015 怪しいと思ったら鑑定しよう

「おい、お前。ちょっと顔貸せよ」

「ちょっと顔がいいからって、調子に乗ってるんじゃねーぞ!」


 この手の輩はいつでもいるのは何故だろう?

 ここ王都は他から来る冒険者が多いからか。

 そして、一人じゃなく、最低二人。

 今回も二人だった。


 エアは薄い色が入ったゴツいフレームのゴーグルを着けているのだが、近くで見れば、さすがに顔立ちが分かってしまうし、素顔を見て騒いだ連中がいるので割とバレてしまっていた。

 片手細身背は低め、夜色の髪の冒険者は、エアしかいないので、その後、いくら偽装しても、で。


 ああ、また絡まれてるよ、と苦笑しているのはギルド職員と、しばらく、居続けでこの辺で活動している冒険者たちだ。

 この周囲の反応なのに、絡んで来る連中はおかしいとは思ってなさそうな辺りも、エアには不思議でしょうがない。


「ちょっと、やめなさいよ!ナンクセじゃない!」


 颯爽さっそうと女冒険者がエアの前に割って入った。

 なんて余計なお節介を。

 しかも、エアより10cmは背が高い。

 そんなに巻き込まれたいのなら、任せてエアは帰ろう。

 そもそも、エアはまったく足を止めておらず、絡んで来た連中も、割って入った女も歩きながらだったのだが。


 エアは予備動作なく、すっと加速し、冒険者ギルドの外へ出た所で、側の倉庫の屋根に跳び上がった。ステータスが上がったので、身体強化をかけなくてもこのぐらいは軽く出来る。


「…え、あれ?ちょっと…」


「って、おいっ!どこに行った?」


「【隠密】スキルか【気配遮断】か何かかっ?」


 周囲を見回してきょろきょろしていた絡んで来た男二人、割って入った女だったが、上は見ないらしい。

 まぁ、エアは下から見える場所にはいないものの。


「…ひょっとして、あの子、あたしたちより遥かに強いんじゃないの?」


「まさか。片手がないんだぞ。ドロップ運がかなりいいのは本当っぽいけど」


「だから、カモに選んだんだしな」


 やっぱりグルか。

 それを確認したくて、立ち去らなかったのだ。

 女が助けて恩に着せ、エアが油断した所で色々と巻き上げるつもりだったのだろう。

 使い古された手に、今更、ひっかかるワケがない。

 しかし、まだ何も被害がないので、ギルドに報告を入れるぐらいでいいか。

 エアはまたダンジョンに潜るので、もう会わないだろう。


 エアは十二歳から冒険者をやっているので、色んな経験をして来た。

 なるべく、賢く立ち回っていると思うが、危なかったことも詐欺られたこともある。


 最初は貸した金をちゃんと返して信用させてから、次は額が大きい金を借りて、バックレる。

 後から典型的な手口だと知ったが、もう遅かった。

 昔の話じゃない。

 エアが入院してる間に金を貸した冒険者は逃亡していた。

 金が必要な時に限って。

 探す労力と費用がもったいないので追って来ないと思ってるだろう。

 詐欺師の思惑に乗るのは業腹ごうはらだが、その通りでもある。

 どこかで会ったら絶対、きっちり取り立てよう。


 ******


「そうそう、エアさん。この前、エアさんに絡んでた男二人と、割って入った実はグルだった女冒険者。前後して指名手配が回って来ましたよ。強盗殺人の常習だったらしいです」


 エアの納品依頼を達成処理した後、受付嬢がそんなことを教えてくれた。

 絡まれたのはもう一週間ぐらい前の話だ。


「奪ったギルドカードを使ってるってことか」


 街に入るには身分証のチェックが入り、それで犯罪者は分かるようになっているのだが、それは本人の身分証なら、であり、魔力を通すチェックまではしていない。

 身分証がない場合、入街料を払えば入れるが、冒険者ギルドで依頼を受けているのなら、他の人のギルドカードを使っている、と推測出来る。

 ギルドカードもランクアップの時ぐらいしか、魔力を通さないのだから。


「ご明察です。鑑定スキル持ちがゴロゴロいるのに、いい度胸してますよ。マナーと魔力節約で全員に鑑定してるワケではありませんが」


 そう。冒険者は鑑定スキル持ちが多いのだ。

 宝箱やドロップ品の鑑定はギルドでもやってくれるが、金がかかるので、頑張ってスキルを生やす人も多いし、鑑定が出来るマジックアイテム持ちも多い。


 エアも人も鑑定出来る【鑑定モノクル】を持っているのに鑑定しなかった。

 今度からは怪しいと思ったら鑑定しよう。


「確かに。あいつらに賞金がかってる?」


 殺された人の遺族が金持ちか貴族、もしくは何らか関係がある人が金持ちなら、かなりの賞金がけられる。いわゆる賞金首だ。


「そこまでは。でも、国からの報奨金は出ますよ」


 何人か殺してるのなら生死問わずだ。

 報奨金がなければ、中々捕まらないのが現状だった。


「見付けたら討伐しとく」


「お願いします。彼らの顔を知ってる人も少なくて」


 どこにでもいるような格好をしていたので、見分けが付け難いのもあるのだろう。意図的に、か。

 エアも奴らの容姿を絵に描けと言われれば自信がないが、耳がいいので声の区別は付くのだ。



 数日後。

 鑑定スキル持ちの商業ギルドの職員が見付け、警備兵たちが指名手配犯たちを捕まえた。

 結局、エアは会わなかったが、奴らにとっては幸運だったことだろう。

 犯罪奴隷に落とされようが、生きているのだから。

 強制労働場所は人間扱いしない場所もあるそうなので、遅かれ早かれ同じかもしれないが。


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