親玉

 気配にふっと目が覚める。

 もう何度も感じたことのある、骨の髄にまで染みついた感覚だ。

 突然の目覚めを不思議に思うこともない。うっすらと目を開いたが、身体を起こすことはしなかった。

 そいつはゆっくりと家の中に入ってくると抜き足差し足でベッドへと近づいてきた。生憎その動作はまったくの素人のソレでお世辞にも気配を殺せているとは言えなかったが、私はわざと狸寝入りをしたまま機をうかがった。

 相手がベッドの横に立つ。そして――


「――なっ!?」


 胸元目がけて振り下ろされたナイフを易々と二本の指で白刃取った。そのままひねるようにして相手の手をつかみ、ベッドの上からこともなげに床に組み伏せる。暗がりであったが、ちょうど外からの月明りが侵入者の顔を照らしてくれた。


「そういうことだったの……」


 私が組み伏せたのは、ヤックという男に他ならなかった。


「くっ……! お前、なんで……っ!?」

「何か裏があるとは思ってたのよ。この風車小屋が賊に見つかってないというのがそもそもおかしな話だし、私の知っている荒事を好む連中とは何かが違ってたからね。もっとも、確証なんてなかったし、賊と繋がってるヤツがいるんじゃないか、っていうのは単なる思いつきだったんだけど」

「………………」

「ここでむざむざ死を選ぶ? それとも村の中に案内してくれるかしら? 村の中に案内したら、もしかしたらアンタのお仲間たちが私をやっつけてくれるかもしれないわよ? そうしたら、私はとんずらしたという貴方がさきほど言っていた筋書き通りになるわね」


 まぁ、元より選択肢があるものでもない。

 おシノちゃんはすっかり寝入っている様子だったし、他に内通者がいるということもないだろう。ヤックに先を歩かせ、建物を出た。

 相手の視線がなくなったところでそっと前鬼と後鬼を呼び出し、万が一の時のシノの護衛を任せる。

 村は水車小屋から歩いて十五分もしないところにあった。木と針金で作った簡素な塀。多少はマシな木の扉が出入口になっていたが、物見やぐらには誰もいなかった。

 扉を開けさせて村の中へと入る。夜ももう遅いということもあるのだろうが、村人は災難が降りかかってこないようひたすらにそれぞれの家で息をひそめているように感じられた。静まり返った村は全くの無人であるかのようにすら思える。

 賊どもが根城にしている集会所は村の中央にあり、大きさはそこそこのものだった。

 建物が見えた瞬間、ヤックは逃げるように走り出して扉を叩いた。続けて三度。間を開けて一度。それから三度叩く。

 それは緊急の合図だったらしく、中からすぐに武器を持った男たちが慌ただしく出てきた。


「……何事かと思ったら、これはどういうことだ?」


 家から出てきたのはなるほど、確かに六名の賊たちだった。

 が、その中でも目を引いたのは頭と思わしき男だった。

 体が異質に発達している。異様に伸びた腕や足に、それに似つかわしくない筋肉。手のひらも大きく、先端には鉄爪のような装具がつけられている。人間という生物を前提に言えば極めて不自然だ。日ノ本でも忍の中には幼い頃から様々な訓練で身体を特殊に鍛えた連中がいたが、それでも人間の部類は出ていなかっただろう。

