第2話

「アキトは今日も書庫整理?頑張るねーというか、書庫と自室このへやを繋げたんでしょ?」

秒速で食堂に行くのは諦め、セノは書物やレポートの散らばるアキトの部屋を眺めた。アキトがあまりにも書を好むため、どれだけ本を置いても良いように床は金属で補強してある。だがその床は紙、紙、紙。時折、背表紙の布や革で覆われていて。

「人が住んでる部屋とは思えないね。」

長兄の部屋と違って、服が散らばっている訳ではないのが余計に生活感の無さを感じさせる。まぁ、放っておくと倒れるまで寝ないのがアキトなので生活感がないというのも……。

セノが言わんとしたことを感じ取ったのか、アキトは気まずそうに、

「知識を求めるのはアテナ族の本能だから」

と言い訳をした。

「………アキト?」

「……」

よく見れば彼の瞳の下には薄っすら隈があった。

「アキト、休んでないでしょ」

「……、否定はできない。」

一瞬の沈黙の後、アキトはそっぽを向いたまま返事をした。

この反応は二日程度寝ていないな、とセノは検討をつける。だがまぁ、世話焼きの三男がなんとかするだろう。と説得は諦めた。

ふと時計を見れば、長針が〔II〕をカチリと過ぎた。

八時はとっくに過ぎてしまったところだが、まだ卵焼きは残っているだろうか。

残っていないとしても、お腹も空いたしそろそろ食堂に行きたい頃合いだ。

それに、パジャマで降りるなだとか、朝ちゃんと起きなさいだとか。そんな小言がいつ再開するかもわからない。

「アキトは、朝ご飯なんか作ってもらうかい?」

なるべく自然を装って食事の話題を出すと、流石にお腹は空いているのか、アキトは「うーん」と悩み始めた。

よし、罠にかかったな。

「ミヅキなら、書庫整理しながらでも食べれる物作ってくれるよ?それに、私がここまで届けてあげられるけど。」

魅力的であろう提案に、サンドイッチとかさぁ。と具体的な候補を出す。これでどうだ!とセノがワクワクしながら答えを待つと、しばし考えた後にアキトは頷いた。

「あー、うん。確かに食べたいかも。セノが食べ終わってからで良いから後で持ってきてくれる?ミヅキにも頼んでもらって良い?」

その言葉を待っていた!

「よし、了解しました!」

セノはバッと踵を返すと、アキトが小言を思い出す前にポールを掴んだ。掴んでしまえば、正直こっちのものである。

「んじゃ、行ってくる!」

ひらひらっと手を振ると、ようやく気づいたのかアキトが目を見開いた。

「あ、セノ!だから服‼︎」

ペロッと舌を出し、セノはアキトに捕まる前にスーッとポールを滑り降りた。

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