014 倒したもの勝ち!

 アサルトボアの血抜きをしてる間、その場を離れてしまうと他の魔物の餌食になってしまうので、エアは買ったばかりのカエル肉の下処理をすることにした。


 今回は塩・砂糖水に漬ける方法を選ぶ。

 防水袋もカエルの胃袋をなめした加工品だ。カエルはそこそこ使える素材がある。

 一口大に切ったカエル肉に、フォークでプスプスと穴を空けてから、塩、砂糖を同量溶かした水の入った防水袋に入れて揉み、しばし浸す。

 これでしっとり柔らかくなるのだ。

 お昼に焼けばちょうどいいだろう。

 ついでに、野菜も切ってスープを作り、煮込んでる間に、周辺の薬草採取をする。時間を無駄にするのは趣味じゃない。


「おい、そっちに行ったぞ!」

「回り込んで追い込め!」

「木が邪魔で先回りなんて出来ないって!」


 そんな声とガザガザ、バキバキという音が遠くから聞こえて来たので、エアはまずもうすぐ出来上がりだった鍋を【チェンジ】でマジックバッグに収納した。

 熱いままでも収納出来る所も重宝している。時間停止じゃないので冷めるが、ホコリや砂が入らないのはいい。


 エアは耳を澄ます。

 冒険者たちが躍起になって狩ろうとしているのと、獲物の逃げる音からして鹿の魔物…フォレストディアか。

 低ランク冒険者だとマジックバッグは持っていないので、丸ごとは持って行けないが、肉も美味しいし、毛皮や角もいい金になる。


「あーん、逃げられちゃう~」


 女の声が遠くから聞こえるのと同時に、フォレストディアはエアが視認出来る所まで出て来た。

 ちゃんと準備していたエアはフォレストディアの目を潰した。投石で。

 いきなり視界を奪われたのと痛みですっ転んだフォレストディアは、木にぶつかって止まる。エアはすかさず近寄り、首をねた。


「かーっ!完全に逃げられた!くそっ!」

「…はぁはぁはぁ……げ、元気だね…」

「狙ってたんなら行き止まりに誘導したんだけど、偶然、遭遇しただけだしな…」

「まぁまぁ。次、頑張ろうぜ」

「あー食べたかった~…腹減った~」


 嘆きながらも声は遠くなって行く。完全に諦めたらしい。

 エアが横取りしたワケではなく、倒したもの勝ちである。

 意図していなかったとはいえ、魔物を誘導して来るのはかなりの危険行為だ。

 故意による「なすりつけ」なら冒険者ギルドから罰則がある。中々証明が難しいので、滅多に訴える冒険者もいないが、一応。


 さぁ、また穴を掘ってフォレストディアの血抜きするか。


 ******


「おおっ!アサルトボア!フォレストディアもか!きっちり血抜きしてあるし、状態もいいから、買取額も期待しててくれ。エアは肉だけでいいのか?」


 エアが森で昼食を食べてから戻ると、肉屋のおやじは大喜びした。


「ああ。でも、食べ切れないから、分割だと嬉しいんだけど。肉の種類はその時にある近いものか、なければハムや腸詰めの加工品でもいいから」


「それはこっちも助かるな。何か札でも作るか。先払い済ってことで」


 肉屋は店主のおやじだけじゃなく、他の店員もいるし、時々臨時で手伝いに入ってる人もいるので、札の提案なのだろう。

 口約束だけではよくないこともあるのか。

 エアもそれでいいので、早速、木札を作ってもらった。これで、しばらく肉に困らなくなった。


 いや、エアは狩りには自信があるので、いつも困らなかったのだが、血抜きや解体場所を選ぶ必要があるし、狩りの頻度が高いと近場に獲物がいなくなってしまうので。


 ******


 肉屋の後、エアが冒険者ギルドに薬草を売りに行くと、買取カウンターの前で何やら揉めていた。

 思ったより買取査定額が低く、男四人パーティの中の一人が自分の取り分に不服があるらしい。


「ほらほら、邪魔。向こうでやれ!」


 昼過ぎの半端な時間とはいえ、買取カウンターに並んでる冒険者も数人いた。

 担当職員がさっさと追い払ったので、すぐにエアの番になった。

 薬草はちゃんと手持ちのリュックに移し替えてある。

 買取・解体担当職員はエアがマジックバッグ持ちなことを知っているが、他の人たちへの対策だ。


「お、エアか。今日は薬草ばっかか?ディア系の皮が品薄なんだが、持ってないか?」


 鉱物ダンジョンの側なので、普通の魔物の素材はただでさえ、品薄だった。王都なので他の地域から色々入って来るものの。


「ない」


 よく使う物、つまり、需要が高いものは肉屋経由で売った方が買取額がいい。ただし、冒険者ギルドで買い取ってもらわないと、実績にはならないが。


「森に行ったんだろ?ディア系、見かけなかったか?」


「見たけど、おれの狙いはボアだったんで」


「え、肉は?」


「肉屋依頼」


「また肉屋に先を越されたか…。色付けるからこっちもよろしく。ディア系の皮な!」


「片手じゃ解体は無理」


 エアは左袖ののを見せてやる。


「…あー……そうだっけ。何か前より元気そうで、もっと色々持って来るからつい…。って、あれ?エア、【解体】スキルを持ってなかったか?」


「発動しなくなった。条件があるようだぞ。他のスキルは使えるけど」


 エアはとっくにスキルの確認はしてあった。

 解体スキルがあると、色々と省略出来るし、速く解体出来るのだが、片手がない不自由な状態だとスキルを使うのは無理、ということだろう。


「じゃ、義手を着けたらスキルも使えるようになるのか?」


「さぁ?」


 その辺はエアがどれだけ義手を使えるようになるか、も関係するだろう。


「ちょっとツテを辿って探してみようか?」


「有り難いけど、魔道具の義手?」


「…うーん、それはさすがに難しいな…。錬金術師も魔道具師も、大半は貴族に囲われちまってるし」


 だから、といって貴族に関わりたくないのが平民である。

 中には普通に良識を持った貴族もいるハズだが、悪名高い貴族の方が遥かに多いだけに。


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