 けれど、目の前の人間は明らかに違う。腕の長さは一メートル以上あっただろう。そこに筋肉が貼りついているのだ。奇怪と呼ぶに他ならない。


「ぼ、冒険者です!」

「あの嬢ちゃんが、か? 俺たちの戦力にならなそうな雑魚の処理は任せると言っておいただろう?」

「そ、それが……ちょっとしたアクシデントがあって……」

「アクシデントって言ったってよ、小娘一人じゃねえか。ヤック、おめぇこんなのすらどうにもならないってのに俺たちの仲間になるつもりなのか?」


 賊の連中がゲハゲハと笑う。


「で、でもこいつ、ホーマ族でっ!」

「ホーマ族? そいつぁ珍しいことがあるもんだ。よりにもよってどうしてそんな珍しい連中が? ケルウィンで何があったんだ?」

「わ、わかりません。けど、めっぽう強いって話で――」

「――わかったわかった」


 自分の失態をなんとか取り繕おうとするヤックを落ち着かせるように化け物が仕草をする。


「悪いけど、頭っていうのはアンタのことよね?」


 連中のおしゃべりが終わったところを見計らい異様なソイツに向かって話しかけた。


「アンタは魔族の仲間? それとも人間? もっとも人間という風にはどうにも見えないんだけど」

「へっ、俺さまはこう見えても立派な人間よ。ただ、世界に選ばれた特別な人間さまだ」


 そう言って首から下げている装飾品を見せびらかせるようにした。

 特徴的に湾曲した形。

 それは……。


「勾玉……?」

「マガタマ?」


 不可思議な輝きを放っており、普通の代物には思えない。

 勾玉自体そもそもまじないの意味合いがあるが、それとはまた別のまじないの類がかけられた一品に見える。


「なんだお嬢ちゃん、この宝玉のことを知ってるのか?」


 男が勾玉から手を放し、探るような目つきでこちらを見やってくる。


「そんな形態の装飾品の名前ならね。勾玉という名前で、私の国由来の装飾品よ」

「ほぅ、ホーマの国の特産品だったか。それじゃあ同じものを持ってたりするのか?」

「生憎だけど持ってないわ。集めてたりするの?」

「ああ、こんなもんがいくつもあるってんなら是非とも欲しいね」


 言って奇妙な笑みを浮かべる。


「が、こんなお宝がそんなにいくつもあるわけねぇか。マガタマだろうがなんだろうが、名前は関係ねぇ。どちらにしろこいつを手に入れた俺は世界に選ばれた、ってことなんだからな」

「世界に選ばれた、ね……」


 この世界にあって初めて日ノ本らしいものを見つけたから深く話を聞いて見たかったが、名前すら知らなかったのだ。これ以上勾玉について聞いてもロクな情報は出てこないだろう。


「まぁ良いわ。それで、世界に選ばれたと言うアンタはこんな手の込んだことをして何がしたいのよ?」

「別になんてことはねぇ。俺は自分の軍団を作りたいだけよ」

「軍団?」

「そうだ。勇者どもが死んだ今、もうすぐこの世界は魔族が支配するようになる。そうなった時に世界はどうなるか、お嬢ちゃんはわかるか?」

「さぁ……どうなるの?」

「力がモノをいう世界が作られるんだ。力のみが唯一絶対の正義。力を持つ者が生き残り、力のない弱者はただ死ぬのみ。そういった世界よ」


 男は手のひらを動かしてガシャリガシャリと鉄爪を鳴らすと不気味に笑った。


「そしてその時、俺は世界の王になる」

「なるほど、それで今はその時のための部下を集めているといったところかしら?」

「察しが良いじゃねえか、お嬢ちゃん。ただ馬鹿みたいに集めるってのも芸がないだろう? こうして村を占拠して、退治にやってきた腕自慢たちを返り討ちにすると同時に使えそうな奴を部下にする。俺は労せず、手っ取り早く部下の選別も出来るってわけだ」

「だけど、そう簡単に部下になるの? その計画でいくと部下にする人間というのは元々アンタを退治に来た人間でしょう?」

「ふっ、そのための宝玉よ」


 男には相当な自信があるようだった。

 あの勾玉にそれだけの力があるのかどうかは知らないが、全く根拠のないものでもないようだ。


「っと、しゃべりすぎちまったな。……で、お前さんはどうするよ? ホーマのソレは大層名器って話を聞いたことがある。男所帯だとどうしてもそういった鬱憤が溜まりやすくて面倒でな……村の女たちじゃ限界ってもんもあるし、どう解消しようかちょうど考えていたところだ。その役目を受けてくれるって言うんなら命だけは助けてやらないこともない」

