第28話 『眠れる森のろくでなし』/カフェ4分33秒

「別れ話は二人きりの空間でしない方がいいぞ」

 ろくでなしの兄から得た、唯一の有益な情報だった。


「どうせお前が付き合う奴は、俺と似た人種だろうからな」

 いばら姫の誕生祝いに魔女がかけた呪いのように知らぬ間に刷り込まれ、導かれていたのか。男運がない、いや、男を見る目がないと自覚している。


「別れてください」

 カフェで向かいの席に座る男に告げてから、沈黙が続く。

ジョン・ケージが『4分33秒』で表現したように、沈黙とは無音ではない。言葉を発しないけど、音がある。

……というか、貧乏ゆすりがどんどん激しくなっている。


「キレやすい男とは5分で話をつけろ」

 兄の助言通りに4分33秒で合鍵をテーブルに置き、伝票を持って立ち上がった。

背後でドンと椅子を蹴る音がした。


 兄は決して自分よりも弱い者に手を挙げる人ではなかった。

面影を追っても、辿り着けやしない。

血が繋がらない連れ子同士、生きていてさえくれれば、結ばれる未来があったかもしれないのに。

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