第9章・料理が豊富なアリョーシャの街

165 頭の弱い連中で山を作る

 食材も調味料も豊富なダンジョンが側にあるアリョーシャの街は、その冒険者ギルド併設の食堂の料理も美味い。

 その評判を知ってるエアと猫サイズの猫型精霊獣たちは市場へ行く前に冒険者ギルドの食堂へ行き、まずは軽くおすすめを頼む。

 夕食にはまだまだ早い時間だが、仕込みは終わっているそうで、本日のおすすめセットは魚のフリッターだった。

 評判通り、甘ピリ辛のソースとよく合い、ぱりぱりとした衣もよく、かなり美味しい。

 ん?


「なぁ、そのプリン、ここのメニュー?」


 すぐ側の席に見慣れたプリンを食べてる冒険者がいたので、エアは思わず訊いた。

 何かを頼めば、ギルド併設の食堂は持ち込みをしてもいいので、持ち込みじゃないかどうかの確認だ。


「おう。珍しいだろ。アリョーシャダンジョンで新鮮な食材が簡単に手に入るからこそだ。市場の方にちょっと高いけど、アイス屋もあるぞ」


「それは楽しみ」


 教えてくれた気さくな冒険者に礼を言って、さっそくプリンを人数分…一人と六体分頼む。


「その猫型のって使い魔…いや、精霊か?」


 プリンのことを教えてくれた冒険者が興味あったらしく、そう訊く。


「精霊獣の使い魔」


「じゃ、お前、ハーフエルフなんだ。その目でキレイな顔立ちしてるし」


「いや、違う。知ってる限りの親族にエルフはいない。いても、かなり遠そう。よく訊かれるけどな」


「そうなのか。この街には来たばっかり?」


「ああ。何かおすすめの店や宿屋があったら教えてくれ」


 ついでに、情報を仕入れてみた。

 シヴァがしばらく滞在していた街で今もたびたび来るので、タブレットにかなり詳しい情報が入っているが、逆に詳し過ぎて絞れないこともあって。

 そこに、ガタイのいい連中が近寄って来た。


「ああんっ?何かなよっとした女みたいなのがいるなぁ?」


「変なケモノ連れてるしぃ」


「ギース、新しい『カノジョ』かぁ?」


 ギャハハハハッ!と下卑た笑いが起こったが、途中で途切れた。


 アホ絡みして来たバカども三人は、緑目夜色子猫型の影の精霊獣のニキータと、金目金茶トラ柄猫型の土の精霊獣のロビンと、金目銀色子猫型の光の精霊獣のルーチェがかるーくアゴをかすめるよう猫パンチして、脳震盪を起こさせて沈めていた。

 それをエアが拾って食堂の椅子や机を巻き込まないよう、廊下の壁際にぽいっと放り投げておく。邪魔なので。


「随分と頭の弱い奴がいるんだな」


 高速移動したので、見えた奴はほとんどいない。

 エアはニキータとロビンとルーチェを撫で、怪我させなかった所を内心褒めた。まだ短い付き合いだが、エアの方針は分かっているらしい。

 周囲の人間は「何だったんだ?」と「さぁ?」というやり取りをしている。


「…たまにな」


 ギースが苦笑混じりに答えた。

 エアたちが何をやったか見えた例外なのが、このギースだ。おそらく、ソロのCランクだろう。


「ああ、申し遅れた。おれはエア。ソロのCランク冒険者だ」


「ギースだ。おれもソロ。Bランク」


 おや、ハズレた。

 面倒なので敢えてランクを上げないタイプかと思ったのだが、何らかしがらみがあったらしい。


「Bランクなのに、何であんな連中に気安く呼び捨てされてるんだ?…ああ、ランクを知らないとか?」


「多分。どこまでつけ上がるのかと、密かに賭けになってて」


 なるほど。道化として人気なのか。


「誰も教えない人望のなさも面白いかもな」


「賭けるか?一口銀貨から」


「やめとく。ダンジョンに籠もるつもりだし」


「長期で籠もる程の難易度じゃないぞ。深層以外は。……ああ、食材目当て?」


「もちろん。24階の海フロアのドロップ、魚丸ごとが出るって聞いたし」


 一番の目当てである。

 イクラやたらこをたくさん集めたい!

 シヴァからもらってその美味しさと料理の豊富さにハマったが、ビアラークダンジョンの海フロアでは出ないのである。

 切り身か小さい魚なら丸ごとだが、鮭やタラは切り身だったので。ウニもサザエもアワビも帆立貝もいい!


「え、ソロで攻略する気満々なんだ?」


「一応な」


 目的は攻略よりもダンジョンエラーだ。

 フロアボスは行列が出来ているようだが、ドロップがいいらしいので試したい。


 アリョーシャダンジョンの浅層は初心者向きなので、初心者も駆け出しも、順調な稼ぎに調子に乗り始めた冒険者たちも流れて来る。

 そういった連中は見る目がないので、『外見は駆け出しが多い十五歳前後、細身中背ソロ、カラフルな猫を何匹も連れてる』となると格好の獲物に見えるらしい。

 パーティの勧誘や自慢話の聞き要員ならともかく、ちょっと脅して金を巻き上げるカツアゲ、上手いこと騙して色街に売ろうとする輩、猫さらい…とフラチな連中も寄って来るワケで。


 結果、廊下にフラチな連中が積み上がった。


 人が多い時間帯はこれだから、なるべく避けているのだが、初めて来る街なので少し情報収集、と思っただけなのに。

 廊下に積み上がっているのは何だと思っているのやら。

 …ああ、人が多いのでエア関連だとは思わないのか。テーブルや椅子、人を巻き込まないよう気を付けてることもあって。


「…お前、マジで強いな…」


 ぶっ飛ばされる連中をさかなにエアの周囲の席で面白がって飲んでいた連中も、どんどんどん引きになって来た。


「この程度で判断して欲しくない所」


 そこそこ情報は仕入れたので、これで引き上げることにした。

 性懲りもなく、立ちはだかる連中も出たが、エアは蹴倒して踏み付けて行く。

 しみじみ改めて容姿で舐められるのにうんざりする。

 七月に入り、暑い日も増えて来たので、色付きゴーグルをしていなかった。

 エアジェットブーツの認識阻害は身体全体なので、顔の印象だけ曖昧にする認識阻害仮面をシヴァに売ってもらおうか。便利そうだ。


 …いや、タブレットを検索すれば作り方が載ってるだろうし、自分で作れるかも?…と言っても、自分で作って自分で試すと効果がよく分からないのがネックだ。

 冒険者ギルドの後は、街の外に出てダンジョン側の影の中にマジックテントを出して泊まった。




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