048 ボスドロップはケタ違いのレアアイテム!

 首を捻っていたエアだが、ラウンドボーンドラゴンの残骸の山を槍の柄でつついてみたり、扉を隅々まで見てみたり、と動き回っているうちに、残骸は消えドロップになった。

 いつの間にか、もう一つ扉が現れていた。

 おそらく、外へ出る転移魔法陣がある部屋だろう。


 ドロップになるのが遅かったのは、何らかの不具合があったのかもしれない。


 ボスドロップだからか、ソロだからか、宝箱、木箱、1mぐらいの大きい魔石の三つ。


 あれ?これとそっくりな魔石は収納したハズ、と【チェンジ】の脳内リストを探った所、いつの間にか消えていた。

 ドロップに変わったから消えたのか、よく分からない。


 魔石を収納し、宝箱は罠がないかどうか確認してから開ける。

 宝箱の大きさは手のひらサイズ。

 宝飾品を入れるのにちょうどいい感じ、と思った通り、中は宝飾品で赤い石のペンダントだった。

 【鑑定モノクル】によると、状態異常耐性のペンダント。

 毒耐性、石化耐性、各種属性耐性、睡眠耐性、といった風に別々なのが普通なので、これ一つでカバー出来るマジックアイテムはかなりのレアだ。

 ラッキーとエアは早速身に着ける。宝箱は収納へ。


 木箱も罠の確認をしてから開けると、中にはショートブーツ。


【エアウォークブーツ・空中を歩けるブーツ。魔力を込める必要がある】


 ……は?

 とんでもなくケタ違いのレアアイテムがドロップした!

 そんなアイテムは聞いたことがないのだ。

 レアアイテムがドロップすると、多かれ少なかれどこからか情報が回って来るのは、オークションに出すこともあるが、当人が隠しておけず、使うからだ。

 そして、その性能の良さが口コミで広まる。


 当然ながら、そんなレアアイテム保持者はダンジョンの下層常連であり、戦闘力も冒険者ランクも高いので、滅多に奪おうという冒険者は現れないが、欲深い貴族が狙うことはある。

 そして、また更に噂になるワケだ。


 エアもなるべく隠しとこう、とは思うが、超高性能義手と規格外過ぎる通信大容量収納(時間停止)イヤーカフに比べてしまえば、かなりささやかな気がしなくもなく……感覚がズレて来た。



 ともかく、試してみよう。

 エアはすぐエアウォークブーツに履き替えた。

 マジックアイテムなので自動的にサイズ調整し、足にぴったり合うサイズになる。

 靴底も側面も柔らかく、足の動きをまったく邪魔せず、軽い。

 履き心地も満点だ。


 そっとブーツに魔力を流して階段を上るように宙に足を踏み出す。

 スカッと足が空振ることも覚悟していたが、一歩、二歩、三歩。

 空気を吸うより容易く、空中を歩けた!すごい!



 空中でジャンプしたり、走ったり、飛び蹴りしたり、と色々試してみたが、まったく問題なし。逆に動き易さに驚いたぐらいだ。

 これで戦闘の幅が更に広がる!


 地形に左右されないということは、移動もかなり速く出来るだろう。

 まぁ、エア一人だけで長距離を移動することはなかったのだが、安全な場所を作る結界の魔道具と超快適なマジックテントもあるし、これからは一人での移動が余裕で可能になる。

 街道を通る旅人や商人や冒険者たちはいるが、探知範囲もそこそこ広がって来て、事前に察知出来るので問題ない。


 魔力をずっと流すのなら時間限定かも、と思っていたのだが、エアの場合、義手の魔力タンクのおかげで浮遊魔力を吸収して補えるので、魔力残量は気にしなくてよさそうだ。


 このケタ違いのドロップもソロの恩恵なのだろうか?

 それとも、名前繋がりとかあったり?

 ……まぁ、それはなさそうか。

 エアの本名は古い言葉でエアガイツ(EHRGEIZ)、空気のAirとはスペルも意味も違う。


 エアは散々エアウォークブーツを楽しんでから、今日はボス部屋で泊まろう、とマジックテントを出した。

 ダンジョンボスのリポップは結構かかると聞いてるので、心配いらないだろうが、念のため、結界も張る。


 シヴァにもらった温泉を湯船に入れれば、すぐ風呂に入れる。

 便利だ!


 人間が浸かった湯を何度も使い回すのは衛生面でよくないらしいので、一度で捨ててしまうのがもったいないのだが、しょうがない。

 ダメな成分を認識出来ていないと、【クリーン】ではキレイにならないそうなので。


 今度、シヴァが各地の温泉をたっぷりくれるそうなので、期待しよう。

 シヴァ自身が風呂、温泉好きなので気持ちはよく分かるらしい。


 自分でも汲みに行こうか。

 エアがまだ冒険者三年目ぐらいの時に行った街の側、と言っても徒歩で二日ぐらいかかる場所に温泉が湧いていた。

 土魔法使いが穴を掘って湯船を作り、川の水を薄めて入る素朴な知る人ぞ知る温泉。まだあるだろうか?


 義手のモニターをやっていても行動制限はないので、そちら方面に行ってみるか。どうせなら。


 ニーベルングの街から南に行った所にも温泉がある、とスカヤたちに聞いたので、まずはそこから。

 その前に、冒険者ギルドにダンジョン攻略報告はどうしたものか。


 報告すると、街を上げてのお祭り騒ぎになる場合もあるが、少なくともギルド併設の食堂でほぼ無礼講の宴会になり、攻略者の報奨金は問答無用でその費用にてられるのは経験済だ。


 手のひら返しで面倒だったし、予想以上に負担だったので、今度はやりたくない。


 報告しないとランク査定には響くが、これ以上ランクを上げてもいいことないとはよく聞く話で、Cランクまでで敢えて昇格しない人も割と多い。


 だからこそ、「ヘタなBランクよりCランク冒険者の方が強い」と言われていたりもするワケだ。

 スカヤたちも該当者だろう。

 Bランク以上は貴族も関わって来るので、かなり面倒なことになるのは確かだ。


 エアはCランクに昇格したばかりなので、そうすぐに上げたいとも思わない。

 よし、ギルドへの報告はなしにしよう。



 売りたいドロップ品は違う街でも買い取ってもらえるので、そちらで売ればいい。

 ああ、そういえば、妹に手紙を書くつもりだったな、と寝る前に思い出したが、さすがに身体は疲れていたようであっさりと眠りのふちに落ちて行った。

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