135 これ以上、ここでの手合わせはご遠慮下さい!

 エアと精霊獣たちは40階へ行き、エアは手を出さず、精霊獣だけでラウンドボーンドラゴンを倒した。

 精霊獣だけで倒すというのもエラーになるかと思ったのだが、あいにくと、ダンジョンの想定内でエラーにはならなかった。

 精霊獣というのは珍しくても、契約していると使い魔のくくりになるからかもしれない。


 ドロップは魔石と宝箱が一つ。宝箱の中には濃い紫色の液体が入った小瓶。

 エアは【鑑定モノクル】をかけて鑑定する。


【特定解除薬・呪いと石化を解除する霊薬】


 び、微妙……。

 いや、でも、聞いたことがないので高く売れるかもしれない。

 石化解除ポーションは普通に売ってるが、すべての石化が解除出来るワケでもない。呪いの方はそれこそ、千差万別なので、どこまで効くかも分からない。

 まぁ、色々と薬を開発しているシヴァは喜ぶかもしれない。

 何か美味しい食べ物と交換してもらおう。


 エアたちも影の中のマジックテントに移動し、遅めのおやつにした。

 その時、ニーベルングの街に寄るか聞いたが、そんな気分じゃないそうで。

 アンデッドのデロデログログロを見た後で、おやつは普通に食べていても。


 では、ホテルに帰るか。

 転移ポイントを設置したバロンも帰りは影の中のマジックテントに移動したが、精霊獣たちはエアと行動するのが楽しいらしく、エアの側で一緒にいることになった。


 エアとニキータが協力することで影転移の距離も伸びたが、何度か繰り返すうちに熟練度も上がったらしく、低魔力でより遠く移動出来るようになった。

 共鳴、なのだろうか?この辺も検証したい所である。


 依頼報酬があるし、ただでさえ持て余しているのでエアと精霊獣たちがダンジョンで得たエラードロップ以外のドロップ品はリミトたちにあげたので、ホテルがあるフォボスの冒険者ギルドに寄ってもよかったのだが、いくら、色んな人がいる王都でもまとまった量で買取に出すと目立つので、とりあえず、シヴァにどのぐらならいいのか、そのアイテムは出すのを控えた方がいいのか、を聞いてから、になった。



 連絡すると、すぐにシヴァが転移して来たが……。


「分身、の方?」


 シヴァが【影分身】を使えるのは多機能ツールの【タブレット】で知っているが、その分身をエアは初めて見た。


「よく分かるな。どこで分かった?」


「高濃度の魔力ばっかな所。本体だともう少し上手く隠してる」


 分身は感じがするので、本体と間違えようがなかった。


「あーそれはあるかもな。能力的には本体と変わらねぇんだけど、分身体の組成は研究途中だし。本体はちょっと遠出中」


 まず、シヴァは、ロビーに作業机を出し、ドロップ品の選別をし、ロビンに送迎を頼んで冒険者ギルドへとリミトとサーシェを送り出した後、エアは【特定解除薬】と魔石をたっぷりな食材や料理と交換してもらった。


 そして、引率依頼の報酬の【結界魔法】のスクロールをもらって覚え、エアの水中装備の強化方法をシヴァに色々と教えてもらった。

 人体は浮くのが仕様なので、重りを付けた方が動き易い、というのは目から鱗だった。なるほど。


 更に、結界魔法は水中でも使えるし、強化した水中装備の具合を確かめよう、結界魔法も実戦で覚えよう、とホテル地下の海にて軽く手合わせ。

 ちょうど海にも海辺にも客がいなかったから、やれたことだ。そうじゃないと、余波で巻き込んでしまう。



 エアの結界は魔道具で張る結界を元にしたが、シヴァの結界は全然性質が違っていた。

 短時間でも長時間でも物質化している、という所が大きく違う。魔法障壁のような物質化してない結界だと、張ってからもずーっと魔力を食う。シヴァの物質化結界は最初は魔力を食うが、保つ必要はない。つまり、長時間になればなる程、省魔力。


 しかも、長時間保つよう魔力を込めた物質化結界なら時間停止じゃないマジックバッグや影収納に入れておいても、使いたい時に魔力なしで即使えるのだ!そこが大きく違う。


 更に、耐物理耐魔法、防音、防臭、断熱、等々の付与も錬金術での加工も出来て、許可ありの者とない者を判別して弾くことも出来る使い勝手の良さ!


