046 うっかり、サクッと楽にしてしまいそう

「……あ、シヴァ、珍しいスキル持ちのクズ、いる?こいつのせいで死にかけたのが確実になったから、どう報復するか迷ってたんだけど」


 エアはいいことを思い付いた。

 違法奴隷を解放しただけではなく、違法奴隷商を自ら自首させたシヴァの実験台というのは、中々いい報復ではないだろうか。


 ゲラーチを影収納に入れて既に四日目。

 ダンジョン探索に集中していたエアはすっかり忘れていたのだが、生活魔法のウォーターが使えるのでまだ生きていると思う。

 ……うん、確実に生きていた。

 影収納に意識を向けると、【チェンジ】の脳内リストに生死が出るので。


「ああ、【寄生】スキル持ちか。処分に困ってるなら引き取るけど、自分で仕返ししなくていいのか?」


「影収納に入れたまま、忘れてたぐらいだしな。おれが犯罪者にならないように処分するのは簡単だけど、そもそも、これ以上時間を取られるのも腹立つワケで。

 …って、あれ?シヴァ、スキル名まで知ってるのは調べたのか?」


「おう。デュークが噂を知っててさ。鑑定スキル持ちが多い商人から広まってたぜ。そのせいで新しいメンバーも入れられず、入れない店も多く、入れる店も特別価格じゃないと食べさせない、物を売らない、と虐げられてるから、遅かれ早かれみじめに死ぬと思うけど」


 鑑定スキル持ちなら変なスキル持ちのゲラーチとエアの噂を結び付けて、真相がすぐ分かったらしい。


 そうか。だから、モーリッツもカッシオもすぐ謝って来たワケか。被害者当人に許されました、というアピールも兼ねて。

 モーリッツとカッシオは流れに任せたままで別にいいが……。


「斥候のバニオの行方は知ってる?口が上手いあいつがいたら、もうちょっとマシな待遇になってたと思うけど、一緒じゃなさそうだし」


 それが疑問だった。


「噂だとどこかの貴族に売り込んで、護衛か従者になったらしいぞ。要領よくとっとと見切りを付けたんだろうな」


 バニオらしいと言えばらしい。

 随分、エアは搾取されていたが、貴族に仕えて楽しい生活を送れているワケがないので、こちらも放置。


 ゲラーチはシヴァに引き取ってもらうことにした。遠くに捨てて来てもいいし、何かに使えるのならそれはそれでいい。

 二度とエアの前に出なければ。うっかり、サクッと楽にしてしまいそうなので。


 シヴァに引き渡すためにゲラーチを影収納から出した時、エアは【鑑定モノクル】で鑑定したが、カッシオに吐かせた通りだった。

 更に詳しく分かり、「最大で三割」も寄生対象からステータスを奪えることに驚き、道理でと納得もした。

 まぁ、腹立つことには変わらないが。

 三日半ぐらい真っ暗闇に閉じ込めてあっても、ゲラーチは大してボロボロになってなかった辺りも腹立つ。

 急に明るい所に出されて目が開いてなかったゲラーチは、エアにもシヴァにも気付いてないのだろう。

 すぐにシヴァはゲラーチをどこかに送った。


 ******


「ところでシヴァ、ダンジョンの中にも転移して来れるのは知ってるけど、この半端な階のセーフティルームにも来たことあるのか?行った所にしか転移出来ないって前に言ってただろ」


「言ったな。もう一つ、転移ポイントが仕込んである所には、行ったことがなくても転移出来る」


「転移ポイント?」


「地図に目印が付けてあるって言うと分り易いかな。エアの通信イヤーカフと義手に転移ポイントが仕込んである。二つなのは万が一対策。装飾品がマジックアイテムってことはよくあることだから、耳ごと切られ兼ねないしな。それだけエアは危険なものを持ってるってことだけど」


「…あっ、だから、マジックテント内にも転移して来れたのか!」


「そ。エアがいる影の中にも入れる。安全のために転移する前に転移ポイントの周囲を探ることが出来るんで、火の中、水の中、瓦礫の中とかには入らずに済むし、状況も多少は分かるワケだ。影転移も距離が伸びると、転移ポイントの置き方や転移したい場所の周囲も見えて来ると思う。だから、誰か立ってる場所や人や建物や魔物と接触する程すぐ側に出るってことはねぇから」


「そういった風になってたんだな」


 よく考えてみれば、そんな安全対策がなければ、危なくて仕方ない。


「だから、エアが自由に行動してるとおれの動ける範囲も広がるってことだ。他国にも行ってるから、国内は特定の所にしか行けてねぇしな。これもメリット」


「でも、それなら、適当に冒険者や商人たちに転移ポイントを付けとけばいいんじゃないのか?馬でもいいし」


「把握するのが面倒だろ。美味しい店や食材情報は入らねぇワケだし」


「…本当にブレないな」


「当然。うちの奥様を連れて行けるかどうかも知りたいし」


「客層がいい所か」


「多分、想像してるのと逆だぞ?フラチな連中をさくさく叩きのめした後では、水さされるし、ゆっくり食事を楽しめないってだけで」


「叩きのめすのは決定なのかよ」


「うちの奥様、容赦ないから…」


 顔ごとそっと視線をそらす辺り、シヴァの妻は相当なお人らしい……。

 シヴァの妻が普通である方がおかしいワケだが。


 これ以上、妻について話したくないらしく、「じゃ、また」とシヴァはさっさと転移して行った。

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