第3話 深夜バイパスにて

 O バイパス。進入禁止の看板が立てかけてあり、誰も入れないような措置が施されていた。だがしかし今日は違う。立て看板は外され、代わりに二人の警官が立っていた。


 この二人に与えられた任務はただ一つ。深夜ここに現れる一台の車を O バイパスに通すこと。


「ふわあ、眠いなぁ」


一人がポケットからタブレット型の菓子を取り出し、一粒口に含んだ。強烈なミントの刺激が気休めとはいえ、一時的に眠気を飛ばす。


「先輩も一つどうですか?」

「おお、すまんな」


 ほいっと投げられたプラスチックケースを受け取り、もう一人の警官も一粒口に含む。


「それにしても暇っすね」

「ああ、忙しすぎるのもアレだが、こうも暇だとやってられん」

言わばこの二人の仕事はただ立っているだけ。仕事中のため暇つぶしにケータイを弄ることすら出来ない。

信号が青になる。一台の車が O バイパスに向かって走ってくる。立ち入り禁止を知らない外部の人間か、噂を知らない馬鹿か。あるいはその両方か。警笛を鳴らし止まらせる。

 先輩刑事が事情説明のために、運転席側に近づいた。窓が開く。


「すいません、こちら現在通行止めでして。M 市に向かわれるようでしたらお手数ですが、こちらを右折してまっすぐ行けば――」


運転手が否定するように手を振り、警官の言葉を遮らせる。


「お務め御苦労。ここの使用許可は取ってある」


 そう言って運転手は胸ポケットから警察手帳を取り出し、警官に見せる。

 加賀義彦。二人の警官が待っていた人物である。すぐさま敬礼をした。


「ハッ。お疲れ様です加賀刑事。確かに許可は出ています。どうぞ」

「ああ。連絡は受けたと思うが、今から俺が行う任務は詮索無用。すみやかに署に戻って休んでいいぞ」

「はい、わかりました」


警官の言葉を聞き、加賀の車は窓を締め走り出す。走り去るテールランプを尻目に、警官は後輩に向かって声をかける。


「おい、俺らの任務は終わりだ。さっさと片付けて署に戻るぞ」


 立て看板を元の位置に戻し、近くに停車していたパトカーに乗り込んだ時だった。ゴオオンという地響き。思わず二人は音の方、魔のバイパスの方へ向く。


「どうします? 先輩」

「いや、俺たちは署に戻る」

「……はい、わかりました」

どこか不服そうな声。彼とて今の音は気になる。出来るならあの魔のバイパスへ赴き原因を確かめたい。だが加賀ではない、上司の言葉が頭に響く。


『君たちがこれから会う加賀義彦という人物そしてその任務。その二つに関しての一切の詮索を禁じる。これはトップシークレット《最 重 要 機 密》。破れば君たちの進退に関わる』


グッと好奇心、使命感に蓋をする。

パトカーは走り出した。バイパスに背を向けて……。


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