 これは是非とも覚えたい!とエアはシヴァにイメージ方法を事細かに聞き、【鑑定モノクル】を使い、手で触ったり攻撃したりしても分析し、強力な攻撃でも壊せない頑丈さとは?と色々考えて実践実戦し、咄嗟に盾のように結界を張って使うことは出来るようになった。

 まだまだ全然防御力は改善の余地ありだが、咄嗟に結界が張れるようにはなり、盾スキルの【シールドバッシュ】と併用すると、かなり防御力が上がる。


 ……まぁ、強化したばかりの水中装備がまたボロボロになってしまったが、得たものは大きい。

 朝と同じく、ぷかーっと力を抜いて海上を漂っていると、どこからともなく声が聞こえて来た。


【いー様!エア様!これ以上、ここでの手合わせはご遠慮下さい!数日単位でお客様を入れられなくなりますので】


 いー様?


「おれ。シヴァの分身一号って意味」


『なら、一号でよくない?犬ゴーレムの一号がいるから?』


「ぬいぐるみフェンリルな。他の人に聞かれた時に差し障りがあるだろ。愛称だと思われるような呼び名の方がいい。い、ろ、は、に、ほ、へ、と…と続くんで順番も分かり易いこともある。まぁ、おれらの故郷の数え歌だとな。本体はゼロ」


『ふーん。たしなめたのは誰?』


「ここの管理者。フォボスダンジョンのダンジョンコア、フォーコ」


 へー。

 鑑定偽装までしてあるここを『あくまで地下』だと言い張るのはやめたらしい。

 周囲は大嵐が数個同時に過ぎ去った後のような荒れ具合だったが、フォーコがせっせと修復しているらしく、どんどん元通りになって行く。

 声に出すのもだるいエアは、思念通話で答えていた。【回復リング】で傷と体力と魔力は回復して来ているが、精神的疲労は中々なくならない。


 シヴァの分身『いー』は、余裕綽々、サーフボード型結界に乗り、エアの側で楽しそうに波乗りしていたりする。樹脂製のサーフボードならエアも遊んだが、かなり楽しかった。やってみるまでは何が楽しいのか分からなかったが。


 動くのもまだだるいので、デッキチェアまで影転移し、水分を飛ばし【クリーン】をかけてから【チェンジ】で装備をTシャツハーフパンツ、スポーツサンダルといったラフで涼しいものに着替えた。

 水中装備の修復をまたしないとならない。

 装備の強化はこのぐらいが限界だろう。これ以上は動き難くなってしまう。

 今後は結界も活用して防御力を強化して行くべきだろう。


 邪魔にならない所で見学していた精霊獣たちは、エアが無事でホッとしたらしく集まって来てすりすりして来た。火の精霊獣のロッソがビーチ担当のにゃーこに頼んで、飲み物を持って来てくれたので、有り難く頂く。


 改めて考えてみなくても、この『ホテルにゃーこや』の客の中で、ここじゃないと出来ないことをしまくり、一番有意義に楽しんでいるのはエアだろう。

 転移ポイントを置いたことで、移動もかなり速く出来るので、他の街に行った後もたびたび遊びに来よう。せっかくの無期限VIPパスだ。


 精神的疲労もなくなったら、精霊獣たちも連れて大浴場に影転移し、アイリスの部屋にいたルーチェも合流して、露天風呂を楽しんだ。

 精霊獣同士は何らか意思疎通手段があるらしく、アイリスの護衛についていたルーチェとお互いの今日の出来事を話しているような素振りがあった。引き継ぎの情報共有というのもあるのかもしれない。



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新作☆「番外編63 黒鷹獅子は高みを目指す!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093084867975468


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