ぎで、『にゃーこや』も研究出来る所まで余裕がないのだ。


【いえ、違います。ハーピーは虫や爬虫類や植物でよくあるような単為生殖で、魔力と栄養を摂るために人間を獲物に選ぶことが多いです。戦闘力がある人間は少なく、数は多いですから。ハーピーの大ざっぱな認知能力だと、エア様一人で数十人分だと思うのではないでしょうか。つまり、良質な魔力を持つ人間が数十人だと】


「でも、戦闘力は分からねぇもの?近寄らないと無理?」


【そうだと思います】


「本当にそういった習性だとすると、追い払うのは難しくねぇな。手を出すつもりはねぇけど」


 頑張って、とシヴァたちは遠くから応援するのみ、である。

 今の所は。


【マスター、エア様に連絡しますか?】


「エアがダンジョンの外に出たら、ハーピーはそっちに行きそうじゃね?しばらく、静観」


 試練がまったくなくなってしまうのも何だ。

 もっと大きな魔物災害が起こった時の、予行演習とでも思ってもらおう。

 日頃の備えも少な過ぎている。これを機に考え直させるべきだった。

 まぁ、ハーピーの数がもっと増えたのなら、最低限、死なないよう、こっそりサポートしておくぐらいで、とシヴァは思う。



 ******



 アリョーシャの街は騒然としていた。

 民たちは慌てて家の中へ逃げ込み、警備隊や兵士や自警団、冒険者たち、従魔、使い魔たち、戦闘支援や後方支援、といった役立つ職人、有志たちも慌ただしく動いている。


「【木工】スキル持ちはどんどん矢を作れ!」


「石ももっと集めろ!細工師は投石機をもっとたくさん作れ!」


「ちゃんと配置についたか、もう一度、確認しろ!」


「……ああっ?商人が急ぎの用事だからって外に出たがってる?ダメに決まってるだろ!牢に閉じ込めとけ!」


「ダンジョンに伝令に行った職員や使い魔はどうしたっ?まだか?」


「まだ戻ってません!」


「間に合いません!もう近くに…」


「正確な数字を言えっ!方向は?」


「ハーピーの群れは南南西方向、約600m。…来ますっ!」


「落ち着けっ!十分に引き付けろっ!」


「魔法部隊、準備!」


 大型弓バリスタの射程に入り、ひと呼吸置いた後――――。


「撃て!」


 警備隊一番隊隊長カシムの号令に、一斉に大型の矢が放たれた!


 続いて二射目が放たれるが、今度は同時に魔法使いが風魔法を使い、大型の矢をハーピーに命中するよう修正して行く。


 この作戦は大成功だったが、いかんせん、風魔法が使える魔法使いが四人程度では、五匹のハーピーしか撃ち落とせなかった。

 それを補うかのように投石、火球、土礫がハーピーの群れに降り注ぐ。

 強肩の冒険者が槍も投げる。


 しかし、あまり頭のよくないハーピーでも身体能力は高く、身をよじったり、本能的に風魔法を使ったりして回避していた。


 ハーピーを撃ち落とした数は五分の一もない。

 もうすぐ防壁を越えてしまう!

 機動性で劣る人間をせせら笑うように、ハーピーたちの蹂躙じゅうりんが始まってしまう!


 誰もが焦ったその時だった。


 ギィヤアアアアアアィイイァァアアアアアアアア―――――――――ッ!


 3m級の一際ひときわ大きいハーピーが叫んだ!






――――――――――――――――――――――――――――――

ハロウィン4「大コマ」漫画更新!https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093087279809550



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