帰還
腕を組み、神子さまは非常に面白くなさそうな顔をしていた。
「ほんっとうに、人っ子一人いなかったの?」
「ええ、人っ子一人。あ、ネコやタヌキはいましたし、他にこちらの動植物のいくらかは見かけました。……連れて帰ってきた方が良かったですか?」
「いらないわよ、そんなもの」
私の言葉に神子さまは肺にたまった空気を全て吐き出すようなため息を吐いた。
「それで、その中央に立っていた石っていうのは?」
「言葉のままです。昔は人里だったのだろうと思しき場所の真ん中に……三メートルほどでしょうか? 何か文字らしきものが彫ってありましたが、いかんせん数千年経ってますから、どうにもこうにも読めませんでした。ただ、ともかくそれなりの大きさの石があって、それが結界を維持しているんじゃないかと思ったんで破壊しました」
「張った本人がいなくても維持のためのシンボルがあれば維持される結界……そんな珍しいタイプのものじゃないけど、ホーマ族が造った程度のモノでも数千年も持つのかしら……?」
そう神子さまが独り言ちる。
バリバリと前と変わらず菓子を食べるフロースタに、おシノちゃんは緊張の面持ちを浮かべて私の隣に座っていた。私が報告する全くのデタラメに神子さまが気づくんじゃないかと心配なのだろう。
「他に変わったことは? もうちょっとこう、あたしたちの役に立ちそうなもので」
私は少しの間考えるそぶりをしたが「残念ながらありませんね」と答えた。
部屋の中にあまり気持ちの良いとは言えない沈黙が降ってくる。あまり長時間の沈黙はよくないと思い、私は口を開いた。
「すみません、一つ聞きたいのですが、質問をよろしいでしょうか?」
「なに?」
「神子さまはあの特殊な空間を一方的に失くすことが出来るのですか?」
「そうね……今回の件であんたが壊してくれた石でホーマの連中の結界が破壊されたのなら可能ね」
「出来ていなかった場合は?」
「その場合は難しいわ」
肩をすくめてお手上げとでも言うかのような仕草を神子さまはした。
「こちらが空間を閉じようとしても内部の結界がそれを邪魔する。強引に閉じようとしても、向こうは何千年も保たれてきた結界だもの。ちょっとやそっとの力じゃ無理矢理に破壊することは出来ないわ」
「そうなのですか」
「まぁ、今度あたしたちが入れるかどうか試してみることになるでしょうし、空間を潰すかどうかはそれからの話ね。あんたの報告を聞く限り有用なものは何一つもなかったし、急ぐもんじゃないでしょう」
ずずず、と紅茶を神子さまがすする。
「それで、あんたらは今からどうするの?」
結界の話は終わり。そう言うかのよう神子さまは言った。
「トゥカノアさんのもとに行こうと思います」
「そう言えばもとはと言えばトゥカノアに用があってこの町に来たのよね、あんたたち」
「ええ、そうです」
と答えたが、そちらの意味での目的はもう達成されたと言って良いだろう。
しかしこれから先の展望は何一つとして見えてはいない。こうなった以上、これから先の動き方を決めるためにトゥカノアが持っているだろう他国の情報が欲しかった。
「まぁいいわ。とりあえずご苦労さん」
思った以上に神子さまはそう気軽に私たちを解放した。
部屋を辞する時も背中越しに手を振り、まるで少しの知己と雑談したかのような淡白さだった。ある程度の期待をされていると思っていたが、案外そうでもなかったのか、あれが彼女なりの心の平穏の保ち方なのかもしれない。
*
神子さまの部屋を出て、寄り道もしないで第三神殿の横にある史料編纂室の建物へと向かう。
「大丈夫だったでしょうか……?」
途中、おシノちゃんが心配そうに言った。
「あれだけウソを吐いて、バレたりしません?」
「大丈夫じゃない? あの神子さま、別に私たちを疑っている様子もなかったしさ」
「喰えない人物なのは確かなのよね。散々適当なことを言っておいてなんだけど、どこかに違和感を覚えていてもおかしくはない。ウソを吐く時には少しの真実を混ぜろ、とも言うしね。私たちが渡したのは完全にでっち上げの情報。変に意識するところがあってもおかしくないと思うわ」
