第31話 『涙で錆びたくさび』/チョロいの、くさび

 学級副委員長に始まり、副キャプテン、生徒会副会長、副部長……あらゆる集団に属する度に「副」の立場を務めてきた。

立候補したことはなく、全て他薦。首長自ら右腕を頼んでくることが多い。

外部、時に内部とも衝突してしまうカリスマの理解者で、周囲とのパイプ役。


 常に輪を尊び、勢力が二分しないように心を砕いてきた。

そんな僕に付けられたあだ名は「くさび」。

 損な役回りだと思うこともあるが、こんな自分も嫌いじゃなかった。

見返りを求めるわけじゃないけど、巡り巡っていつか自分に「福」が来る予感もして。


 ある日、部室の中から話し声が……

「チョロいの、くさび」

 あぁ、部長の取り巻きか。わかってないなぁ。

部長はこの手の輩は相手にしない。むしろ嫌いだぞ。

きっと、「楔には接合を強固にする役目もあるんだ」などと熱い反論をしてくれるはずだ。


「使い勝手のいい調整屋をさせてるのに気づいてない。チョロいよな」

 耳を疑った……。

家に帰って、涙目で退部届を書いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る