「悪いけど死んでも御免こうむるわね。アンタらのような奴の相手をさせられるくらいならまだその辺の犬とまぐわった方がマシだもの」

「………………」


 ケロリと言ってやると、男は他の奴らに「行け」とでも言うようにあごでこちらを指した。

 ヤックという男も武器を片手ににじりよってくる。勝利を確信しているのか、その顔には「ざまぁみろ」とでも言いたげな笑みが浮かんでいた。こいつは生かしておかないと村の連中に説明してもらう相手がいなくなる。うっかりと殺してしまわないようにしないといけない。


「殺しはするな。捕らえてしまえばどうとでもなる」

「わかってますって、お頭」


 男どもが近づいてくる。私は居合いの構えを取った。

 一人目。

 威勢の良い声を上げ、剣を振りかざしながら突っ込んできた男を瞬間に斬り伏せる。


「が、ぶ……」

「な……っ、おい、どうした!?」


 どさりと倒れた男に他の連中がどよめく。何も見えなかったのだろう。

 しかし、お頭とやらだけは「ほぅ」と意外そうに声を上げた。どうやら私の居合いを多少は追えたらしい。なるほど、ただの雑魚というわけじゃないようだ。

 二人目。一人目があっさりとやられたのを見て焦っているのだろう。手にした剣を持って無暗に振ってくる仕草は熟練しているとはとても言えなかった。百点満点中四十点。雑な攻撃をかわしてばっさりと斬る。その間も私は異形の化け物から目を離さなかった。


「こ、こいつ、ただの冒険者じゃねぇぞ!?」


 残った連中が騒ぐ。すると、男が「お前たちは下がっていろ」とずいと前に出てきた。

 他の連中では相手にならないとわかったのだろう。やはり一応の力はあると見て良いに違いない。


「軍団を作るとか言ってたけど、それは黒鷹のような冒険者集団かしら?」

「ふっ……黒鷹か。そうだな、集団という意味では同じだが、俺たちの軍団は黒鷹など足元にも及ばないような軍団になる」

「なるほど、大した自信ね」

「いずれ人数が集まれば黒鷹の連中だって俺が屈服させて配下に収める。組織ってのはそうやってでかくなっていくもんだろう?」

「黒鷹の頭領……カグロダがそれを許すのかしら?」

「もし許すというのなら配下にしてやらないこともない。が、許さなければ殺すまでだ」


 そんな男の言葉に御刀の血を振って飛ばした。


「しかし、どうしてそんなことを聞く? 今になって協力するつもりになったのか?」

「いえ、悪いけどその発想は露ほどもなかったわ。アンタの頭がどこまでおめでたいものなのか聞いてみたかっただけよ」

「ふん……その強気、いつまで続くかな?」


 男が不気味に長い足を縮めたかと思うと、高く跳躍した。三メートル……いや、もう少し高いかもしれない。そこから手を鞭のようにしならせて振ってくる。

 早い。

 そして動きに意外性もある。

 あのような形態だ。腕が伸びることは十分に考えていたが、その伸びも尋常じゃない。まるで餅か何かのようにぐぐっと伸びてくる様はなかなかに面白い。

 そして、そんな先端に取りつけられた鉄爪を際どいところで避けようとして――


「っ?」


 僅かに袖をかすった。

 しなりを加えた一撃は鋭く、胴着の袖口が切れる。


「………………」


 再び攻撃がくる。

 刀で応じることも出来たが、あえてそうせずに避けることに意識を集中させるが――


「……なるほど、そういうこと」


 その一撃も胴着の袖口をほんの少し切った。

 最初の一回が万に一つの偶然ということもあったが、二回も続けばそれは偶然という言葉には収まらない。そして、今の私がこの程度の攻撃の目測を誤るはずもない。となれば考えられることは一つ。


「その鉄爪の先端は見せかけね。何かがさらにそこからうっすらと伸びているのでしょう? そういう暗器があった気もするけれど……まぁそれはどうでもいいわね」


 地面に降り立った男に言った。


「今の間で見抜くとは、思ったよりもやるみたいだな」

「アンタみたいな化け物に褒められても嬉しくないわよ。ただ、腕が伸びるっていうのは大した大道芸ね。そう言えば昔手品で見たことがあるわ。腕が伸びるというとてもバカくさくて笑える手品を」

