163 チャリング村でうえ~Σ(ΦωΦ)

 そして、予定通りに夕方、暗くなる前にチャリング村に到着した。

 村という名前だが、宿場町である。

 山間のこの近辺では絶対通る場所なので、自然と集落が出来、村になっていた。

 宿の数も部屋の数も多く、少しお金を出してもいいのなら選び放題だった。

 食堂が多いのも知っていたので、チャリング村とマイヤーの街での夕食・朝食分は最初から食事代に入ってなかった。昼食とおやつだけである。


 村内、街中まで護衛は必要ないので、サックスたちの泊まる宿だけチェックして、エアたちは明日の朝まで自由行動だ。


 早めの夕食時で屋台も色々出ている、となれば、当然、エアたちは食べ歩いた。ちょっと変わったその地域独特の料理もあって、面白くもあった。

 まぁ、中ではハズレな食べ物もあったが、こういった所も旅の醍醐味だろう。


 ここでは辛過ぎる味付けだった。

 アリョーシャダンジョンで香辛料がたっぷりドロップするので、馬車で四日程の村だと結構安く手に入るのだ。

 まとめ買いをするならアリョーシャの街で、だが、ダンジョンに潜る予定なので、ダンジョンで集めた方がいいかもしれない。


 精霊獣たちもちゃんとした味覚はあるので、辛過ぎた串焼きは

「うえ~Σ(ΦωΦ)」

という顔をしていて、ちょっと面白かったが、エアも眉間に皺でお互い様である。


 エアたちは宿には泊まらず、野営場所になっている空き地にテントを張った。マジックテントの方が下手な宿より豪華なのだ。

 リビングにて極上な座り心地のソファーに座り、デザートのアップルパイを食べる。

 シヴァにもらったものだ。パイ生地は中々手間がかかるので、作り方はエアも知っているが、中々作らない。


 ずっと走って来たエアだが、かなりスピードを抑えているのであまり鍛錬にならなかった。

 いつものように影の中で鍛錬し、風呂にゆっくり入ってからたっぷり寝た。


 ******


 護衛依頼二日目。

 朝食後に合流して早々に出立しようとしたが、村の門へと行くまでの間にトロンの知り合いの商人に呼び止められてしまった。

 無視するワケにも行かない相手らしい。

 エアが鑑定してみると、元貴族でそのツテがあって商売をやっているようだ。


「馬車は?馬は?護衛は…その若いの一人だけ?」


 身軽過ぎて不審に思ったらしい。挨拶はとうに終わっているようだ。宿でも会ったのかもしれない。


「十分以上ですよ。見た目に惑わされないことです。では、急ぎますので…」


「だから、トロンさん、馬車は?」


「ありませんよ。先日の雷雨の影響で手配出来なかったのです。何か不思議ですかな?オブライエンさんも忙しい時間でしょうに」


 トロンはちらりと出立の準備をしているオブライエンの後ろを見やる。チャリング村は門の側ではなく、宿の側に馬車置き場があった。行商の荷物が多い馬車が多いこともあるのだろう。


「女性やお子さんまで徒歩では大変だろう。荷物をマジックバッグに入れてくれれば、うちの馬車に乗せてやるが、どうだ?」


「結構です。確かに、マジックバッグは持ってますが、大した容量のないものしかギルドで借りられなかったのでこれ以上は無理ですし。お心遣いだけ頂いておきます」


 移動手段のことを言わないのは、エアに気を使ってのことだろう。

 今更なので別にいいのに。 


「雨が降りそうだから、さっさと出発するぞ」


 黒い雲が見えて来たので、話を切り上げる口実でもなかった。

 エアはそう言って精霊獣を促して大きくなってもらい、ここからもうサックスたちを乗せて行く。


「…はぁっ?何だそれは…」


 オブライエンがぐだぐだ何か言っていたが、スルーしてさっさと出発した。

 昨日も交替交替にしていたが、今、猫サイズでフォロー役なのはロッソとシエロ。

 エアも昨日同様、先頭を走った。




 黒い雲が流れて来るより速く移動していたが、休憩しないワケにも行かないのでやがて追いつかれた。

 しかし、土砂降りとまでは行かず、水の精霊獣のクラウンと風の精霊獣のシエロが協力してサックスたちの雨よけをしてくれたので、濡れないし、風圧も軽減されている。精霊獣たちは元々問題ない。

 エアは雨よけのマジックアイテム使用中。視界が悪くても索敵も出来るのでまったく問題なかった。


 今日は一日中雨のようで、雨足が治まって来ても、ポツポツと降ったままだったので、休憩時はエアが大きい天幕を張り、吹き降りだったので魔道具でも結界を張った。

 まぁ、それでもトイレの時は別行動になるが、合羽は持っていたのでそう酷く濡れることはなかった。



 お昼ご飯は三色丼と根菜の味噌汁にした。

 魚のオイル煮、少し甘い玉子そぼろ、青菜炒めの三色で、魚のオイル煮は保存食でたくさん作ってあったものなので手間なし、濃い目の味付けはご飯が非常に進む。


「海の魚…ダンジョンですか?」


「そう。あるダンジョンで魚獲り放題のフロアがあって。まぁ、命がけだけど」


「…ですよね」


「え、これ、魚なの?骨は?」


「なし。ドロップの切り身で作ってるから」


 ダンジョンドロップは料理し易い状態で出て来ることが多い。

 骨ごと食べられる圧力鍋で煮たオイル煮もあるが、詮索されそうなので出さなかった。

 食べ始めると、かなり気に入ったらしく、食べるペースが上がっていた。


 デザートは魚つながりでエビせんべい。

 エビの頭と殻で出汁だしを取った後、捨てるのは勿体ないのでカリッカリに焼いて粉にして、小麦粉と混ぜて出汁で味付けして焼いたものである。

 たまにしょっぱい物が食べたくなるし、カルシウムも摂れて一石二鳥。もちろん、美味しい。

 本当にエビは捨てる所がない。


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