第5話:地下にある秘密の部屋
お姉ちゃんが僕のところに来るようになってから1週間が経った。
最初は鎖を外してもらってから言葉や時間を教えてもらったし、この部屋が暗いから照明っていう明るい物も置いてくれた。
「……よいしょ…よいしょ…」
今はお姉ちゃんが来るまで歩く練習をしている。外の世界が知りたい、教えてもらった物が動いているところが見たい…そんな一心で練習をするけど、歩く練習をするようになってからお腹が空いてくる。
けど、部屋の外には出た瞬間にあの人が居るかもしれないと考えちゃうから出られない……
時計のカチカチ音だけが部屋に響く。
カチャリ…と、扉が開いた音が聞こえた。
「お待たせ、ガオウ」
「お姉…ちゃん……」
「お腹空いてないかな?」
僕はこくりと頷く、お腹が空いてから来るなんてお姉ちゃんは未来でも視えてるのかな?
「はい、サンドイッチだよ。」
「サンド…イッチ……」
緑とピンク色の物を挟んだ白い食べ物、僕の第一印象はそうだった。
「手で持って食べれる?」
「うん、食べれる」
「挟んでる具材を落とさないように気をつけてね」
お姉ちゃんがサンドイッチを手渡してきたので両手で受け取る。
触ってみるとふわふわした白い物の間に具材の感触があった。
(手で持って食べる……)
ふと、そう思った時だった…手から変な感じがした。まるで…手で食べてるような…
「………????」
視線をお姉ちゃんの方に向けたが、お姉ちゃんは僕の手を見て呆然としてる。
僕も自負の手を見てみると…
手首から先が頭のような形になってサンドイッチをガジガジと噛みきったりして食べていた。
「……美味しい…」
けれど、白い物や挟んでる具材の食感はある。
「…た、食べれてるの?」
「うん、減っていってるから食べれてるよ」
「……ガオウって、不思議ね」
「不思議?」
「多分だけど8年間何も飲まず食わずなのに死にかけてた様子もなくて…知識の飲み込みも早いし、今の手の状態だって…不思議そのものよ」
「………怖くないの?」
この姿で産まれて物心ついた時からあの人から虐められていた、あの人からは怒りや恨みの他に理解が出来ない恐怖が奥底に有るような気がする。その感情だけはすぐに理解出来た、そしてお姉ちゃんのお陰で再確認出来た僕はお姉ちゃんとあの人とは身体のカタチが違うのだから…
「怖くないよ、弟だからね」
「不思議なのに?」
「そうだよ、不思議な事でも怖がってばかりで知らないままで押さえつけるなんて…つまらないって私は思ってるからね」
「…………」
目から水が出てきた…
「え、今の話で泣く所あるの!?」
「な、何でだろ…悲しくはないのに…止まらないよ……」
「……ガオウは嬉しくて泣いているんだと、お姉ちゃんは思うよ」
「嬉しくて…?」
「泣くってことにも色々あって悲しくて泣く時もあれば嬉しくて泣く時もあるんだよ」
「そうなんだ…」
ピチャンと僕の涙が床に落ちた音がすると…
「…揺れてる?」
「じ、地鳴り!?」
後に屋敷全体かと思ったがこの部屋だけだったのをお姉ちゃんは知る。
「お、お姉ちゃんが守るからね…!」
「うん…」
お姉ちゃんの方が脆いのに…僕を庇ってくれた。
どれくらい経ったかは分からないけど地鳴りは収まった気がする。
「…収まったみたいね。ガオウ大丈夫?」
「うん、お姉ちゃんも大丈夫?」
「もちろん大丈夫よ。」
お姉ちゃんはキョロキョロと部屋の様子を見てる。
「?おかしいわね、扉がここにもあるなんて…さっきの地鳴りのせいかな……」
「扉…?」
「お姉ちゃんが使う階段の先に扉があるのは知ってるよね?」
「うん、いつも聞いてるから知ってるよ」
「それとは違う扉があれよ」
お姉ちゃんが指さす先に灰色に赤が混じって錆びたような色をしていて上の方に丸っこい装飾がされた大扉があった。
