170 ドラゴンとアリを比べているようなもの

「それはそうか。で、エア、アルとは会ったことがあるんだな?」


「いや、アルと名乗る人物には会ったことがない。にゃーこやの店長だと認めて、ラーヤナ国フォボスにある高級宿『ホテルにゃーこや』のオーナーでもあり、破格に高い技術力と知識と頭脳と戦闘力を持ってて、知的好奇心が強い自由気ままな神出鬼没な人物ならよく知ってる」


「…名乗る名前を変えたってことか?約一年前から姿を見せなくなったんだが…」


「おれが最初に会ったのもそのぐらいの時期だな。一年ちょっと前。

 この国の宰相も半端な情報を集めて誤解してたから教えるけど、おれがエレナーダダンジョンを攻略出来たのは、義手を手に入れたから、じゃない。かつてなく下層を目指したのは、入院費でなくした金を稼ぐのとドロップで装備を整えるため、リハビリのためだ。

 半年も片手でやってて慣れた頃に終盤で義手を手に入れても、すぐ即戦力になるワケがない。戦闘力が上がったのはレベルをじっくり上げ、スキルも数々覚え、実戦経験も積んだのが一番大きく、片手だけならもう少し早く攻略出来たと思う」


「…はぁ?宰相、そんなバカな勘違いしてたのか?」


 元冒険者のギルマスにとっても呆れる勘違いだったらしい。


「失礼なことにも。にゃーこやなら手を生やすことも出来たのに敢えて義手、という所で誤解したんだろうが、義手一つで超人に変わるような万能アイテムじゃない。使い方次第では自滅するだけだ」


「強力な武器と同じようなもんだ、ということか」


「ああ。しかも、呪われた装備よりタチが悪い。どうなっても何とか出来る自信があったんだろうが、後で聞いてゾッとした」


 魔力タンク付きの義手は強制的に装着者のエアの魔力にも干渉し、魔力過多になればあちこちで結晶化し、血管に血栓が出来るように魔力が滞って身体の害になり、酷くなれば命の危険がある【魔石症】という病気になる、とエアは後で聞いてゾッとした。


 問題なかったのは、エアが着々とレベルを上げて、素の身体自体の強度と魔力耐性を上げ、じっくり魔法の訓練をしたことで魔力制御もしっかり出来るようになったからだ。


 義手をもらった時に説明されても理解出来なかっただろうが、分かり易く噛み砕いて説明することも可能だっただろうに、省略したシヴァは性格が悪い。

 そのことを聞いたのは、エアのレベルが上がったことで義手の反応速度が遅れるようになり、何度か調整してもらった時だった。


「…ってことはだな?エアと同じ義手をもらっても、使えない人も多かった、ということか?」


「使えないどころか資質の問題で死亡率が高かったから試してない。おれが最初。おれは色んな種族の血が混じってるから方が難しいとか。ちなみに、生身の手や足を生やしても、まっさらな状態で手の場合は握力もほとんどないし、足も筋肉は最低限で、足や目の場合はもう片方とのバランスが崩れる。ない状態に慣れて来ていたら尚更な。

 だから、普通に使えるようになるまでに数年はかかるし、思うように動かせないことに苛立ちダメにしてしまった人も多いそうだ。時には本体ごとな。『奇跡』を起こしまくってるのは何も善意だけじゃなく、ちゃんと追跡観察して今後に役立つ実験の方がメインだ、とか」


「…そんな裏話を聞いてしまってもいいのか?」


「別に裏話でも何でもないぞ。ヘタに話すと方々から狙われるだけの話で」


「だけ、じゃないだろ…」


 ギルマスに呆れたように言われた。


「金目のものが絡むとどうしてもリスクも高い」


「じゃ、精霊獣も何かの実験の成果でってことか?」


「いや、まったくの想定外。オーナーも驚いてすぐ来たぐらい。結果オーライだけど」


「にゃん!」


 な?と見やると、精霊獣たちも同意するように鳴いた。今の環境をちゃんと気に入ってるようで何より。


「…エアも店長と同じく規格外ってことか」


「そうくくられるのは不本意。ドラゴンとアリを比べているようなものだぞ」


「そこまで?お前もかなり強そうなのに」


「買いかぶり過ぎだ」


 どれだけシヴァが強いか、比較に出しても信じられないだろうから、まぁ、この辺までにしておく。

 プリン代ぐらいの情報は話したので話を切り上げ、エアたちは冒険者ギルドを出て市場へ。

 プリンとアイスは別腹なので。


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新作☆「番外編65 黒鷹獅子は真実を暴く!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093086543393676


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