052 渡した以上に返って来てるぞ

「じゃ、魔石いる?ゲラーチを引き取ってもらったし、ニーベルングダンジョンを攻略したんで、ラウンドボーンドラゴンの魔石があるんだけど」


「お、攻略したのか。ギルドに報告はしてねぇようだけど」


「色々と面倒だったんで」


 エアが1m級の大きい魔石を取り出して渡すと、シヴァは検分してからマジック収納にしまった。


「せっかくだからもらっとこう。売るに売れねぇだろうし」


「それもあって。…あ、そういえば、ダンジョンボスを倒した時、中々ドロップにならなかったんだけど、よくあることなのか?」


「まさか。じゃ、そのブーツ、エラードロップ品なのか?しょぼい!」


「…ええっ??」


 エアはケタ違いのレアアイテムだと喜んだのだが?


「必要魔力量が多過ぎて、エアのように魔力タンクを持ってねぇと使えねぇ辺りがしょぼい!認定。よくて数分。しかも、歩くだけ!」


 ちょっと貸せ、とシヴァはエアにエアウォークブーツを脱がせると、他の素材も出して何だか色々と触って…改良?してからエアに返した。

 相変わらず、シヴァの手が速過ぎて何をやったのか全然分からない。


「魔力消費を抑えてエアジェットブーツにした。今までのように空を歩くことも出来るけど、ブーツに風をまとって飛べる。鑑定偽装と認識阻害も付けといたんで、余程魔力の流れに聡い奴じゃねぇとバレねぇ」


「あ、有難う。…って、ちょっと待て。渡した以上に返って来てるぞ」


「気のせいだ。それより、エラードロップが何なのか気にならねぇ?」


「なるけど、誤魔化そうとしてる?」


「気にすんな。ダンジョンの想定外のことをするとダンジョンエラーが起こる。その場合、ドロップが増えてかなりいいものになるんだけど、いくつあった?」


「魔石を合わせて三つ。もう一つは状態異常耐性のペンダント。ダンジョンの想定外だったのか?」


「どうやって倒した?」


ボーンドラゴンだったから胸の隙間から魔石が見えてたんで、影転移で入り込んで魔石を支える骨を切って魔石を収納した」


「おー賢いな。エラーになるのも無理ねぇけど。転移が使えても、そういった発想をする奴はエアぐらいだろうし、おれも考えねぇな。ぶった斬った方が早いし」


 これだけ魔法を自然に使うシヴァだが、案外、物理攻撃の方が得意らしい。


「エラーって滅多にないことなのか?」


「ああ。他にエラーを出したのはSSランク冒険者ぐらいなもんだな」


「つまり、シヴァだと」


「確定?」


「ダンジョンについて詳し過ぎるし、他にいないだろ」


 規格外過ぎな人がそう何人もいるのなら、とっくに有名になってるだろうし、シヴァ以上に強い人、というのがイメージ出来ない。


「正解。もうSSランクとしては活動してねぇけどな」


 シヴァはSSランク冒険者の黒いギルドカードを見せてくれる。

 ルビーが埋め込まれていていかにも高級そうだ。カードの素材自体もレア金属らしい。


「サファリス国の大雨災害の件でうるさくなって?」


 SSランク冒険者と「にゃーこや」による大量の物資支援に早急な復興支援、各国の復興支援団の送迎もした、と聞く。

 いまだにかなり噂になっているのだから、当事者のシヴァはかなり大変だろう。


「そう。力を見せ過ぎたから。そうじゃなくても、ランクを上げても全然メリットがねぇんだよ。武器防具魔道具マジックアイテムは自作出来るし、レア素材も情報もウチの情報網の方が早くて詳細だし、宿は好きな所を選びたいし、で」


「え、SSランクの特権ってその程度なんだ?」


「ギルド持ちで他の冒険者たちに依頼を手伝わせることが出来る、とかも言われたけど、おれの手に余る依頼ってとっくに世界が終わってねぇ?って話で」


「確かに。…あ、爵位や領地がもらえるって噂は?」


「望めばもらえるんじゃね?いらねぇ。

 高ランクになれば、かなりの大金持ちだから自腹を切って寂れた領地を立て直せ、時には腕力も使って、とかいう話だぞ?

