変な校則

西順

変な校則

 うちの高校には変な校則がある。男女の告白は立会人の前でする。と言う校則だ。うちの高校は古く伝統のある学校なのだが、昔は不純異性交遊禁止だったのを、当時の生徒会長が立会人の元に告白し、それが了承されたならば、それは正式な男女交際と認められるのではないか。と屁理屈をこねてこの校則を学校に通して、男女交際オーケーの学校に変えたのだと言う。驚く事に生徒手帳にまで記載されている正式な校則である。


 だが、そんな校則を現代で守る高校生なんているはずない。いるはずがないと僕は思っていた。目の前に立つ風紀委員長の春日井さんを前にするまでは。


 春日井さんはこの学校の風紀委員長をしており、凛とした立ち姿に黒髪ロングを三つ編みにして、黒縁メガネで制服も生徒手帳に記載された通りで改造なんてしない、真面目を絵に描いたような女子だ。校則の鬼とまで言われる彼女は、校内で染髪している男子や、スカートを短くしている女子などに怯みもせず、良く注意をしている姿が見掛けられた。


 そんな彼女が、生徒会長を立会人として僕の前に立っている。その表情は、こちらからは普段の彼女が生徒に注意する時のように睨んでいるように見える。これって告白なのか? それとも何か注意される為に呼ばれたんじゃ? この異常事態に立会人の生徒会長だけでなく、遠巻きに野次馬たちまでが僕たち三人を見守っている。


 何故彼女が僕に好意を寄せてくれているのか、それは僕には分からない。だって僕は風紀委員でもなければ彼女のクラスメイトでもないのだ。接点と言えば、昨日の放課後、図書委員として彼女が探していた本を探すのを手伝ってあげたくらいだ。なにぶん古い学校なので、データに紐付けられていない図書が少なくないのだ。


「柳沢くん」


「は、はい」


 思わず返事をしてしまったが、名前を覚えられていたのか。


「昨日、私の為に献身的に本探しを手伝ってくださった姿に、心を撃ち抜かれました。私と交際してください」


 本当に昨日の本探しが切っ掛けで、しかも昨日の今日で告白してきたのか。凄い行動力だ。


「柳沢くん、返事を」


 生徒会長に促され、僕は姿勢を正した。春日井さんを見れば、真っ直ぐに僕の目を見返してきていた。これは濁した返事は出来ないな。


「春日井さん、ごめん」


 俺の言葉に春日井さんは目に涙を溜めて俯く。


「本当は僕の方から告白したかったんだけど、君に告白させる事になるとは思わなくて」


 この言葉に顔を上げる春日井さん。


「それじゃあ……」


「頼りない僕で良ければ、よろしくお願いします」


 差し出した僕の右手を、春日井さんは両手で握り返してくれた。沸き上がる野次馬たち。別にあいつらの見世物になる為に、僕も春日井さんもこんな事をした訳じゃないんだけどな。


 春日井さんの告白にオーケーしたのは、勿論彼女の事が前々から好きだったからだ。彼女は放課後によく図書室を利用していた。借りていく本が僕が好きな作家の本と良く被っていたので、気になっていたのだ。そして彼女は本の扱いがとても丁寧で返本する時など、表紙を上にタイトルをこちら向きにして、こちらが何の本なのか確認出来るように返本してくれていた。その心遣いに僕の心の方こそ撃ち抜かれ、いつの間にか気になる存在から好きな子になっていた。


 しかし校則があるから告白出来ずにいた僕と比べ、厳格な彼女らしい告白だった。更に惚れ直してしまった。それでも野次馬の話のネタになったのは頂けない。僕は春日井さんの手を握りながら、次の生徒会長選挙に立候補し、この悪習とでも言うべき校則を廃止させる事を心に誓うのだった。

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