ねぎらい
ソレの死骸は分身が泡立ち溶けたのとは違い、まるで長い時に晒されたかのように砂塵になって消えていった。よその星のモノがこの世界に馴染むわけはない。土に帰ることもなく永久に彷徨い続けるのだろう。
「分身の時とはわけが違う、ということね……」
周囲に転がっていたナレハテがあっという間に朽ちていく。ボロボロと崩れていく様は長い時をかけて朽ちていくのを早回しで見ているかのようだった。あの奇妙な生命体に侵食されていたとは言え、元はこの世界のものだ。彼らは五行の輪廻の輪に戻るのかもしれない。
私は細く長く息を吐き出した。
「お疲れさま」
声が降ってきた。
「テーロ……」
ちらりと視線をやると、ふわりと隣に彼女が降り立った。浅黒い肌。そこから生えた角や真黒な翼も最近では少し見慣れたものになっているように思えた。
「もう少し苦戦するかと思ったんだけれど、思った以上にあっさりと倒したものね」
「そうかしら?」
「ええ。まるで猫が得物のネズミを弄んでいるかのようですらあったわ」
「例えが悪くない?」
出された例えに私は冷笑した。
自分とあの生命体にそこまでの差はない。少なくとも刃を交えるまでそう思っていたし、実際最初は対等に思える戦いに喜びがあった。
けれど、幾度か斬り結んでいくうちにその喜びはどういうわけか霧散してしまっていた。相手の攻防共に手の内を見切ってしまったからだろうか?
たぎるような熱は急速に冷めてしまい、同じような底があるはずだと思っていた自分の下にはまだぽっかりと大穴が開いていた。
息を吐いてかぶりを振る。
考えて楽しい気分になるようなものではとてもなかった。昨日は国兵相手に冗談めいて戦狂いと言ったが、元々の自分は戦いに狂った戦闘狂というつもりはない。それが、こういう思考をしている時点で何かがおかしいようにも思えた。無理矢理に考えを頭から追い払う。
「これで全部が終わったと考えて良いの?」
わざとらしいくらいに声を明るくして言った。
「見たところ、これ以上敵の姿はないようだけど」
「そうね。あれに侵されてた連中は頭が死んだせいで全員くたばったことでしょう」
「薄々は思ってけど、やっぱりそういうもの?」
「あれは自分を頭としてどんどんと自分の手足を増やしていくタイプだからね。それぞれ別の存在に見えたかもしれないけれど、結局は一つの生命体。頭が潰されれば死ぬのが理よ」
「テーロはこの前に言ってたわね。私が月と……ルーノと関係があると」
答えてくれるかどうかはわからなかったが、そう話題を振った。
テーロがじっと私の顔を見やる。そこには何かを探るような表情も込められていた。
「それを調べに今度はホーマ族の伝説を探しに行くのでしょう?」
ポン、と私の肩を叩いてからテーロが宙に浮き上がる。
「詳しくは教える恩も義理もない、と?」
前に言われたことを皮肉るように言った。が、テーロは思いの外真面目な表情を変えなかった。
「それもある。けれど、私だって何もかもがわかったわけじゃない」
「そうなの?」
「正直、貴女についてはまだ不可解なことも多いのよ。だから、もうしばらくは観察をさせてもらうことにするわ」
「覗きはあまり好い趣味とは言えないわよ?」
「そうね。でも、我ながら自分が好い性格をしているとは思っていないもの。じゃなければわざわざこんなところに出向いてちょっかいを出したりしないしね」
翼を打って高く飛び上がる。
そして、ある程度の高さになったところでテーロは空へと溶けるようにその姿を消した。
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