第32話 『成るべく動物園長』/なるべく動物園

「なるべく動物園の飼育員になりたいな」

 彼は夢を語った。

「絶対動物園長に成るべく人材だよ!」

 なぜなら、彼は生ける伝説だから。


 猪突猛進の代名詞であるイノシシが人里に出現した時、彼の目前で急停止した。

住宅街に野猿が出没し、警察官を動員しての大捕り物劇が展開された時、猿の方から彼に寄ってきた。


「動物に好かれるフェロモンでも出てるのかな?」

「実家でずっと、犬や猫を飼っていましたが……」

 動物好きのレベルは、とっくに超越している。


 彼の噂を聞きつけて、ダチョウをメインにした小規模動物園の園長が、話を持ち掛けてきた。

「わしももう歳だし、後継者になってくれんか?」

 そこからはあっという間だった。動物取扱業の代表者変更の届けを提出したり、と準備に取り掛かった。


 彼が新園長に就任してから退職者が相次ぎ、元々少なかった入園者数は……

「人間に好かれるフェロモンは持ち合わせていなかったようで……」

 項垂れる彼の肩を叩いた。

「閑古鳥と俺がいるよ」

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