047 ガシャガシャガシャッッガッシャンッ!
魔法や影転移の練習をしながら、ニーベルングダンジョン30階まで行った所で、エアは依頼の納品に冒険者ギルドへ行った。
混む時間は避けて午後二時過ぎだ。
行列はまるでなかったのでさっさと納品して達成処理をしてもらい、30階以上の納品依頼を訊いたが、さすがに定番ドロップ品でも高額になるため、依頼は出てないらしい。
王都エレナーダではそんなことなかったが、王都だから裕福な依頼人が多かった、ということなのだろう。
オークションに出すにしても、いつも開いているワケではないので時間がかかるらしい。最短で金に変えたいのなら王都で出した方がよさそうだ。
適当な数を買い取りしてもらい、エアはさっさと冒険者ギルドを出て市場へ向かうと、スカヤに会った。やはり、買い出しらしい。
「よぉ、エア。どうだ?ダンジョンは」
「まずまず。スカヤたちはいい依頼がないのか?」
旅の準備の割には表情が明るくない。
「中々なぁ。行きたかった方面の護衛依頼は思ったより少ないみたいだから、普通に移動することになるかも、で調理器具を物色してるワケだ。マジックバッグも増えたワケだし」
……苦手な料理のせいか。
「煮て塩を振ればとりあえず食えるしな」
満遍なく焼くのは結構、難しく、生焼けが怖いので、料理が苦手な人は煮る方がいい。
「そんな悲しい料理は嫌だって~。…あ、そういや、エア。左手が義手の冒険者について、訊いて回ってた奴がいたぞ。何も教えてないけど、知り合い?」
「元パーティメンバーだろ。関わって来るなと言ってあるのに」
多分、モーリッツだ。
エアがカッシオをしばらく足腰が立たない程、叩きのめしたので、次は自分かも、とモーリッツは戦々恐々とし、エアに探し出される前に自分から謝罪した方がまだマシだ、とエアを探しているのだろう。
「あ、なんだ、もう会ってるのか。よく、あんな奴と組んでたな」
「切羽詰まって取り繕えなくなったんだろ。遅かれ早かれ脱退してたと思うけど」
エアは必要な食材や消耗品を買い出しすると、さっさとニーベルングダンジョンへ戻った。
モーリッツの探知能力では、エアを認識出来ないので、会わないようにするのはまったく苦労しなかった。
エアにとってはもう終わった話なのに、モーリッツに会ってごだごだ言われるのは時間の無駄である。
******
快適過ぎるマジックテントのおかげで、エアは宿暮らしだった時より遥かにいい生活をしていた。安全もプライベートもしっかり確保出来る辺りも気に入っている。
宿によっては押し込み強盗、夜這い、殺しに来る、というのもあるのだ。エアが狙いじゃなくても、近くの部屋でゴタゴタされるのも睡眠妨害だった。
さて、30階からはアンデッドが出て来るので、改めて気を引き締めないとならない。
実体のあるアンデッドは物理攻撃でも倒せるが、ゴーストやレイスは実体がないので物理攻撃は効かない。魔法攻撃も光魔法、火魔法、回復魔法が有効なものの、火魔法は与えるダメージが少ない、と言われている。
影魔法なら魔法耐性がある相手でもダメージを与えられる、とシヴァに聞いていて、それを試したくてここに来たのだが、本当だった。
義手から撃ち出す
予想以上に威力の高い武器だった。
ただ、実体がないゴーストやレイスは気配を読み難く、素早く、壁を通り抜けるので、今まで以上に慎重に進まねばならない。音もほとんど立てないのだ。
こうなると、実体があるスケルトンやリビングアーマーは騒々しくてホッとするようになるもので……。
いいのか?これで。
エレナーダダンジョンよりニーベルングダンジョンの難易度は低いという話だったが、相性にもよるのだろう。
エアの場合は拍子抜けしてしまう程、さくさく進めた。
実体がないアンデッド以外は、超高性能の義手や覚えたての魔法を使わなくても。
翌日の夕方には40階まで余裕で行けてしまい、ボス部屋に行く前にさすがにセーフティルームで休憩にした。
早めの夕食を食べる。
何度も攻略されているのでダンジョンボスは知られている。
ラウンドボーンドラゴンだ!
一応、竜種ではあっても翼がない地竜の骨のドラゴンで、全長8mぐらい。
ドラゴンにしては弱く、ドラゴンゾンビより攻撃力も低いが、ドラゴン特有のブレス攻撃はして来る。
腐食ブレスで直撃を受ければ服も皮膚も溶けてしまうが、長時間でなければポーションで回復が容易、盾スキルのシールドバッシュやシールドが使えればさほど脅威でもない。
ただ、このラウンドボーンドラゴン、魔法耐性が高く再生能力もかなり高い。
バラバラにしても壊れた骨も繋がってすぐ復活するのだ!
弱点は胸の魔石なのだが、硬い骨で覆われているので、かなりの人数で強火力の攻撃で押し、再生する前に魔石を破壊するかえぐり取るのが定番の攻略方法とされている。
つまり、力ワザ!
ソロのエアには出来ない方法だ。本来なら。
切れ味抜群で伸縮自在の
いや、待てよ?
40階に来るまでに影転移の練習もしていたので随分慣れて来た。
正確には分からないが、瞬きぐらいの速さで影転移出来るようになっている。見える範囲の影なら難なく、だ。
いくら魔石の周囲が硬い骨で覆われていても骨ドラゴンなので、隙間だらけで魔石がどこにあるかも見えるそうだ。
胸骨内ならばほとんど影だろう。
全長8mならば、人が入れるぐらいの隙間もあるのでは?
失敗しても影転移で逃げればいいし、やってみる価値はありそうだ。
骨ドラゴンの胸骨内に影転移し、直接魔石攻撃、或いは魔石を奪取してみよう。
作戦が決定したので、早速、準備を整えていざボス戦!
重厚な扉のダンジョンボス部屋はエアが触れるだけで、内側に開いた。
ラウンドボーンドラゴンが威嚇して来る前に、なるべくドラゴンに近い影に影転移し、胸骨に包まれた魔石を見て行ける!と胸骨内に影転移し、魔石を支える骨を左手の
ガッシャンッ!
操り人形の糸が切れたがごとく、大きな音を立てて骨が床にぶつかった。
ガシャガシャガシャッッガッシャンッ!ガンッガンッ!シャンッ!
続いてどんどん骨が落ちて来る!
土砂崩れや落石に巻き込まれるようなものなので、エアは慌てて跳び離れた。
しばらく待ってみたが、骨の山は再生する素振りがない。
再生能力が高く、バラバラにしてもすぐ繋がるのではなかったのだろうか?
魔石を奪取したので討伐したのか?
しかし、ドロップにもならず、骨の残骸が山になっているだけだ。
「何だこれ?」
エアは【鑑定モノクル】を出してボーンドラゴンの残骸の山を鑑定してみると、エラーという表示が出た。
エラー?
こんな表示初めてだ。
一体、これはどういった状況なのか。
入って来た扉も開かないし、他の扉も現れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます