164 猫型の大型魔物?
食休み後、再び出発。
雨なので水属性魔物が街道に出て来るものの、エアがサクサク倒すのでまったく問題なかったが、他の隊商は足止めを食らっていた。
水属性魔物はさほど強くはないが、数が多いので囲まれてしまうと中々進めないのが問題なのだ。
街道の真ん中で立ち往生してると邪魔なので、今は人を乗せてないロッソに出食わした隊商の離脱に加勢してもらった。素材がダメになるが、数が多過ぎるのでちょうどいい。
隊商はチャリング村へ行く方向だったので、馬車周りを片付ければ問題なく、後はエアがサクサク倒して行った。
離脱した隊商は礼も言わずにさっさと馬車を走らせて行ったが、そもそも、こちらを人間だと認識していたかも不明だ。
雨で視界が悪く、エアもたらたら動いてないし、相手の護衛は気配が分かる程の腕じゃなく、滅多に見かけることがない精霊獣で人を乗せている。
魔物として討伐依頼が出たら笑ってしまう。
従魔以外の魔物がそう都合よく動くワケがないのに。
「この分だとマイヤーの街に寄らなかったら、夕方にはアリョーシャの街に到着出来そうなんだけど、どうする?」
休憩の時、冷たいお茶とパウンドケーキを配りながら、エアはそう訊いてみた。
雨は悪いばかりではなく、気温が下がるので、休憩を減らしていた。それに、魔法で雨よけをしているおかげで乗ってる人も問題ないので速度を上げていたのだ。
「…え、もう、ですか?なら、マイヤーの街には寄らなくていいです。アリョーシャの街の商業ギルドでは、過労と夏バテで倒れた人が何人かいて、人手が足りないそうなので」
だから、「なるべく早く」だったらしい。商業ギルドにも通信の魔道具はあるので、救援依頼が来たのだろう。
「予定より早いと宿が準備出来てない、とかは?アリョーシャダンジョンは人気で、食材も充実してるから街も活気があるそうだし」
「その辺は大丈夫です。商業ギルド預かりの物件の一つをキープしてあるハズですから」
色々備えてあるらしい。
では、さっさと、と休憩の後は更に速度を上げ、夕方にはアリョーシャの街の防壁前に到着した。
しかし、雨でも入街審査の行列が出来ていたので、入るまでに結構待った。さすが、人気の街。
大きくなった精霊獣は目立つので、近くで猫サイズに戻り、サックスたちも合羽を着て歩いて行列に並び、待ってる間も雨よけはしなかった。ご苦労さんだったクラウンとシエロにはたっぷりと魔力を与えている。個々に雨よけといった繊細な魔法の方が魔力を使うのだ。
ちなみに、エアは雨よけのマジックアイテム利用のまま。冒険者ならさほど珍しくない。
「いい?くれぐれも誤解しないでね。こんなに速くて快適な旅なんてエアさんたち以外には出来ないから」
行列に並ぶ間も、モニカは娘のペティと息子のトランに何度も言い聞かせていた。
「もう分かったってば。精霊自体、中々姿を見せないって話でしょ」
何度も言われているペティはいい加減、うんざりして来ている。
「そうよ。この旅のこと自体、誰かに話すのもダメだからね」
「いや、別に話してもいいぞ。既に方々で姿を見せてるし、食べ歩いてるし。ただ、ペティたちが嘘つきだと言われるかもな」
「そうなの?精霊獣のことだけじゃなくて?」
八歳のペティはよく分かってなかった。
「だ~か~ら、普通はこんなに快適に旅出来ないんだってば!ガッタゴト揺れる乗り心地の悪い馬車で気持ち悪くなったりするし、腰もおしりも痛くなるし、馬車の速度もそんなに速くないのよ」
「馬車の乗り心地がよくないから、まだマシな馬で…と思ってたんだけど、それ以前に急な話で色々と重なってしまって、中々馬も借りられなかったんだよ。エアさんが引き受けてくれたのは本当に運がよかった」
「本当にそうなんだよ」
祖父母のトロンとポーニャも普通の旅がどれだけ不自由で大変なものか、雨で水属性魔物が出て来たら普通はそれだけでかなりの足止めをされてしまうし、水属性魔物は毒や酸を持った魔物も多いので怪我する人だって出るのだと、経験を話して今回が特別過ぎだと強調した。
「エアさんがすっごく強いのは分かったけど、ご飯もそんなによくないって何で?」
「調理器具も食材も荷物になるから。マジックバッグを持ってる人ばかりじゃないのは分かるよな?」
「うん。じゃあ、何食べるの?」
「マズイ携帯食か、日持ちする硬いパンや干し肉。ちょっとよくて粉末のスープぐらい」
サックスが子供たちにそう教えると、話が聞こえていた行列の前に並んでいた商人が口を挟み、旅行中の食事の悪さとサックスたちがどれだけ幸運なのかを強調した。
ついでに、エアに指名依頼を出したい、とも言われたが、断った。
Cランクなので強制力はまったくない。Bランクだと貴族絡みの指名依頼が入って来て、実質、断れなくなる。そういったのが面倒なのでランクを上げないワケだ。
そんな風に情報交換しながら待ち、暗くなる前までには街に入れた。
商業ギルドまでサックスたちと一緒に行くと、あまりに到着が早いので商業ギルド職員たちに驚かれた。
イルーオの街からだと馬車で五日はかかる行程なのだ。それを二日、出発が遅かったのでほぼ一日半。驚いて当然だった。
はいはい、とエアは依頼完了サインをもらった後、冒険者ギルドへ行き、依頼達成処理をして報酬をもらえば依頼終了だ。
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後日、『猫型の大型魔物』として調査依頼が出ていたので、エアは大いに笑わせてもらった。
すれ違った隊商とトロンの知人のオブライエンだろう。
探されるのもウザイので、エアはギルド職員に説明して、取り下げてもらった。
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