第2話

朝日が窓ガラス越しに差し込んでいる。

俺は頬をつねる。

痛い。やっぱ夢じゃなかったか。

俺は起き上がり階段を降りリビングへ向かう。


俺「お、おはよう」

美湖みこ「おはよー!」

母さん「朝ごはん出来てるよー」


いつも通りの朝だ。

すると新聞紙を掴んだ親父が思い出したように言った。


親父「そういや美湖みこ、今日のTの予定は?」

美湖みこ「たぶん昼にお客さまとカフェで会うよ」

親父「そのあとが狙い目か」

母さん「じゃあ私はいつもの路地裏で待機ね」


何の話か全くわからないが少なくとも殺し屋関連だろう。


親父「今日仕事休憩中に行くから先にあれ用意しといて」

母さん「はーい。じゃあ私は解体用の包丁これから入手するわね」

美湖みこ「みこは学校でT見とくねー」


俺「少しは気にしろよ!」


「「「え」」」


俺「『え』じゃねーよ!昨日の今日なんだから俺が言うのもなんだけど気使えよ」


親父「もう言ったし協力してくれるって言ったから隠す必要ないかなって」

美湖みこと母さんもうなずく。

すると思い出したように


母さん「そういえば真樹まき今日からいるわよ」

親父「あーじゃあお客様におとりしてもらわずに済むな」

美湖みこ「じゃあお兄ちゃん今日学校やすんで?」


俺「思い出してすぐ利用しようとするなよ」


親父「まぁまぁ今日、真樹まきは初仕事なんだから安心しな」

俺「それはそれでいいのかよ」

母さん「高校にはもう休むって連絡してあるから」

俺「その安心はいらないんだよ」


俺は一度深呼吸をして叫ぶ。


俺「俺の華の高校生活を返せ!!」


親父「誰もまだ取ってないだろ」

母さん「そうよ。1日目休んだだけでしょ」

美湖みこ「お兄ちゃんよくきいて。みこが小学1年生の1日目に初仕事だったの。それに比べたらお兄ちゃんは恵まれてる。返せって言うなら、みこの高校までの人生も返して。」


俺「ごめんて。怖いって。急に饒舌にならないでください。怖いから。」


そうして俺は折角の高校生活のスタートダッシュに遅れてしまった。


―—————————————


美湖みこと親父が学校と会社に行った後、俺は気になったので母さんに聞いてみた。


俺「母さん、Tって何?」

母さん「あーターゲットのTよ」


俺「お客様は?」

母さん「依頼してくれた人よ」


俺「どうやって俺たち家族に依頼するんだ?やっぱボス的な人がいるのか?」

母さん「違うわ」

俺「じゃあどうやって?」

母さん「殺し屋の依頼サイトがあるの。この人殺してくださいって仕事がそのサイトに掲載されて早い者勝ちで受けるのよ」

俺「簡単に捕まりそうじゃん」

母さん「大丈夫。闇サイトだから。」

俺「じゃなかったら困るだろ」


母さん「登録も無料だから簡単に稼げて嬉しいわ」

俺「簡単じゃないし、何かこういう広告あるよな」

母さん「誰に話しかけてるの?」

俺「聞かないで」


俺「まさかだけど登録ってサイトに何か個人情報書いたのか?」

母さん「えーっと住所、電話番号、氏名、年齢、メールアドレス、経歴、あと好きなk」

俺「もういいもういい、めちゃくちゃ危ないじゃん」

母さん「でも安心安全って…」

俺「まず殺し屋の時点で安心安全ではないだろ」


母さん「でも私たち家族殺し屋には契約してるスポンサーいるのよ」

俺「バックにスポンサーは殺し屋ではありえないって」

母さん「流石に嘘よ」

俺「よかった…ってなるかよ」

母さん「でもちゃんとした殺し屋よ」

俺「だからそんな概念はなからないんだよ」


―—————————————


そして殺し屋としての初仕事の時間がやってきた。


俺はTとカフェで待ち合わせしている。

美湖みこから見せられた写真と同じ人物が近づいてくる。

俺は椅子から立ち上がる。


俺「こんにちは!たかしさんですか?私、真樹まきです!」


数時間前―——————————


美湖みこ「今回のTはこの人、たかし

美湖みこから30代くらいの男性の写真を見せられる。


俺「いい人そうじゃねーか。お客様は何でこの人を殺してほしいんだ?」

美湖みこ「この人は某マッチングアプリでお客さまと出会うなり一時的にお客さまのストーカーをした人」

俺「怖いな」

美湖みこ「怖かったお客さまはすぐに依頼したの」

俺「普通警察とかじゃないのか?」

美湖みこ「けいさつは動かないの」

俺「だからって殺すまでするか?」

美湖みこ「それくらい怖いもんなの」


美湖みこ「このお客さまは依頼するなりTの近くに住んでTの情報収集をしてくれた」

俺「なんか逆にお客様がストーカーみたいじゃないか」

美湖みこ「ただ協力的だっただけだよ」


美湖みこ「お兄ちゃんは女装してこの人とマッチしてほしいの」

俺「最初から女装かよ」

美湖みこ「なぜかみこたち殺し屋にはこの案件ばかりこれからくることになると思うから我慢して」

俺「なんでだ?」

美湖みこ「しらない」


俺はウィッグを被り、女物の服を身に着けただけの簡易な女装をした。


親父「真樹まき、お前女装似合うと思ってたらやっぱ可愛いな」

俺「狙っただろ親父」

母さん「狙ってないわよ。かわい~」

俺「マジ殺すぞ」


―——————————


こうして今に至るわけだが…


T「いや~真樹まきさん写真で見るより実物のが可愛いですね~」


男の俺でもわかる。こいつは誰にでも同じことを言っている。

ジロジロ見るTに俺は苛立ちを覚える。


俺「たかしさん!そんなことより私、行きたいとこがあるんです…」

T「え?何どこどこ?」

俺「暗いとこ行きません?」

T「え~真樹まきちゃん早速?俺はいいけど~」


いつから『ちゃん』呼びになったんだ。

気持ち悪さと苛立ちを感じながら俺は言う。


俺「ついてきてください」


Tは相変わらずニヤニヤしている。

俺はTを暗い路地に連れてきた。

後は親父や母さんの仕事だ。


俺は2回手を叩き合図を送る。


バンッ


同時に発砲音が路地に響いた。

Tが倒れたとこを見ると以前見たことがある光景が現れる。


俺はそこからは眠ってしまい記憶にない。


―——————————


目が覚めるとまた自室のベッドに俺は普通の恰好をして寝ていた。

時間は深夜2時。

起き上がり階段を降り俺はリビングに向かった。


家族はみな寝ているようでリビングには誰もいなかった。

真ん中にあるダイニングテーブルの上にウィッグと女物の服が置いてあった。

俺が今回着たものではない新しいものだ。

俺は苦笑いを浮かべながらボソッと呟いた。


俺「マジで夢であってくれよ…楽しんでんじゃん…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る