162 おやつ付きの快適な旅
空き地を見付けたのと様子見を兼ねて、最初の休憩は一時間後ぐらいにした。
馬と違い、揺れないので酔ってる人間はおらず、速度酔いもなかった。
エアは大きいテーブルと人数分の椅子を出し、一家に冷たい果実水を木のコップに入れて配った。お茶菓子はクッキーで。
エアと精霊獣たちは別テーブルである。全員猫サイズに戻った精霊獣たちに、わしわし撫でながら魔力を与えた。
「…ええっと、報酬、安過ぎでしたね…追加しましょうか?」
一家の主であるサックスが依頼主で、そう申し出た。
「別にいい。移動ついでだし」
「…もう馬車に乗れないかも…」
苦笑混じりに祖母のポーニャが言う。
「こんな快適な旅って…ああっ!ダメよ!ペティ、トラン、誤解しないでね!今回が特別なだけで、普通はもっともっと苦労して旅するんだからね!テーブルとか椅子とか冷たい飲み物とかあっさり出て来ないから!」
子供の教育に悪いと思ったらしく、サックスの妻のモニカがそう弁明した。
「他の冒険者にも無理だからな…っていうか、エアさん、ずっと走っていたのに息切れもしてないんですが…」
祖父のトロンが補足し、エアの状態に気付いて驚いていた。
「この程度で息切れしてたら、とうに死んでる。いつもよりペースもかなり落としてるしな」
うんうん、と一緒に鍛錬している精霊獣たちも頷いた。
「冒険者って、そんなに厳しく鍛えてるものなんだ?」
八歳のペティがそう訊くと、
「いやいやいやいや…」
と即座に否定された。六歳のトラン以外の大人四人から。
「強い冒険者は鍛えてる、が正解だな。特にダンジョンでは過酷な環境で体力勝負な所もあるから」
「ランクは関係ないの?」
「ランクは敢えて上げてない冒険者も多いからな。おれも含めて。メリットがないし」
「そうですよね。貴族関係で面倒なことになったケースも多いですし」
精霊獣を連れてる所からして、サックスは予想はしていたらしい。エアの能力に関して、予想外だっただけで。
そういえば、一ヶ月ちょっと前にとうに面倒なことになってたな、と思い出したエアだが、黙っておいた。ランクを上げたらもっともっと面倒だったことだろう。
「え、でも、自慢になるでしょ?Bランクまで上がる人ってほんの一握りって聞くし」
「ランク自慢する人程、弱いっていうのは定説だぞ。他に自慢出来ることがないワケだ」
「…そう言われてみるとそうかも」
「…あっ!何で氷入ってるの?」
そこで、ようやく気付いたらしい六歳のトランがそう訊いた。
「入れたから」
「…エアさんの氷魔法だよ。食べられる氷を出すのは難しいハズなんだけど、さらっと無詠唱でやってたね…」
サックスがそう答えた。
「すごいんだね?」
「かなりね」
「何で食べられるって分かったの?」
ペティがそこを疑問に思ったらしい。
「鑑定スキル持ちだから。お父さんならもっと詳しく分かるんじゃないかな。年の功だけあってレベルが高いから」
トロンはサックスの父親だったらしい。
「いや、食べられる氷自体、あまり見たことないからな。普通の食べ物ならともかく」
それはそうだろう。
まぁ、もう少しスピードを上げても問題なさ気なので、休憩の後は走る速度を上げた。午後はもっと暑くなるだろうから、こまめな休憩が必要になるので、もう少し距離を稼ぎたかった。
サックスたちも熱中症対策に塩飴は持って来ていたし、水筒もしっかり手元に持っているが、乗りながらでも補給を、とは中々行かない。精霊獣に乗るのは揺れは少ない方だが、動いているのでどうしても、掴まっている必要がある。普通の筋力と反射神経しか持ってない人たちなら尚更だ。
次の休憩で早めのお昼にした。
大勢いる時に手軽な料理はスープ類だが、丼ものや自分たちで焼く鉄板焼き肉でもいい。
子供がヤケドしそうなので、焼き肉はやめて焼きそばにした。
中華麺はまだ作り置きがあるので、後は肉と野菜を切って炒めて味付けするだけである。キーラの街で知った味噌味で甘めの味付けだ。
精霊獣たちも手伝ってくれようとしたので、ヘラでかき混ぜ係、火の番を頼んだ。食材を刻むのは慣れてるエアの方が速いので。
細長いコッペパンも付けてソーセージも焼き、焼きそばパンとホットドッグも楽しめるようにしてみた。野菜が少し足りないので、野菜と卵のあっさりスープもさっさと作って付ける。
野外でこんなにちゃんとした料理が出て来るのは予想外だったようだが、みんな遠慮なく食べた。美味しいのは正義だ。
デザートはシャーベット。濃い味付けの後にあっさり涼しく。満足してくれたようで何より。
昼食後の進行速度は少しペースを落とす。
エアはまったく問題ないが、食後に揺られると気持ち悪くなる人もいるだろうから、だ。
エアは【地図スキル】で街道沿いの空き地の位置は分かるので、いい感じに休憩しつつ進んだが、まったく魔物が出て来なかったワケじゃない。
先頭を走るエアがさっくりと討伐していただけだ。
足を止めたくないので、食べられる魔物は時間停止収納へ、そうじゃない魔物は影収納へとしまっていた。処分は後で、である。
また出すのも面倒なので、ある程度、まとまったら影収納の中でロッソに高火力で燃やしてもらえばいい。
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