襲撃は突然に

174 ハーピーの襲撃に右往左往 ―ギルマスside―

 時々、空飛ぶ魔物は街を襲いに来る。

 探すまでもなくエサ(人間)がたくさん集まり、料理のいい匂いがするからだ。

 昔はほとんどの街が対空結界で覆われていたそうだが、今はその技術も失われ、街の防御力は低くなっていた。


 しかし、出来る限りの対空防衛はしてあった。

 防壁の上には大型の弓バリスタが設置され、警備兵たちは定期的に演習もしている。裕福な街なら大型魔道具で火の玉や岩を打ち出したりもするらしい。

 人間相手が多い警備兵たちより魔物に対する戦闘力が高いのが冒険者なので、魔物の群れの襲撃があれば緊急招集がかかり、強制依頼で討伐に取りかかるのだが、いかんせん、冒険者は流れ者ばかり。

 その時、滞在している冒険者たちの戦闘力、協調性、質、まとめ役がいるかどうかにより、戦力にかなりのバラ付きが出る。


 昼下がり。

 三十匹以上いるハーピーの群れが、アリョーシャの街に接近していることが分かった。


 しかし、今回は『大当たり!』だと誰もが思った!

 今、街にはは一騎当千の力を持つと伝説になっている、猫型精霊獣が六体も滞在しているのだから!

 精霊なら飛べるハズである。

 そして、その精霊獣の契約者も弱いワケがなく、エレナーダダンジョンのソロ攻略者だった。


「って、エアはっ?」


 アリョーシャ冒険者ギルドのギルドマスターのリックは、職員たちと共に冒険者ギルドの前に冒険者たちを集めながら、アテにしていたエアの姿が見えないことに気付いた。


「ダンジョンに潜ってるんじゃないかと…」


「はぁっ?何階にいる?知ってる奴がいるんなら、エアを呼んで来い!使い魔が使える奴にも連絡を頼め!」


 しかし、精霊獣とその契約者が現場にいなければ、全然意味がなかった。

 こういった万が一に備え、それとなく居場所をチェックしていたが、まさか、こんなにタイミングが悪い時にハーピーの襲撃があるとは……。


 ギルド職員が手配に走って行く。

 元冒険者のギルド職員も多いが、一人でダンジョン中層以降に呼びに行ける程の腕はいない。すると、使い魔や従魔持ちの職員、冒険者に頼むことになる。


「空中戦が出来る奴、及び、遠距離の攻撃魔法を持ってる奴、こっちに集まれ!」


 ギルマスのリックがそう指示するが、誰も来ない。

 中級ダンジョンが側にあるアリョーシャの街に、そんな高ランク冒険者はほとんどいなかった。

 Bランクソロ冒険者が一人いるだけで。


「ギース、空中戦は?」


「無茶言うなって!ギルマスこそ、元Aランクだろうが!」


「現役の時程動けるワケがないだろ!だから、元、なんだよ!降りて来れば、まだ何とかなるが…」


 ハーピーは遠目なら人間の女に似た上半身に見える細かい羽毛に包まれており、両手が翼、生理的嫌悪感を呼び起こすようなすこぶる悪相、足の鉤爪や風魔法も使う。頭が悪いのが救いだが、飛ぶことと見た目の気持ち悪さから苦手な冒険者が多い。

 獲物を捕獲する時にハーピーが降りて来るので、飛べない人間たちはその時を狙うしかない。

 しかし、街全体に冒険者兵士を配置出来る程、人員がいないし、どうしても被害が大きくなってしまう。


 そこに、警備隊からリックの通信魔道具に連絡が入った。

 耳掛けタイプの通信魔道具で冒険者ギルドの備品だった。


【こちら警備隊一番隊隊長カシムだ。大型弓バリスタ準備完了。魔法部隊も配置に付いた。そちらはどうだ?猫型精霊獣を連れた冒険者は?】


 入街審査をしているのは警備隊なので、目ぼしい冒険者はすかさずチェックしている。こういった時のために。


「まだ来とらん。どうやら、ダンジョンに潜ってるらしい。他に空中戦をやれそうな冒険者はいないから、そちらでなるべく多く撃ち落としてくれ。地上に落ちた後なら何とか出来る」


【しかし、ハーピーは風魔法を使って来るんだろう?どこまで通用するか】


「普通の矢ならともかく、バリスタに使うような大きくて重い矢は多少軌道を反らせる程度だろ。ハーピーは飛んでる時点で魔力を使ってるから、更に魔法を、となるとな。射程範囲外に出られちまう方が厄介だ」


 ハーピーは頭が悪いだけに、最初の攻撃ですべて逃げてしまう、ということはないのは、人間側としては幸いなのか、不幸なのか。

 一旦、逃げても戻って来るだろうが、もう少し準備する時間が出来るし、エアもダンジョンから出て来るかもしれない。

 不幸なのは、いくら頭が悪いハーピーでも、仲間を殺された認識ぐらいはするので、怒り狂って襲いかかって来るからだ。


 そして、そのハーピーの中に【狂化】や【同調】スキル持ちがいたりすると、人間側の壊滅はまぬがれまい。

 【狂化】は理性を失って狂うことで戦闘力や魔力を上げるスキルで、【同調】はその名の通りに戦闘力の高い個体と同調することで、自らの戦闘能力も上げるスキル。

 単体では戦闘力の低い魔物の群れがたびたび脅威となるのは、こういったスキル持ちがいるせいだった。


 この場にいない冒険者をアテにしても無駄なので、ギルドマスターのリックと警備隊のカシムは、お互いの連携が取れるよう念入りに打ち合わせをした。





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