「手品か。それじゃあ俺さまの腕も手品の一種だと?」

「まさか。アンタのはどういうわけか確かに伸びてるわよ。ただ、私にとっては手品や大道芸とそう大差ない。そういう意味よ」


 ご自慢の腕をボロクソに言われて流石に頭にきたらしい。


「……せっかくのホーマ族だ。生かしておいてやるつもりだったが気が変わった。生まれてきたことを後悔するくらいに嬲ってから殺してやる」


 長い脚を使って再度跳躍する。

 そこから両腕を双流の鞭のごとく使った攻撃の嵐。

 払うようなものもあれば突き刺すような攻撃もある。私は冷静にその一つひとつを見極めてかわしていく。鉄爪の見せかけに囚われなければ避けるのはそう難しいことじゃない。

 着地。

 今度は足のバネを生かし、真っ直ぐに突っ込んでくる。宙からの攻撃は効果が薄いと思ったらしい。

 長いリーチを使ってこちらの身体を狙ってくるが、私はそのことごとくを刀で受けてみせる。

 そして、苛立ったように真っ直ぐに放たれた突きを身体をひねってかわし、男の腕を切るように斜めに刀を振った。

 が、腕はぎゅるんとしなったかと思うとその刃を受け流した。

 なるほど、弛んだ紐を両断するのが少々難しいのと同じ道理だろう。一旦大きく後ろに跳んで距離を取る。


「ハッ、そんな攻撃痛くもかゆくもないねぇ!」

「………………」

「今更後悔しても遅いぞ? お前を殺すことはもう決定済みだからなぁ!」


 べろりと男が舌を出す。奇怪なのは身体だけに留まらず舌もそうらしい。まるで蛇のように伸びた舌がチロチロと動く。


「変わった舌ね。その舌でハエでも取って食べるのかしら?」

「まだそんな強がりが続くとは見上げた根性だ。それとも俺を逆上させて隙を突こうというほんの僅かな可能性に賭けたのか? だとしたらお生憎さまだ。そんな見え透いた手に俺は乗ったりしねぇぞ」

「そこまで考えてすらなかったわ。そんなことをするまでもない相手だし」

「言っていろ。強がりが吐けるのもこれまでだ」


 次の攻撃。

 私だって御伽話の中ではそういう人物がいることは小耳に挟んだことがあるが、現実で伸びる腕をもった男など見たことがない。一体どの程度のものなのか、物見遊山の気持ちで振るったせいであまりにも手加減が過ぎたらしい。

 一度距離を取るが、男は腕を伸ばして執拗に攻め立ててくる。

 本人は人間と言っていたがここまでくれば立派な化け物だ。


「どうしたぁ!? 逃げてばかりじゃ俺はやれないぞ!?」


 右に左。攻撃を避けながら一点を狙う。この様子だとまだ他にも大道芸を隠しているかもしれない。念には念を入れて……


「――ふっ!」


 男の腕を紙一重でかわし、僅かな時間を狙って刀で斬り上げる。

 宙を舞う木の葉を両断するのは確かにそれなりの修練が必要だ。が、私からすればそれはまな板に置かれた人参を切るのと大差はない。多少の力がこもった一刀は男の腕をいとも容易く斬った。