「ほんとだ…あんな扉見た事ないよ」
「ガオウでも見たことが無いってことは…今まで隠されてたってことね」
お姉ちゃんが大扉の方に向かう、僕も覚束無い足取りで追いかける。
「…私の
お姉ちゃんが扉に触れようとすると…
『やっと、ここを開けようとする者が居るとはな』
声が聞こえてきた。
「だ、誰!?」
『ここだ
「上から聞こえる…」
「上……」
僕が顔を上げるようにお姉ちゃんも視線を上に向けると……
『我はこの扉の先に向かう者を見定める者だ』
「か、か、兜が喋ったー!?」
あの丸っこい物って兜って言うんだ。見定める者なのに兜被ってるんだ……
『話が進まなくなるからほおっておいて確認させてもらうとしよう。』
兜の一部分が動いてその隙間から目が見えたあれなら確かに見定める者とは言えそう。
『ふむ……これもまた因果と言うべきか。母胎として優秀な姉と全てをひっくり返す可能性を秘めた弟か』
「当たり前よ、私はこのフィアンマブル家の当主になるのよ優秀で無ければご先祖さまに申し訳が立たないわ。それで、ガオウが全てをひっくり返す可能性を秘めてるってどういうことよ?」
『対外には強気を見せるその強かさに答えよう。汝の弟は…██████だ。』
「え…何て言ったか聞こえなかったんだけど……ガオウは聞こえた?」
「うん、██████って聞こえたよ。」
「……私、その部分だけ聞こえない」
「…お姉ちゃん、ほんと?」
「ええ……」
『聞こえないようにさせられているのやもしれんな』
お姉ちゃんには…『異形を喰い殺す鉄の異形』が聞こえなかったんだ…
『まぁ、分からなくとも汝らの人生には特に差異は無かろう』
「……そっか…」
「そうなんだ…」(お姉ちゃん…落ち込んでる?)
『この扉の先には何時でも入って大丈夫だが…姉よ、時間は大丈夫か?』
「ええ、大丈b…じゃなかった!これ以上は流石に怪しまれるからガオウ、お姉ちゃんはここら辺でお暇させてもらうねー!」
「うん、また明日ね」
コケないように気をつけながら階段の方に駆け足で向かうお姉ちゃんの背中を見送る。
『忙しない姉だな…さて、鉄の異形たるガオウよ。この先に進むか?』
「………うん、何があるか分からないけど行くよ」
『思い思われの姉弟であるな。我を連れていくことを許可しよう』
扉が音を立ててゆっくり開いていくと同時に兜が地面に落ちた。
「よいしょっと…」
僕はその兜に近づいて抱え上げる。
「ちょっと重い……」
『兜なのでな重いのは仕方あるまい』
開いた扉の先を扉の陰から覗くとボッと火が壁に奥へと灯っていく。
「あれって…篝火?」
『少し惜しいな、燭台という物だ。近づけば装飾が付いてるのが分かるだろう』
「あっ、ほんとだ」
言われた通りに近づいてみると綺麗な黄金色をしている装飾や模様が入っている。
「それにしても、屋敷の地下にこんな長い廊下があるなんて知らなかったよ…」
『知らぬのも無理は無い、ここはフィアンマブル家の初代当主が未来の為に封印したのだからな』
「初代が…」
『その布石が今、効き始めるかはお前たち姉弟次第だがな』
「…無駄にはさせないから……」
『良い覚悟だ。その覚悟ゆめ忘れるなよ』
覚悟を忘れるな…その言葉がどのような意味を持つのかは今の僕には分からなかった。
◆
歩くこと5分、僕がたどり着いたのは…
「また扉だ…」
先程と同じ大扉だった。
『我の権限であれば容易いがな』
同じように音を立ててゆっくり大扉が開いていく。
「ありがとう」
『礼など必要ない』
開いた扉の間を通り奥へ進むとそこには…
「本がいっぱい…」
『ようこそ、この世の異形の全てを記録した部屋へ』
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