019 いや、いい加減、悪びれろよ ―ゲラーチside―
装備の修理が終わり、エアがエレナーダダンジョン41階以降の下層へ向かってる頃、ニーベルングの街にいるゲラーチたちは、魔物の群れに追い込まれていた。
ようやく、【寄生】というユニークスキルの反動期間の四ヶ月を終え、どんどんレベルも上がるようになったゲラーチは調子に乗り、実力不相応にも20階以降に進んだのが失敗だった。
つい一ヶ月前、あまりの稼ぎの少なさに斥候で短剣使いのバニオがパーティを抜けた。
斥候は情報を集めることに特化しているので、個人的な護衛や従者や兵士としてならいくらでも需要があり、噂を知らない貴族にバニオの方から話を持ちかけ、無事に引き抜かれたのである。
三人になってしまったが、前衛は長剣使いのゲラーチ、中衛は槍使いのカッシオ、後衛は弓師で風魔法も使えるモーリッツでバランスが取れていると思っていたのだ!
斥候の役割を軽視していた、とも言える。
そして、ゲラーチたち三人はまんまと罠にひっかかって落とし穴に落ち、魔物に追いかけ回されていた。
最初はさほど強くない魔物に楽観していたが、どんどん数が増えるとなれば、話は変わる。体力も魔力も無限じゃないのだから。
仕方なく、一つしかないエスケープボールを使ってダンジョンを出た。
これでまたエスケープボールという保険を手に入れるまで、20階以降には進めない。死にたくないので。
判断が遅く、武器も装備も修理が必要になってしまったので、更に稼がないとならない。
仕事も選んでいられないので、ダンジョン以外の割が良くない依頼、持ち出しが多い依頼、雑用依頼も仕方なく受けるしかなかった。
やはり、斥候は必要だとメンバーを募集してみるが、評判を知らなかった冒険者にもすぐにゲラーチたちの悪評は教えられ、全然集まらなかった。
「そろそろほとぼりが冷めてもよさそうなのに!」
「いや、いい加減、悪びれろよ。お前のスキルのせいでエアに一生モノの怪我をさせてるんだぞ」
ゲラーチのボヤキに、脳筋のカッシオもさすがに聞き流せなかったらしく、ツッコミを入れた。
「片手でも不便なさそうだけどな。エアとパーシーさんとの模擬戦、何かスゲー噂になってたし」
モーリッツがそう教えると、ふんっとゲラーチは鼻で笑い飛ばした。
「噂だから派手になってるだけだろ」
「どうだかな。『槍の師匠はパーシーさんだ』とエアが言ってたことがあるぞ。俺より使えるクセにショートソードを使ってたのは気に食わんが」
「…ちょっと待て。エアが槍も使えるのは初耳だぞ!」
「エアがしっかり鍛錬してたのを知らなかったのって、ゲラーチだけかもな。ランクを上げた時、護衛依頼で馬に乗るんならショートソードは不利だし、色んな武器を使えた方がいいし」
「エアがマジメだからこそ、すれた大人な俺たちが反感持ったのもあるかもなぁ。そもそも、顔いいし」
カッシオとモーリッツの言葉に、ゲラーチがまたしても叫ぶ。
「知らんぞ、それも!前髪が長くてゴーグルもしてたし、顔の造作なんか見えなかっただろうが!」
「いかにも隠してます、なのに、どれだけエアに興味なかったんだ…」
「エアの戦闘力と便利さ加減しか見てなかったのかよ…。で?エアの顔がよかったら別の利用方法があったのに、って?」
「当然だろ。もうちょっと小綺麗にする必要はあっても…」
「それもワザとだって。目聡く気付くフラチな野郎や顔のいい少年を愛でたい姐さんらもいたから、エアが素顔をさらしてると相当ウザイんだろうよ」
「エアがぶっ飛ばしてる所、俺は何度も見たことがあるけど、ゲラーチはそれすらも知らなかったのか?」
「知らなかった…」
モーリッツはともかく、脳筋のカッシオですら知っていたことを、パーティリーダーであるゲラーチは全然知らなかった。
情報収集が得意なバニオも当然知っていただろう。なのに、ゲラーチには教えなかった。
多分、ゲラーチも当然とっくに知っていると思っていて。
それはゲラーチに結構なショックを与えた。
自分は一体、何を見ていたのだろう……。
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