018 こんなにロマンに溢れた話なのに~
消耗品アイテムの準備はすぐ出来るが、武器のメンテナンス、装備の修理には、十日かかると言われてしまった。
パーシーのツテがある武器、防具屋に頼んだので、これでもまだ早い方だった。
この十日間、無駄にするのももったいないし、訓練場の壁の弁償で貯蓄も減ったので、エアは予備の武器と装備でせっせと中層に潜り、納品依頼を果たしていた。
遠征が終わった後でパーシーのパーティはまだ休暇だそうなので、エアは時々パーシーと一緒に依頼を受け、高レベルな槍スキルを見せてもらった。
スキルを覚えるにはイメージも大事なので、エアにはかなり勉強になった。その礼が食事程度なら激安だろう。
「うーん。どうもあいつがエアの先祖のような気がするんだよなぁ」
セーフティルームで、エアが作った野菜とボア肉の腸詰めのスープを美味しそうに飲みながら、パーシーがそんなことを言う。
「あいつって?何で先祖?」
「もうかなり前の話で名前も覚えてないが、年齢的にエアの祖父程度じゃなさそうだから先祖。エアのその運動神経のよさとパワーと素早さは、獣人の血は確実に入ってるだろ?」
「よく言われるから多分。おれが知ってる限りの親族に見た目で分かる獣人はいないから、やっぱり先祖で合ってるのかも。おれの先祖っぽい人は何の獣人だった?」
「豹。キレイな毛皮でなぁ。そいつは深い青色の毛皮で銀の斑点があったんだけど、その毛皮が明るい所だと虹色に光ってキレイだった」
かなり印象的だったので、その辺は覚えているらしい。
「んん?人間っぽい獣人じゃなく、普段から毛皮がある獣寄りの獣人だったってこと?」
獣人は実に様々だった。
パーシーのように耳や尻尾だけの獣人もいれば、外見はまったくの人間、逆にほぼ獣型でも中身は人間という獣人もいる。猿獣人はそういった感じだ。
魔物でも猿型は多いが、猿獣人と間違える心配はまったくない。凶相で凶暴なのが魔物である。例外は当然あっても。
「いや、獣型にもなれたんだよ。【獣化】スキルを持ってて。まぁ、今だとほとんどいないみたいだけどな。有名なのがドラゴニュートで、昔はドラゴンになれたらしいのは知ってるだろ?」
「知ってるけど、それ、子供向けのおとぎ話じゃなくて?身体の大きさ自体、全然違うのに」
「本当らしいぞ。長寿の連中が何人もそう言ってたし。さすがに、もう生き残ってはいないみたいだけど」
「身体を作りを変えるって負担がすごそうだしな」
「そういったのもあるんだろうな、やっぱ。でもさ。先祖返りっていうのがあるのは知ってるか?」
「何代か前の人の髪色とか肌の色とかが出るってヤツ?」
「そう。容姿だけじゃなく、能力もあるんだよ。つまり、先祖にいるならエアにも何かのきっかけで【獣化】スキルが生える可能性があるってことだ!」
「へー」
「興味なさそうだなぁ。こんなにロマンに溢れた話なのに~」
「身体に負担がかかるから廃れたスキルなんだろ。もし、万が一【獣化】スキルが生えたとしても使わないって。使い勝手もよくなさそうだし」
獣化すれば、爪や牙が武器になるのだろうが、ダンジョン産のレアな武器で戦った方が戦闘力が高く思えて仕方ない。武器の替えが利き、マジックバッグに入ってる物全部使える所が一番違う。
「そう言われてみると、そうかなぁ?獣化すると、武器を使うスキル技が全部使えなくなるってことか?」
「多分。片手になってから【解体】スキルは使えなくなったし」
「じゃ、意外と使えなさそうだな…残念」
ロマンでワクワクするだけで、よく考えたら戦闘力が落ちるのはちょっと…とパーシーも思ったらしい。
「先祖と言えば、おれのこの緑の目はエルフが先祖にいるせい?」
エアは長生きしているらしいパーシーについでに訊いてみた。
「だろ。ハーフじゃないエルフでも、そこまでキレイな色の目は見たことないから、かなり希少なのかも。やっぱ、よく言われる?」
「ああ。追っ手と間違えられたこともある。エルフの里の外にいるエルフかハーフエルフは、変わり者らしくて。ホント?」
「そう。里の連中はかなり偏屈らしいぞ。さすがに、エルフの里までは行ったことがないが、おれが会った全員がそう言うぐらい。…って、あれ?獣人とエルフの先祖返りかもってことは、エア、長命かもしれないのか?」
「さぁ?こんな物騒な世の中だから、寿命を全うして死ねる人間の方が少ないだろ」
「そりゃそうだな。でも、長命だといいなぁ。たくさん遊べるし、エアはもっともっと強くなるぞ!」
「それは嬉しいけど、おれの成長が遅いのって、生活が厳しかっただけじゃなくて、そのせいもあるのか?」
「かもなぁ。もっと食わないとな!」
「ちゃんと食ってるって!二人前ぐらいは」
懐の余裕があるここ最近、エアはいつも二人前ぐらいは食べている。「身にならないなぁ」とはよく言われることだ。
「もっともっとバランスよく!肉や野菜だけじゃなく、きのこ類や果物も必要だってエライ人が言ってたぜ」
「エライ人?」
「賢者とか呼ばれてた人。ここより文明が進んでた異世界人だな。その人の本をどこだったか忘れたけど、何かいっぱい本が置いてある場所で読んだ」
長生きしているパーシーなので知識も豊富なのは不思議にも思わなかったが、やはり、本人の努力もあったらしい。
まぁ、重要じゃない情報はポロポロ忘れて行くそうだが。
食事の後、パーシーに周囲を見張っていてもらい、エアが『鑑定モノクル』を使って貴金属の採掘もしてから、王都へと戻った。
二人だとやはりドロップ率が落ちるので、山分けの場合は貴金属の方が買取価格も利用価値も高い。
冒険者ギルドでエアが買取カウンターに並ぼうとすると、以前からエアをバカにしていた連中がそそくさと逃げて行った。
エアがパーシーと模擬戦を始めた頃から、近寄らなくなったのだが、こんなことはよくあることだった。
新しく冒険者たちが流れて来ると、また似たようなことを繰り返すことになる。
外見で潰しが利かないと面倒なことばかりだった。
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