 でもって、我が国にはこんなにすごい戦力がありますと自慢も牽制も出来る。得するのは国だけ」


 そこまで分かり易く言ってくれると、エアは自分が誤解していたことを思い知った。

 平民の冒険者でも爵位を得れば、権力を持ち、他の貴族たちからもっと尊重してもらえるかと思っていたのだ。予想外に高ランク冒険者の扱いが酷い。


「本当にメリットがないな…」


「だろ。ってことで、にゃーこやの店長はCランクなワケだ」


 ものすごく他人事ひとごとっぽい言い方だが、シヴァのことである。


「別の名前でってこと?」


「いや、シヴァで統一した。名前変更って普通に出来るんだって、ギルドカードは。魔力登録はするけど、登録済みかどうかの照会なんかしねぇから作りたい放題」


「…そうなんだ。そう何枚も作っても、だけど。犯罪者だったら街に入れないし」


「門以外からなら入れるけどな」


 まぁ、気休めなのはエアだって分かっている。


「で、エアはどこに向かってるんだ?」


「キーラの街。温泉があるって聞いたんで」


「おお!それはいいな!到着したら呼んでくれ」


 シヴァの知らない情報だったらしい。


「分かった。もう半日もかからないと思う。空からだと速いけど、いい加減な地図しか持ってないから結構迷ってて」


「それなら早く言えって。エイブル国なら正確な地図がもう出来てるし」


 シヴァは収納からすぐ出して、はいと大きな地図をくれた……。

 しかも、フルカラー。街道だけじゃなく、山や川まで色分けしてあってかなり見易い。

 今はここ、とシヴァが指で差して場所まで教えてくれる。

 キーラの街までもうすぐなのは分かるが、温泉があるかどうかまでの情報は記していない。

 広範囲に調べているのなら、各街の情報は後からになるのだろう。


「正確な地図ってどうやって作ったんだ?」


「ものすごく高い位置だと一望出来るだろ?位置を変えて繰り返せば国ごとの地図が出来るワケだ」


「…それってもーのすごく手間がかかるんじゃ…」


「そうでもねぇって。見たままを写す魔道具があるし、おれだけで作ったワケじゃねぇから」


「地図いくら?」


「対価は労働で。ダンジョンエラーを出して、その方法とドロップ品を教えてくれ。どのダンジョンでもいいし、ダンジョンボスじゃなくフロアボスでもいい。どちらもダンジョンエラーは出るから。期限なし」


「期限なしでいいのか?」


「本当にエラーには中々ならねぇんだよ。おれが試したことがある方法は、短時間討伐、武器は使わず肉弾戦のみ、魔石だけ切り取る魔法を開発して、と三つのみ」


「……どれだけ試してるんだよ…」


 エアの予想以上に、シヴァはダンジョンの攻略もかなりしているのだろう……。


「興味深いだろ。それに、エラードロップ品は格上の物が多いから、エアにもかなりメリットがある。マジックテントも目じゃねぇぞ。おれはディメンションハウスっていう、次元のはざまにある成長する家が出たし」


「じげんのはざま?」


「あー概念が難しいか。影の中のような亜空間だけど、暗くない場所にある家。とにかく、すごいもの。おれも作れねぇぐらいに」


「…ってことは、マジックテントなら作れるってこと?」


「そ」


「……どれだけすごいんだよ…」


 かつては錬金術師が作れたと聞いたことがあるが、今出回っているマジックテントはダンジョンドロップばかりだ。

 錬金術師や魔道具師は貴族や有力者がすぐ囲い込んでしまうため、後継者が育たず、衰退して行ってしまっているのである。


「色々と勉強して研究もしてるんで。…じゃ、よろしく」


「分かった」


 シヴァはさっさと転移して行った。

 何度か見て思うのだが、シヴァの転移は影転移じゃない。

 どうやら違う魔法のようだ。



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新作☆「番外編52 「君を愛することはない」と言われましたが、どうでもいいですわ。え?もう撤回したいのですか?知りません。わたくしに関わらない所で幸せになって下さい」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093079421752807

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