第3章・温泉と美味しい料理のキーラの街
053 思わぬ所で認識阻害効果を確認出来た
あんこを入れたパンも作りたいが、その前に、キーラの街へ行こう。
エアはマジックテントや石窯を片付けると、影収納の中から出た。
そして、改良エアウォーク…じゃなく、エアジェットブーツに魔力を流し、今まで通り歩けるのを試した後、ジェット機能を使ってみた。
危ないかもしれないのでそんなに上空には行かず、すぐ受け身が取れるよう備えて。
速い!
内臓がぎゅーっと進行方向とは逆に追いやられるような感覚、徐々にスピードを緩め、色々試してコツを掴む。
認識阻害は意識するだけでスイッチが入るようだ。
これは練習の必要はないが、傍からはどう見えるのだろうか。
シヴァが改良しただけあって、消費魔力がかなり減っていた。りんごぐらいかかっていたものが、米粒ぐらいに。
こんなに改良出来るのは、シヴァはダンジョンよりすごい技術を持っている、ということではないだろうか。作れない物はあっても。
本当に一体、何者なんだろう?
疑問には思うが、人間味があり過ぎるので、精霊の類ではないことは確かだと思う。
******
スピードアップが出来たので、山に登るのも速かった。
キーラの街は山間にあり、不便な立地でなければ、もっと栄えていたことだろう。
キーラの街へと続く山道は整備がそこそこされていても、雨で地盤が緩み、そこに馬車が通れば、穴が空く。
穴に車輪がハマって立ち往生する馬車がいそう…と思った所で、正にそんな馬車を発見。
幌の付いた荷馬車で、護衛の冒険者が押して穴から車輪を出そうとしても荷物の重さと、穴の中の何かにひっかかっているのか、中々脱出出来ない。
「手伝おうか?」
エアが側に降りて声をかけると、冒険者たちも商人たちも戸惑ったかのように周囲を見回していた。
……そうか。認識阻害のせいか。思わぬ所で効果を確認出来た。
エアは木の後ろに移動してから認識阻害をオフにして、出て行く。ゴツイフレームの色付きゴーグルは装着している。
「助かるが、何か引っかかっているようなんだ」
「じゃ、そのまま少し持ち上げててくれ」
エアは土魔法で穴を埋める。ひっかかっていた石は収納した。
「魔法使いだったのか!助かった!」
「どういたしまして。魔法は少し使えるって程度だけど」
エアはそこは訂正しておく。
「でも、詠唱なしで魔法使えるってすごいって!」
若手商人がそんな風に褒めるが……。
「詠唱?」
「…え?」
「ああ、冒険者は見よう見マネで魔法を覚えた人が多いから、長ったらしい詠唱する人の方が珍しいって」
「無詠唱もそこそこいるよな」
護衛の冒険者たちが言う通りである。魔法名を言う方がイメージし易いというのが一般的のようだが。
お礼にと一食分程度…銀貨2枚をもらうと、エアは隊商より先に行く。坂道なので、どうしても馬車の方が遅いし、通りすがっただけで一緒に行くのも何なので。
エアは後方が見えなくなった時点で、再び空に跳び上がる。ぐねぐねと蛇行している山道なので空から突っ切った方が早い。
入街審査で並ぶことはなく、ギルドカードを見せただけで、すぐキーラの街に入れた。
「おすすめの宿は?少し高くても温泉ありがいい」
警備兵ならいい所を知っているかも、と訊いてみると、親切に色々と教えてくれた。観光案内も兼ねているのだろう。
高台で門からは少し距離があるが、食事が美味しく露天風呂もあり景色もいい宿にしてみた。
宿レベルは中の上といった所で、普段ならスルーしていただろうが、たまにはいい。稼げるようになっても贅沢とは無縁だったので余裕はかなりある。
大通りには屋台や出店も出ていた。串焼きも普通にあるが、蒸した肉詰め、蒸し玉子、小麦の薄い皮で包んだ肉団子や川魚、食品包みでよく使われる葉っぱで包んだ蒸しご飯、温泉の熱を利用した蒸し料理が主流のようだ。
玉子が屋台で出ているのは珍しいが、街中でおとなしめの鳥系魔物を飼って増やしているらしい。鳥系料理も多かった。
あれこれ買い食いしつつ、歩くのは楽しかったエアだが、客引きが結構うるさい。似たような店が多いからかもしれない。
警備兵おすすめの宿の部屋は空いていて、雰囲気もよさそうだったので、取りあえず、三泊頼む。たまにはのんびりしよう。道中で倒した魔物やダンジョンのドロップ品を売れば、結構な額になる。
部屋で一服してから冒険者ギルドに出かける。混む時間は過ぎた十時半過ぎだが、そこそこ人がいた。
買い取りカウンターは空いていたので、倉庫に案内してもらい査定に出す。ドロップ品は全部出すと目立ち過ぎるので、そこそこで。
少し時間がかかるとのことで、おすすめ食堂を聞き、査定の間、エアはそちらへ出かけた。買い食いは別腹である。
本日のランチ、蒸し肉蒸し野菜を薄いパンに包んで食べる料理が美味しかった!
タレがかなり工夫してあり、複雑な味わいで。味付けで他店との差別化を計っているようだ。
瓶に入ったタレも売っていたので、当然買った。
五種類各二十本。
商人?と勘違いされそうだったが、半分は色々もらい過ぎだったのでシヴァにあげようと思ったのである。味の幅が広がる調味料は元々大歓迎だった。
教えてくれた買い取り担当の職員に感謝しよう。
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