「でもさ、それだったらどうして私たちをこんな簡単に解放したの? おかしいとか怪しいとか思ったんならあの場所で追及するんじゃない?」
それもそうではあるがと思いながら、それでもやはり完全に騙せたようにはどうにも思えなかった。確かに「収穫ナシでもその事実が収穫となる」と言ったのは神子さま自身だが、だからと言ってあっさりと解放されすぎた感覚はある。
と延々と考えていても結論は出ない。結局、ああでもないこうでもないと話している内に史料編纂室の建物へとたどり着いた。
ノッカーでドアを三回たたく。と、「はーい」とどこか間延びしたような声が聞こえてきた。
ガチャリとドアが開き「まぁ!」とトゥカノアが驚いたように言った。
「ここにいらっしゃるということは、神子さまから課せられた任務は……?」
「一応はこなしたということです。ただ、その結果に神子さまは納得されたかどうかはわかりませんが」
招かれるまま建物の中に入る。何かの資料をまとめている最中だったのか、机にはこの間よりもさらに雑多に紙の束が置かれていた。
「それでどうでした、異空間というものは?」
「どうもこうも、何もありませんでしたよ。人っ子一人いなければ結界を維持するためだけの石があったくらいで」
「そうなんですか。あれだけ秘密にしていたことですからもっと劇的な何かがあるのかなぁ、と私も半分わくわくしていたんですが」
そう少し残念そうに頬に手をやってトゥカノアは言った。
「それで、わざわざ私の元にやってきた理由は? 元々ホーマ族とツェーフェレナ族の関係を知りたくて私に接触したんですよね? それが途絶えた今、またどうして私のところに?」
「別になんてことはありません。今度はホーマ族に関係なく、広く情報を集めているとトゥカノアさんに助力を願いたいのです」
「ホーマ族に関係なく?」
「はい。この最近になって急激に力を増した勢力や存在、事件がないか教えて欲しいんです」
その言葉にトゥカノアが雰囲気を妖しくする。
「それはゼシサバル王国での冒険者集団『ラ・カレーロ』が起こした不可解な集団蜂起のような、ものですか?」
「ご存じなんですね、『ラ・カレーロ』の件を。王国はあまり公にはしたくないように感じられたのですが」
「事後処理は上手くやった方なのではないでしょうか? 私も詳しい事情は一切知りません。ただ、一時とは言えゼシサバル王国が戦争状態のような体制を見せたのです。流石に何かあったとは思いますし、何も探らないという選択肢はありませんでしたが」
「トゥカノアさんはどの程度のことまで知っているのですか?」
「単なる冒険者集団の蜂起……だけならいざ知らず、死者が行軍するようなことまであったとか。最後はどういうわけか全て砂塵に返り、王国としては大した損害はなかったのだからそれでいいだろう、と収めようとしているようですが、学者気質の官僚で納得している人はほとんどいないそうで」
「さすが、情報が武器と言うだけあってかなりのことはわかっているのですね」
「逆にこれくらい出来ないと情報だけでこの世界を渡っていくのは無理というものです。大海原にこぎ出すのであれば最低限の装備が必要ですから」
そう語る彼女の顔はどこか不思議なものを感じた。おシノちゃんやフロースタを見やると彼女たちも不意に見せた彼女の表情に何か思うところがあったようだ。
しかし、そんな顔をしたのは本当に一瞬のこと。次の瞬間にはまた何を考えているのかわからない、悪く言ってしまえば笑顔の仮面をかぶってしまう。
私も改めて言った。
「その情報網の力の一端を貸して欲しいのです。『ラ・カレーロ』の蜂起のように、明らかに尋常ではないと思しき事件がこの数十年の間に起こってないか」
そこでクスクスとトゥカノアが笑う。
「…………?」
「いえ、すみません。そのような情報を求めているのに勇者さまやワガクスさまのことについては一言も言及しないのだな、と思いまして」
「そ、それは――」
うっかりしていた。
確かに今のような質問をするのなら、第一に候補に挙がるのは勇者殺しとワガクス殺しだ。当事者であったからこそそのことを失念していた。
