商業ギルド職員家族の超快適な旅

161 精霊獣たちがダメならあいにくと、で

 エアは三日間、ラーヤナ国王都フォボスにある『ホテルにゃーこや』で研究、温泉、遊び、鍛錬に費やした後、再びイルーオの街に来て、また護衛依頼を受けることにした。


 ここは交易の街なので、護衛依頼も多い。

 アリョーシャの街に行きたいが、急いでいるワケでもないし、ルートの様子も知りたいので。


 しかし、先日の雷雨で冠水箇所がいくつか出来、今もぬかるんでいる箇所もあって遠回りを余儀なくされて遅れた、大雨で破損して物流も滞ったので、急ぎの護衛依頼が多かった。

 馬には限りがあるので、馬、騎獣持ち、マジックバッグの容量に余裕がある冒険者にとっては、割のいい依頼が目白押しだった。

 多少損しても、挽回しないとならないからだろう。


 歩きの護衛は先日やった所なので、それ以外、しかし、他の冒険者たちと合同で受けるのも、また食事の世話をしないとならなくなりそうなので、ギルド職員にエアだけで受けられる依頼を探してもらった。

 目的地がアリョーシャの街で。

 ソロでも結界魔道具持ち、猫型精霊獣が六体もいるので、厳密にはソロ扱いになるかどうか、だが。


「なるべく早く、で護衛人数は六人、うち女性が二人子供が二人。仕事の都合での引っ越しで祖父母両親子供の三世代ご家族です。

 馬車も馬もこれから借りる所ですが、先日の雷雨のせいですぐに借りるのは難しいかと。これがネックで報酬はよくても中々引き受ける方がいません。ちなみに、大人四人は商業ギルドの職員の方です」


 一家で職員なのでちょうどいい、と人員補充の際に選ばれたのだろう。

 費用も商業ギルド持ちだろうから、左遷ではなく、栄転だ。身元を教えたのは、便宜を図ってくれるかも、ということか。


「精霊獣がいるのなら何とかなるかも、と?でも、おれ以外の人間を、乗せてもいいのか?」


「にゃ?」


 精霊獣たちは揃って首をかしげた。人による、らしい。


「え、乗れるんですか?」


 精霊獣なら魔法で何とかなると思ったらしい。


「おれはな。他の人は人によるらしいから、一応、会わせてくれ。精霊獣たちがダメならあいにくと、で」


 影収納はバレたくないので、どこからか馬を連れて来る、というのも却下だ。


「分かりました。出発はいつでもよろしいのですか?」


「ああ」


「では、一時間後にまた来て下さい」


 メッセンジャーを依頼主に送るのだろう。

 朝の混雑が過ぎた後なので、遅めの出発になるが、馬車ならどうせ今日は野営だ。

 エアたちは市場へ向かった。食材をいくつか足すついでに、食べ歩きする。

 先日、大量買いしたのを覚えていてオマケしてくれた。



 そして、一時間後。

 すっかり旅支度を整えた一家が商業ギルドの応接室で待っていた。

 荷物の大半はマジックバッグだ。商業ギルドで借りてるのか、代々伝わってるのか、頑張って買ったのかは知らないが、身軽に動けるのはいいことだ。

 お互い簡単に自己紹介する。


 精霊獣たちは「うん、まぁ…」という微妙な感じで頷いたので、一応合格らしい。

 精霊獣たちにも鑑定スキルがあるそうなので、鑑定したのかもしれない。


 では、と依頼を受注して打ち合わせをした。

 精霊獣での移動は速いが、乗ってる人間に負担がかかるので、馬車だと六日の所、三日でアリョーシャの街に行けるぐらいのペースにする。間にチャリング村、マイヤーの街があるので、そこで宿泊。

 二泊三日の行程ということだ。


 冒険者たちのように大食らいではなさそうなので、「食事はこちらが作る」と申し出ると、「それは助かる!」と二つ返事だったので一食銀貨2枚、飲み物とおやつは銅貨5枚で請け負った。子供には尚更マズイ携帯食はキツイので、即答快諾なのだろう。


「一応、言っとくが、おれと精霊獣たちは主従関係があるワケじゃなく、仲間。使い魔契約も双方合意しただけのゆるいものだ。嫌になれば、一方的に破棄出来る。何百年も生きてる存在にはそれなりに敬意を払うように」


 前回、「火影ほかげの刃」のランガルにあなどられたので、打ち合わせの最後に注意しておいた。


「それはもちろんです」


 けいい?と首をひねってる、六歳の子供に父親が説明した。


「礼儀正しくして下さい、ってことだよ。乗せて頂く、であって乗れて当然じゃない。そもそも、素養のない者には見えないし、滅多に姿を現さない精霊、しかも、格上の高位の精霊獣なんて、見れるだけでもかなりすごいことなんだ!」


 …内心、何だか興奮し感動もしていたらしい……。


「キレイな猫ちゃんじゃなくて?」


「精霊獣。門の外に行けば、すぐ分かる」


 だいたいの所は打ち合わせたし、今すぐ出発出来るそうなので、商業ギルドの外へ出て、門の外まで歩いた。

 街中で馬、騎獣を乗るのは許可がないと出来ない。ルールを知らないと危ないので。


 誰が乗せるか、歩く間に決めて、最初は金目真紅の火の精霊獣のロッソ、金目水色の水の精霊獣のクラウン、金目銀色子猫型の光の精霊獣のルーチェ、金目金茶トラ柄の土の精霊獣のロビンが乗せることになったので、門の外に出ると揃って体長3mぐらいに大きくなった。

 大きくなっても虎や獅子のように凛々しくなるワケでもなく、変わらず猫型で、子猫型のルーチェも耳が大きい子猫型のまま、大きくなっている。

 つまり、大きい子猫という矛盾した感じだ。可愛いが。


 依頼主一家は父親…サックスと六歳の男の子…トランがロッソに、母親…モニカと八歳の女の子…ペティがクラウンに、祖父…トロンがルーチェに、祖母…ボーニャがロビンに、という組み合わせになっている。


「うわぁあああ…」


 精霊獣たちがこんなに大きくなるとは思わなかったのだろう。

 キラッキラした目で見ていた。

 サックス一家全員だけじゃなく、防壁門の警備兵たち、通りすがりの人たちも。


 はいはい、とエアは適当に流して、さっさと乗せて、さっさと出発した。

 緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータと金目ブルーグリーン猫型の風の精霊獣のシエロは猫サイズのまま、乗ってる人間を落とした場合のフォローに回るので後方を走る。

 ペースメーカーと鍛錬ついでにエアは精霊獣には乗らず、先頭を走った。


 露払いの役目もある。

 馬車と比べられないぐらい速い速度なので、他の馬車や歩いてる人たちにぶつからないよう、というのもあった。

 その時は飛んで回避すればいいが、飛べることまでは教えたくないので、あくまでジャンプの域に抑えたい。





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狭域地図を新しく作成しました!

【狭域】https://kakuyomu.jp/users/goronyan55/news/16818093086413059497

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