「ぐっ――!」

「お、お頭っ!?」


 男の顔に苦悶がにじむ。

 ドサリと飛ばされた男の腕が遠くに落ちると、戦いの音が止み、世界は静寂に包まれた。


「き、貴様ぁ……許さんぞ……」


 ぐっと飛ばされた傷口に手をやり、そんなことを言ってくる。私は刀の背で自身の肩をとんとんと叩いた。

 手品も所詮伸びるだけ。他に特に面白いこともないだろう、と考えたが男は重心を低く構えると、獣のように唸った。

 痛みでどうにかなったか? と思ったが、次の瞬間。


「へぇ……」


 斬られた場所からずぼりと腕が再生すると同時に、肩甲骨辺りからもう二本、腕のようなものが生えた。そして「くっくっくっ……」と低く笑う。


「褒めてやるぞ、小娘。俺にこの姿を取らせるとはな」

「腕と足が合わせて六本。なんだか虫けらの威嚇を見てる気分ね」

「まだそんな軽口がほざけるか」


 相手が笑う。


「お前がいくら腕を斬り落とそうが、宝玉の力があれば再生など容易い。それどころか、こうして身体を造ることも出来る」

「つまり、いくらこちらがあんたを斬っても意味がない、と?」

「そうだ。この勝負、どうあっても貴様の負けは決まっていたってことよっ!」


 普通の腕に加え、背から生えた二本の腕。突進するように飛んできたかと思うと、その全ての腕をしならせて襲い来る。

 単純に考えればそれまでの攻撃の二倍の腕を捌かなければならない。

 そのために私はいったん距離を取るために退くだろう。

 しかし、退けば最後、腕を連携させて攻撃を続ければ距離を詰めることも、先ほどのように腕を斬り落とすことも不可能になる。

 どれだけ剣の達人だろうが攻撃が出来なければそれまで。致命の一撃をもらってしまうのは時間の問題だ。

 と、男は短絡的に思ったに違いない。

 だが、


「なにっ!?」


 突っ込んでくる男に対し、私は退くどころか、刀の切っ先を相手に向け、その峰に軽く左手を添えた状態から地面を蹴って前へと跳んだ。


「しらけちゃうわね。もう少し面白い相手かと思ったんだけど、手数が増えるくらいじゃ面白みもなにもあったもんじゃないわ」


 刀を水平にした平刺突の構え。

 このまま突っ込んでくるならそれでよし。

 突出した刀からの突きの一撃は男を頭から一直線に貫くだろう。

 男は慌て、途中で地面を蹴って跳躍、四本の腕を大きく振りかぶる。

 が、


「――っ!?」


 男が下を見やった時、そこに私の姿はなかった。

 見切ったらそこで仕舞い。次の攻撃まで付き合ってやる義理も道理もない。


「高く跳び上がれるのがアンタだけの特権とは思わないことね」

「なっ!?」


 こちらだって高さには自信がある。それに、この世界に来てからそのレベルは格段に上がっていた。

 男よりもさらに高く跳ぶと同時に、互いの距離がほとんどなくなる。

 そして、


<無想月影流――望月もちづき - 焔>


 赤色に燃える刀が円を描くように振り切られる。

 残った全ての手足に向けて放たれた刃に先ほどのような過度な手加減はない。それは男の筋肉だけでなく、じん帯をことごとく斬り裂いて吹き飛ばした。


「がっ、あ……!!」


 こちらは綺麗に着地を決めたが、男はドサリと無様に落ちることしかかなわなかった。


「この、やろう……っ!」


 言いながら顔を上げ、すぐに立ち上がろうとするが、男はうごめくようにして前につんのめって再び倒れ伏した。


「な、なぜだ!? なぜ再生しないっ!?」

「見てみなさいよ、アンタの手足」


 そう言ってふっと小さく息を吐く。

 灼熱に燃える炎が男の傷口を覆い、再生をしようとする傍らからその血肉を焼いてしまう。

 これでは再生どころか、まともに手足を動かすことも出来ないだろう。


「残念だけど、野望はここで終わりになったわね」

「くっ……!」

「冥土の土産に一つ教えて差し上げる。私は一度カグロダと剣を交えたことがあるけれど、彼はアンタより幾分もつわものだったわ。アンタの野望はどの道叶うような野望じゃなかった、ということね」


 ゆっくりと男に近づく。


「さて、アンタはそこまでじゃなかったけど、その勾玉には興味があるわ」


 そう言って男の胸にぶら下がった勾玉を刀で拾い上げようとした瞬間だった。


「――っと」


 何かの気配を察知、瞬間的に突っ込んできたソレをかわすように身体を捌く。すると、ソレは今まさに私が取ろうとした勾玉をかっさらっていった。

 さっきまで何の気配も感じなかったということは結構な距離から飛んできたのだろう。

 宙に浮いたままばさりと大きく翼を打ったソレに私は視線をやった。

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