「それは……何と言うか……」
ごにょごにょと言っているとトゥカノアが「別に責めているわけではございませんよ」と笑った。
「千影さんがどのような力をお持ちなのかはわかりませんが、情報のやり取りということに関してはあまり慣れていないのですね」
「……情報は私にとっては常にもたらされるものでしたから」
そう私は小さく言った。
「情報を集め、策謀を巡らし、実行に移す。私が噛んでいたのは最後だけ。情報戦のなんたるかなんてことは微塵もわからないのです」
「……これは興味本位なのですが」
トゥカノアも声を小さくし、そっと顔を寄せてくる。
「実際のところ、勇者さまやワガクスさまは誰の手にかかったのですか? 魔族の仕業と言われていますが、魔族にそこまでの力があったとは思えません。特にワガクスさまは七百年前のカタストロフィ未遂事件を収めた三英雄の一人であり、一国の軍隊に比肩、その一挙手一投足が各国の蠢動をよんだ方々です。正直、本当にワガクスさまを倒せる魔族がいたとしたなら、もう世界は当に滅んでいるのではないかと思うのですが」
「それではトゥカノアさんはどう考えていらっしゃるんですか?」
「個人的にはゼシサバル王国の中枢まで巻き込んだ策謀がうずまいているのではないかと思っています」
「そして、そこに私たちも関与しているのではないか、と?」
冗談めかして言うと、彼女は「その可能性はゼロじゃないと思っています」と答えた。
それに私は「ご想像にお任せします。ただ、魔族にやられた、と片づけてしまうのは確かに短絡的すぎるかもしれませんね」と言葉を返し、「さて」と一息入れた。
「それで、話を戻すのですが、ゼシサバル王国で起こったようなことを数十年……いえ、数百年単位でもかまいませんから起こったという話を知りはしませんか?」
「そうですねぇ……」
これ以上勇者やワガクスについての情報を追求しても意味がないと思ったのか、トゥカノアは少し考えるような仕草をした。
「正直、私たちの手に負えない事件などは数十年に一度は必ずと言って良いほど起こります。ですが、それが勇者さまやワガクスさまの殺害に及ぶものかと問われるといささかスケールが小さいですね」
と、そうだ、とでも言うように手を叩いた。
「具体的に何があったというわけではありません。ですが、大山脈を越えたところにあるケアド帝国はこの五百年前に一気の短時間で政治体制が変わりました」
「政治体制が変わった?」
「それまでもケアド帝国は短いスパンで何度も政治体制が変わっていました。と言うより、ケアド帝国という名がついたのもつい四百年ほど前です」
「そう言えばツェーフェレナはケアド帝国とも交易がある、と初めてお会いした時におっしゃっていましたね。どのような国なんですか、ケアド帝国というのは?」
「帝国と言うと大きなイメージを持たれがちに思いますが、実際はそこまで大きくありません。ツェーフェレナより若干大きい、といった程度でしょうか? 五百年ほどまではそういったそう広くない国土にいくつもの勢力が存在し、細かく国となってわかれ、小競り合いが続いておりました」
「それが統一されてケアド帝国となった?」
「そうです」
その言葉に少し興味が湧いた。
日ノ本も、戦国の世には何十もの国があり、それをまとめあげたのが徳川の家康さまである。そして、その影には巫の家も噛んでいると聞いたことがあった。徳川さまと巫の繋がりは江戸の時分を通してずっとあったのだ。
「そして、ここに『真実を映す瞳』が関わっているとその筋の人間では言われています」
「真実を映す瞳?」
不思議な言葉に眉を若干ひそめた。
「『真実を映す瞳』は裏では『ヴィテインの瞳』と呼ばれ、現ヴィテイン皇帝のその独特の瞳の効力によって地域は次々と治められていき、現在のケアド帝国がなったのです」
「その真実を映す瞳とはどのようなものなのでしょう?」
「正直な所『ヴィテインの瞳』については情報が入り乱れ、どれが本当でどれがウソなのか見分けがつきにくいのです。ですが、なんでも彼の瞳にはありとあらゆるものの事象が嘘か真か必ずわかると言われています」
