017 夢中になるとつい周囲が見えなくなるもので

「そういや、エアって何で長いことEランクだったんだ?これだけ強けりゃ武術スキルぐらい、とっくに覚えてそうなんだけど」


「魔力が少ないからスキルがあってもあまり使えない、って聞いたことがあるぞ。スキルでも魔力を使うものも多いからな」


「え、そうなんだ?スキルなしでこれだけ強いんなら関係ない気がするけど」


「それは今だからだろ。前はダンジョンにもあまり潜ってなかったから、レベルもそんなに上がらなかったんじゃねーの」


「おれはエアは薬草採取や近場の護衛ばっかのリスクが少ない安定メインのパーティにいたから、ランクを上げても意味ないからかと思ってたけど」


「他の冒険者との兼ね合いだと聞いたことがあるぜ。エアって冒険者登録出来る最年少十二歳で登録したから、ああ見えて冒険者歴長いんだよ。もっと若く見えるけど、今十七歳だか、そんなものだし」


 エアは十八歳である。


「ええっ?まだ成人してないかと…」


 エイブル国での成人年齢は十五歳だ。さすがに失礼である。


「種族的なものか、不遇な生活をしてたからかは分からないけどな」


 そんな見学者たちの話が聞こえていたエアだが、中々呼吸が整わなかったため、否定も肯定も出来なかった。


「どれもそこそこ正しいぞ」


 すると、とっくに息が整っているパーシーにもしっかり聞こえていたらしく、口を挟んだ。


「身体が出来ていないうちに無理に鍛えると、身体を壊す。それに、ランクを上げるのならそれなりの武器や防具、アイテムも必要で、その維持費も必要になるから金がかかって仕方ない。だから、エアはまずは安定した生活をして金を貯めたかった。

 で、他の冒険者との兼ね合いっていうか、目立つと狙われるからおとなしくしていたワケだ。でも、エアがちょっと死にかけて入院して素顔をさらしちまったせいで、顔がいいのがバレちまったけどな~」


 はっはっは~と笑うパーシーは、とっくにエアの素顔は知っていた。

 中々筋肉が付かないエアの細身の身体は舐められるに決まってるので、顔を隠す理由にパーシーも納得していたのである。


「自衛もあったってことか」


「あ、だから、パーシーさん、わざわざエアの戦闘力を見せつけるかのように模擬戦をやってるんだ?牽制に」


「いやいや。エアがもっとちっこい時や弱ってる時ならともかく、そんなの今更いらんて。後ろ暗い連中はとっくにエアにぶっ飛ばされてるからな。ヤバイ情報を聞いて駆け付けたら、もう終わってた、ということも何回かあったし」


 エアは目立たないようにしていても、カモ認定されて迷惑だった。


「…知る人ぞ知る情報ってヤツか…」


「いや、結構知ってるって。だから、エア、パーティに入り難くなってたワケで。巻き込まれるのを恐れて」


 だから、エアの選択肢が限られていたワケだ。

 変なスキルか魔法を持っていたゲラーチたちも、最初から胡散臭いとは思っていたのだが、背に腹は変えられず。

 そういったカンは信じるべきだった。


「で、変な奴らのパーティに入っちまった、と」


「そういや、ゲラーチたちって、あれからどうなったんだ?見かけんが」


 不在にしていたパーシーは、ゲラーチたちのその後は知らなかったらしい。


「王都を出たのは知ってるけど…」


「東の方へ行ったらしいぞ。ニーベルングダンジョンが目当てなのかも」


「あそこはアンデッドが出るだろ。中層からだっけ?」


「下層。ニーベルングダンジョンは全部で40階で何度か攻略されてるけど、31階以降はアンデッドフロアだから苦手な奴は苦手な所」


「レイスやゴーストには物理攻撃が効かねーしな~」


「腐ってて臭いのも嫌だろ。しぶといのも」


「確かに」


「だから、あんまり人気がないんだけどな。全部洞窟型だから特殊装備はいらないけど」


「あ、それで思い出した。パーシーさん、砂漠装備を作ってくれる所って知らない?」


 ようやく息が整ったエアは生活魔法のウォーターで喉を潤した後、パーシーにそう訊いてみた。

 色々情報を集めた結果、砂漠だけはその対応装備がないとかなりキツイことになるようなので。


「砂漠装備限定は知らんが、フィールドフロアの対応装備なら防具屋より付与術師の方がいいぞ。紹介してやろう」


「ありがとう。でも、付与術師?砂塵よけとか作れるってことでいいのか?」


 そうか、そういった方法があるのか、とエアは勉強になった。

 砂漠フロアは本当の砂漠のように昼間はかなり暑くて乾くし、夜は逆で寒過ぎる。その上、鞘に細かい砂塵が入り込んでしまい、剣がしまえなくなるらしい。

 鞘はしまって剣はマジックバッグに直入れする、目はゴーグルすることで対応しても、服や髪に細い砂塵があっちこち入り込んでかなり不快だろう。食べ物や飲み物も砂まみれになるとか。


「ああ。付与出来る素材が限られてるから、結構、費用がかかるけどな。フード付きマントが一つありゃかなり使える。まず、53階でスパイダーシルク狩りをするんだな。素材と高ランク魔石があれば、費用も抑えられるし」


「元々その予定だった。高価買取だし」


「って、エア、ダンジョン探索はどこまで進んでるんだ?」


「40階まで。でも、スゲー並んでるからフロアボスは倒してないけど」


 40階のフロアボスはメタルリザードだ。

 堅いことで有名な魔物だが、物理ならメイスや斧といった打撃武器がダメージ大、剣や槍なら関節を狙い、魔法なら口の中を狙えば何とかなる、らしい。

 20階のフロアボス同様、ドロップがかなりよく、一度来たら転移魔法陣ですぐ来れるため、いつでも行列なのである。


「え、まだそんなもんだったのか。じゃ、51階以降のフィールドフロアに行くまでサクサクで楽勝だな」


「いやいや、慎重に進むんで。納品依頼を受けつつ」


 エアはもう油断なんかしない。


「堅実だなぁ。…あ、実績稼ぎもあるのか。もうCランクに上がってもやって行けるだろうし。このままソロで行くのか?」


「ああ、しばらくは」


 今、エアがどこかのパーティに入ってしまうと、自由に行動出来なくなってしまうのも都合が悪かった。ダンジョンの攻略を目指したいし、その後は妹の所へもそろそろ行きたいので。


 そして、休憩後。

 再び模擬戦をしたのだが、エアもパーシーも夢中になり過ぎて、訓練場の壁を壊してしまった!


 ペナルティとして壁の弁償と、訓練場に出入り禁止三ヶ月をギルドマスターに言い渡され、追い出された。

 エアとパーシーが模擬戦をやり初めて五日目のことだった。


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