180 何かヤバそうなのが出て来た!

 ゴォッ!!

 立っていられない程の突風に煽られ、警備兵の何人かが吹っ飛ばされた。

 警備兵たちが見たのは、更に飛んで来たハーピーの群れ。


 その中心にはハーピージェネラルより更に大きい5m級、褐色の肌に艶のない赤の髪、赤い目、四枚の黒い翼を持つハーピーがいた!


「ギシャーッ!」


 黒ハーピーは次々と突風を繰り出し、いくつかは竜巻になり、人も建物も石畳も馬車も馬も吹っ飛ばされて行く!



 建物の破片や石の隙間を縫い、エアと3mぐらいに大きくなった精霊獣たちが高速移動で人間を拾って回った。出来るだけ。

 建物の残骸で潰された人もいれば、尖った枝に突き刺さって絶命してしまった人もいる。

 エアたちも万能じゃないので、どうしても救える人は限られていた。


 緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータはハーピーの死体回収、怪我人輸送、ポーションの配達に飛び回っていたのだが、呼び寄せる。エアと手分けして拾った人たちを冒険者ギルドの建物の中に影転移で避難させた。

 こういった非常時のために頑丈に作ってあるのだ。


 黒ハーピーの近くのまだ無事な建物内に籠もっている人たちも避難させたい所だが、人数が多過ぎるし、元凶を何とかする方が先か。


「何かヤバそうなのが出て来たな。クイーンよりもっと上な感じ。変異種?」


 結界で突風を遮ったエアは、黒いハーピーに【鑑定モノクル】を使ったが、あいにくと鑑定出来なかった。

 かなりレベルが高いのだろう。

 長く生きている精霊獣たちでも鑑定出来ないらしく、小首を傾げていた。


「シエロ、竜巻を何とかしてくれ。ロッソ、クラウン、周囲のハーピーを頼む。おれとロビンは黒いのを…って魔力障壁が張ってあるのかよ…」


 先手必勝とばかりに、ロビンが高速石礫を何発か撃ち込んだが、黒いハーピーに当たる直前に弾かれたのだ!

 予想以上に防御力もある上位種らしい。


 街の被害や巻き添えを考えると、広範囲攻撃は却下。

 あの黒いハーピーはレベルが高いようなので、現時点では影の中に引きずり込むのも無理か。弱らせれば可能だろうが、それにはどうすれば……。

 土の精霊獣のロビンに土や岩で包んでもらおうと思ったが、これも生半可な量なら跳ね飛ばされるだろうし、足止めをしないと避けられるだろう。

 早く決着を付けないとどんどんと犠牲者は増えてしまう。


 ……面倒だ。斬り刻む!


 エアは風の影響を受けないよう影転移で一気に距離を詰めると、自分ごと黒ハーピーを結界で包み、片っ端から斬り刻んだ!

 物理魔法耐性がある相手でも貫通攻撃が出来る【雷虎らいこの魔剣】なら魔力障壁なんか関係ないが、余波で街にまで被害が及んでしまうので結界で範囲を限定したワケだ。


 しかし、貫通攻撃は伊達ではなく、エアの結界で多少勢いが弱まっただけの余波が地面をえぐってしまった!

 とっくに建物が吹っ飛ばされていた場所だったのはまだ救いか。

 しかも、黒いハーピーはバラバラにした肉片が次々とくっついて行く!


「やっぱ、再生能力持ちか!」


 レアな変異種ならかなり高く素材が売れそう、とエアは少し考えたものの、躊躇なくサクサク斬り刻んだのは、再生能力持ちだと思わぬ不覚を取る場合もあるからだ。

 当たって欲しくない予想ばかり当たる。


「ロビン、ガッチガチに固めてくれ。ニキータ、おれと一緒に影収納に放り込むぞ」


 エアは側に来たロビン、ニキータを張り直した結界の中に入れて指示を出し、エアはイヤーカフ型マジック収納から大量の土砂や岩を、再生率四割ぐらいの黒ハーピーの真上に出す。

 即座にロビンが黒ハーピーを包んで固め、土魔法で出した大量の土石も加えて更にガッチガチに固めて行く!

 こういった方法をすぐ思い付くのは、ダンジョンエラー検証のおかげだ。


 エアはその大きな土岩の塊を蹴り飛ばし、ニキータと協力して影拘束で影収納に引きずり込んだ!


 しぶとそうな黒ハーピーでも再生途中では反撃も出来ず、魔法が使える程魔力も安定していなかった所に勝機があった。


「よし。これでひとまず問題なし。先に他のハーピーを殲滅するぞ」


 いくら上位種の黒ハーピーでも影属性ではないので、影収納の中から脱出は無理。再生能力持ちを完全に倒すには、かなり時間がかかりそうなので後回しで問題ない。


 この黒ハーピーが仲間を呼んでいたらしく、これ以上はハーピーが増えなくなったので、殲滅までは時間の問題だった。



 ******



 突然、冒険者ギルドに連れて来られた人たちは大いに戸惑ってた。


「…一体、何がどうなったんだ?」


「猫いた、猫!」


「何かすごい突風に吹き飛ばされて……?」


「絶妙な弾力の毛皮に受け止められた…んだと思うけど……猫?」


「って、おい、ハーピーは?更に群れが飛んで来て、黒い翼のかなり大きいのが中心に……」


「黒いハーピー?」


「精霊獣たちだ!猫なら!」


「でかかったぞ?3mぐらいありそうな程。猫サイズじゃなかったか?」


「大きくなれるんだろうよ。…って、ここはギルド?」


「冒険者ギルド内だ。突然、君たちが現れたんだが、何があったんだ?」


 誰かが知らせたのか、副ギルドマスターのトーリが奥の部屋から出て来てそう訊いた。


「おれたちもよく分からん。猫に助けられたんだと思うけど」


「精霊獣だって。多分」


 口々にあれこれと言い出した人たちに、パンパンッ!とトーリが手を叩いて止めた。


「君たちもワケが分からん、ということは分かった。怪我がないのならまずは人命救助に向かってくれ。怪我人が続々と臨時治療室に運び込まれてるし、まだ瓦礫に埋まってる人たちもいる。大分、減って来てるようだが、ハーピーの殲滅もしないとならん」


 普段からの仕事なだけにトーリはテキパキと役割を割り振って、さっさと救援や討伐に向かわせた。





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