「それで『真実を映す瞳』ですか……」
「もちろん、今は瞳については特秘事項とされ、名前を知っているのは皇帝を含めたごく一部のみに限られているという話です。ので、あまり安易に口に出すと危ないかもしれません。ですが、真偽の見分けが本当につくのであれば内政から外交まで全て上手くいくのは当然でしょう。ブラフや駆け引きというものが成り立ちません。……と、少し待っていてください。まだ何もお出ししていませんでした。お茶を淹れてきますね」
奥に引っ込んだトゥカノアの背を見てふぅと小さく息を吐いた。
何気なしに窓辺に寄ると変わった色調の小鳥が近くに留まっていた。チチチ、と声を出すその姿は、人馴れしているように見え、私が指でガラス越しに指を動かしても逃げることなく、小鳥特有の小首を傾げるような仕草をする。
「ヴィテイン皇帝には他にも様々な噂があります」
戻ってきて、私たちにお茶を渡しながらトゥカノアは言った。
「もちろん最大の噂は『瞳』に関することですが、あれだけの数に分かれていた国をどう短期間でまとめ上げたのか、探せばもっと出てくると思いますよ」
「なるほど、ヴィテイン皇帝……探ってみる価値はありそうですね」
頭をまわす。
もたらされた情報、その『真実を映す瞳』『ヴィテインの瞳』というものがどういうものかは全く分からないが、このまま何もせずにツェーフェレナにいて時間を潰す理由もない。何かおかしなことがあったのならとりあえず探りを入れるのは必要なことに思えた。
「それでは、次はケアド帝国を目指すのですか?」
「そうなるでしょうね。『真実を映す瞳』、本当であれば実に興味深いものですから」
「なるほど」
言って、お茶を飲もうとして――
――違和感が私を襲った――
自分が口に含んだものをすぐさま床に吐き捨てる。
「おシノちゃん! フロースタ! お茶を飲まないで!!」
が、二人はすでにお茶を飲み込んでしまったらしい。一瞬で気を失ったのか、そのまま椅子から落ちて昏倒してしまう。
「くそっ!」
たん、と床を蹴って宙に舞い、トゥカノアから少し離れた位置で着地。そのまま居合いの構えを取った。
即効性ではないが、強力な毒。
致死量は?
二人の治療は間に合うか?
解毒剤はあるのか?
様々頭の中で考える。
「あらあら、まぁまぁ……」
そんな私にトゥカノアはびっくりして言った。
「結構な額のする、非常に貴重な毒なんですけどね。無味無臭。今まで失敗したことはなかったのですが……」
「解毒剤は? あるなら貴女の命がある内に持ってきた方がいいですよ」
「まぁ、怖い! でも、ご安心を。この毒は命まではとるようなものではありません。ただ少し昏倒させるだけの睡眠薬のようなものです」
「でも、どうしてこんなことを?」
「私も命は惜しいんですよ」
見やると窓の外に色調の変わった例の鳥がそのまま止まっていた。頭の中で線がつながる。あれは何かを伝えるためによこされた鳥なのだ。
その相手は誰か?
考えればすぐに答えが出る。
「神子さまはああ見えて実のところ疑り深いところがある人なんです。どのような報告を神子さまにされたかは存じ上げませんが、このような指示を出されたということは千影さんの報告を神子さまは一切信じていなかったということです」
「トゥカノアー」
次の瞬間、間延びした声が部屋の中に入ってきた。
「もう十分時間経ったと思うけど、どんな感じ、って……」
現場の状況を見やってから神子さまは何か文句を言いたげな顔をした。
「なによ、一番肝心なヤツが立ってんじゃん」
「どうやら毒物に対しての感度が並じゃないようです。飲み込まずにそのまま吐き出しましたから」
「ふぅん……。まぁ、このくらいの反抗をしてくれた方が骨があって良いかもね。寝てるやつをロープで縛り上げて、ただ拷問にかけるっていうのは面白くないもの」
神子さまは何かしら口述を刻むと一筋の水流をこの場に現した。それをどうするかと思うと、おざなりに水流の一部を握ったではないか。途端、水流が形を変化させる。
水の剣、とでも言えば良いだろうか?
