144 報酬に投げナイフ詰め合わせ

 ちゃんと見比べよう、とエアは『ホテルにゃーこや』で泊まってる部屋の広いリビングにて、今まで使っていたマジックテントと、さっきクリートダンジョンでドロップしたばかりのマジックテントを並べ、中身をもっとしっかりと検分した。


「んん?ソファーの座り心地が違う…そっくりなのは見た目だけか。…ということはベッドも?」


 座り心地がいいのは使ってる方のマジックテントのソファーで、ホテルのソファーと同じ作りのように思える。

 こういった検証が大好きなシヴァに連絡すると、今度は本体が来た。


「遠出してるんじゃなかった?」


「こんな楽しいことはおれがやりたいんで交替。写真撮って記録していい?」


「ああ。構わない。分解しても…っつーか、アイリス、いい家具の方がいいだろ?入れ替えるなら持って行っていいぞ」


「そりゃ助かる」


 後日のつもりだったのだが、シヴァは家具も収納に入れてるらしく、さくさくと交換して行った。形は似ていても遥かに快適な高品質さだ。


 エアには違いが分からなかったが、給水給湯設備や冷蔵庫、オーブンも微妙に違い、元にしている知識が古く効率が悪いらしい。

 …と言っても、王都から遠い街や村ではいまだに井戸を使っている所が多いし、富裕層が使っている給湯給水設備ももっとつたない技術で、普及している魔石オーブンよりは技術が新しい、のだとか。

 つまり、最先端ではないが、新しめ、ということで普通に使えるし、アイリスも問題ないので、そのままでアイリスに譲る。

 

 エアのマジックテントもしまい、【精霊の腕輪】【レッサードラゴンの干し肉】の大半をシヴァに譲り、報告は口頭でした。Cランクのオークジェネラルの魔石はシヴァはいらないだろからエアが使う。


「『難易度の低いダンジョンでのエラードロップ検証』の報酬はどうする?覚えてない魔法のスクロール詰め合わせとか?」


「どれだけ魔法を覚えさせたがってるんだよ。そう一気に覚えても中々使えないだけだろ。結界魔法を教えてもらったばっかだし。

 …あ、そうだ。投げナイフ詰め合わせが欲しい。【切れ味強化】の付与はこっちでするからそれなりの素材で1000本」


 付与魔法の練習にもなっていい。


「ダンジョンエラー狙いで使うのか。そりゃ面白い。ダンジョンボスは難しいにしても、フロアボスなら十分倒せそう。鞘やケースはなしでいいな?」


「もちろん。どんな苦行だよ」


 鞘から1000本も抜きたくないし、ケースもいらない。収納から直接出すのでホルスターもいらない。


 五分もせずに用意出来たらしく、転送されて来た。シヴァの仲間のダンジョンコアが用意したのだろう。品質も問題ない、どころか、かなりの高品質。なくさないようにしよう、とすぐに収納にしまった。

 じゃ、また、と交換した家具の解析が早くしたいらしく、そそくさとシヴァは転移して行く。


「それにしても、お兄ちゃん、あんなに短時間でダンジョン攻略したんだよね?」


「おう。低ランク向けというか、駆け出し向けだった。ダンジョンボスもオークジェネラルだし。中規模ダンジョンなら10階ぐらいで出て来る魔物」


「…はい?そんなに難易度低かったんだ?」


「そう。手下を十二匹引き連れててもただのオークだったし。普通のドロップも超しょぼい。安くしか売れない毛皮とか牙で、よくてMPポーションで。だから、エラードロップとはいえ、マジックテントは難しいかと思ったんだけどな。おれの持ってるマジックテントは全60階のエレナーダダンジョンのボスドロップだから、全20階の駆け出し向けダンジョンの割には相当いいドロップってワケ。家具や調理道具の質が落ちてたとしても」


「マジックテント自体、中々出ないんだよね?」


「ああ。外観より内部が広い程度はまだ多いようだけど、バス・トイレ、キッチン付きでリビングや寝室まであるのは国宝レベルだろうな。作れる錬金術師も滅多にいないようだし」


「…国宝をくれちゃう兄がいるんですが…」


「鑑定偽装もしといたから、まず大丈夫。そもそも、それ言ったら通信機能付き時間停止の収納バングル、イヤーカフの方は伝説級、四大精霊の精霊獣なんて神話級かも、だし」


「……そうですね」


「まぁ、細かいことなんか気にすんな」


「気になるって~今更は今更でも~」


 自分で折り合いを付けるしかないのでアイリスは放って置き、では、とエアは投げナイフの付与を始めた。

 やがて、アイリスも割り切り出したのか、内装を自由に出来る魅力に負けたらしい。

 目をキラキラさせつつ、部屋の内装案を色々書き、その後は色々とサイズを測り、キーラの街で大量に買ってあった布を裁断し、縫物に取り掛かっていた。布団カバーやソファーカバーといった大物を変えると、かなりイメージが変わることだろう。

 楽しそうで何より。


 しばらく、それぞれ作業に没頭していると、そこにピンポーンと部屋のインターフォンが鳴った。ルームサービスや従業員に何か頼んだ時に鳴らすのだが、今は何も頼んでないハズだ。

 何だろう?とエアは室内モニターのボタンを押すと、モニターにスーツタイプの制服を着た従業員の姿が映し出された。


【おくつろぎの所、失礼します。フレドリクソン・フォン・コーディフェイト様がお時間があるなら、一緒にお茶でもどうか、とのことです。よろしければ、アイリス様もご一緒にと。どうされますか?】


「相手はフレッドと護衛だけ?」


【いえ、お姉様のカリーナ様もご一緒かと】


 フレッドたちだけならともかく、面倒なことになりそうだ。


「断っといて」


【かしこまりました】


「あ、待て。アフタヌーンティーセット八人分、部屋まで持って来て欲しい。紅茶で」


 そろそろ、おやつ時間か、と気付いたので、ついでに注文しておいた。





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新作☆「番外編64 遅牛(おそうし)でも早牛(はやうし)でも『ぎゅうー』っとしたい」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093085391324661


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