どの程度の強度かはわからぬが、生ぬるいことはないだろう。
「アンタが悪いのよ? あそこまで適当な報告をするんだから。どうせほとんど……いえ、全部嘘八百の報告だったんでしょう?」
「どうして神子さまはそうお考えに?」
「あたしをバカにしすぎ。こちとらこの年でツェーフェレナの内部のあれこれに関わってこの地位にいるのよ? 素人のウソにやすやすと引っかかっていたら序列四位なんてとてもやってられないわ」
それに、アンタの隣に座ってた小娘は緊張でいっぱいだったしね。と言葉をつけ足した。
「なるほど……流石とおっしゃった方が良いでしょうか?」
「逆ね。あれで疑うなという方が無理ってものよ。流石もくそもあったもんじゃないわ。……で、ここからが本番」
神子さまがにんまりと顔を歪ませる。
「あんた一人であたしの相手が務まる?」
カツカツと音を立てながら私の方に寄ってきた。
「認識票はEランクだけど、実際はどのくらい? D? C? もしかしたらBくらいはあるのかしら?でも、その程度だとしたらうっかり殺さないようにしちゃわないといけないわね。情報を聞き出すっていうのが一番の目的なんだから」
「……よ」
「え?」
私の呟きに神子さまが眉根を寄せた。
「何よ、申し開きならもっとはっきりとしないと意味がないわよ?」
「――荷が重いのよ」
私ははっきりと言った。
「荷が重い……?」
「私の相手をするのに、貴女程度ではあまりにも荷が重いと言ってるのよ」
「なっ――!?」
瞬間、抜刀。
神子さまの水の剣を両断、絢爛豪華な衣装も断ち切り、彼女の真っ白な柔肌全体が瞬間的に露わになった。
「っ――!?」
「神子さま!」
思わずと言った様子でその場に全て隠すように神子さまが座り込む。
見たところおぼこだろう。ちらりと見た範囲では陰毛もまだ十分に生えそろっているようには見えなかった。相手を選ぶが、羞恥は相手を無力化するのに絶大な効果を発揮することがある。
「序列四位がどの程度なのかはわかりません。ですが、たった一人で私の相手をしようとする方があまりに愚かですよ」
「そんな!? 神子さまは冒険者レベルならAランクを下らないと言われているのに……っ!?」
「生憎こちらはそれ以上ということですよ、トゥカノアさん」
御刀をくるくると軽く遊ばせて鞘へと戻す。
さて、と気を取り直し、呆気に取られているトゥカノアとしゃがみこんだままの神子さまを前に居合いに構える。
「所詮は女子供。ですが、今度は服だけを斬るなんて甘いことはしません。お二人とも、次に何か怪しい動きをしたら間違いなく首が胴から離れるものと思ってください」
神子さまを見やると、その顔を真っ赤にして「う~」と睨むようにこちらを見やっているが、ここまでの恥をかいたのは初めてなのか、両目には大粒の涙が浮かんでいた。
そして、トゥカノアの方を見やって、「……解毒剤。二人分」とだけ言った。
それが彼女の完全な白旗だった。
「……どこからが嘘だったの?」
トゥカノアが奥の部屋に解毒剤を取りに行くと神子さまは座りこんだまま問うてきた。
「神子さまがおっしゃった通りほとんどが嘘八百だったと思ってもらってかまいません」
様々なものを覆っている大きな布をばさりと取って神子さまに渡す。彼女はそれを上手く身体に巻いて立ち上がった。
「それじゃあ、中にはホーマ族がうじゃうじゃ?」
「残念ですが、そういった方向での嘘はありません。少なくとも中にホーマ族が人っ子一人いなかったのは事実です」
「そうなの?」
「ええ。あれでは勾玉の献上は元より、製造だって出来るわけがありません。そういう意味ではあの結界の先に神子さまが望むようなものは何一つなかったというのは事実だと思ってください」
「……一応、今の言葉は信用出来そうね」
髪に手櫛を通して、ふん、と神子さまはそっぽを向いた。
トゥカノアが持ってきた解毒薬でおシノちゃんとフロースタが意識を取り戻したのはそれから十分ほどしてからだった。
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