第66話 テスモア洞窟ダンジョン
ゴードンの聖騎士クラスチェンジから丸3日。
私は軟体動物のようにだらだらと伸びきった怠惰な生活を送っていた。必死に生きている軟体動物に失礼だが。
たまにモモのおままごとに付き合ったり、ニアのラジコン組み立ての様子を眺めたりしていたが、何もしていない。
ガトリーとカリンは働き者で、神社の神官を2人、貧民街からスカウトしたと報告があった。
1人は男性で、元兵士とのことだったが、信仰心が強く、私を崇拝している。
もう1人は女性で、40過ぎているが美魔女だった。巫女服を与えたが、自ら胸元を大きく開けてセクシーな着こなしを見せつけてきた。
「ゴードーン、つまんなーい。どっか遊び行こー」
「化粧品はどうされるのですか?」
「ソフィアに任せたー。今ごろ中心街の屋敷で品物並べてると思うー」
「…………。サニー様、まずは姿勢を正すところから初めては如何でしょうか」
ソファーで軟体動物のようにグニャグニャと横たわる私を見兼ねてゴードンが諌めてくる。
そこへデビットがやってきて、異世界語で話し出した。
「サニー、体、動かす。公園、走る」
体を動かしたいらしい。なら公園よりもっと面白いアトラクションがあるじゃないか。
私はシャキッと姿勢を正してデビットに告げた。
「ダンジョン! 行く! 公園、つまらない!」
そうと決まれば早速装備の召喚だ。私はデビットにチームを招集するよう依頼した。
以前、テッド達と行ったテスモア洞窟ダンジョンに行こう。レニング卿の隠し部屋があったダンジョンだ。
道案内はゴードンとキビル。ニアとモモは危険なのでお留守番だ。
リビングには数々の装備が召喚されて並べられていた。ギルに言われたまま装備品を召喚したのだが、皆で同じ装備ではないようだ。
まずポールとデビットが前衛で、ベネリM4スーペル90というショットガンを装備する。威力は高いが、装弾数が6発と心許ない。バックパックに予備の弾を沢山入れていくそうだ。
中衛は由香里とサンディー。HK416というデルタフォース採用のアサルトライフルを装備する。速い連射速度と、装弾数30発で、高い殲滅能力を持つ。
後衛はサミーとギルで、M249軽機関銃を持っていく。装弾数は驚きの200発で、弾だけでも相当重い。軽機関銃の軽は軽いという意味ではなさそうだ。
道案内のゴードンとキビルにも、迷彩服やタクティカルベストなどを装備してもらい、武器はMP5という扱いやすく強力なサブマシンガンを持たせた。
私は何でも良かったのだが、MP5が使いやすそうだったので、ゴードン達とお揃いにした。
全員黒の迷彩服に黒いヘルメット、ギルの提案で暗視装置も持っていく。
リビングにはタクティカルな装備の分隊が出来上がっていて、私はこれから始まるリアルサバゲーにワクワクしていた。
デビットは全員席に着いたところで、作戦会議の進行を始めた。
「では作戦会議を始める。詳細な説明が必要なため、会議は英語で行う。サニー、ゴードンとキビルへの要約説明をお願いしたい」
「了解!」
私はゴードンとキビルの間に座って、彼らに会議の内容を伝えた。
「作戦名はイビルゴア。これはテスモア洞窟ダンジョンのボスの名だ。本作戦はイビルゴアの討伐を目標とする。サミー、ダンジョンの地図とイビルゴアの詳細について説明を頼む」
「了解。いまスクリーンに映っているのがダンジョンの地図です。ダンジョンは地上1階と地下2階の3階層。ボスは地下2階のこの部屋にいます」
サミーがゴードンから聞き取りしたダンジョンの詳細を地図にして説明する。
ボスのイビルゴアはレベル78で、ゴードンは100人の2個小隊で3回ほど討伐したことがあるとのこと。
サミーはサンディーが描いたイビルゴアのイラストを表示して、弱点や攻撃パターンを説明した。
イビルゴアはティラノサウルスのような見た目で、高さは約8メートル、額に大きな一本角が生えている。この角がある限り、イビルゴアの物理防御は500%のバフがかかっており、物理ダメージは通りにくいとのことだ。
まずは全員で角を狙って折る。その後は足を狙ってダウンさせ、転倒したところを頭部に集中砲火し、絶命に至らしめる。
攻撃パターンは大きな顎による噛みつきと、長い尻尾を振り回しての殴打、前足の鋭い爪による引き裂きだそうだ。全て射程が短いので、10メートル以内に接近されないように立ち回る。
「以上がイビルゴアの詳細です」
「ありがとう。本作戦の達成目標はイビルゴアの討伐だが、副次目標として、遭遇したモンスターの素材集めと外観撮影を行うこととする。撮影担当は由香里、頼めるか?」
「了解。サニー、キャノンのイオスを召喚してもらえるかしら」
「あいあいさー」
デビットはダンジョンのデータベースを作る気でいる。意外と冒険者気質で、地球にはいなかったモンスターに興味があるらしい。せっかく運動がてら討伐に行くのだから、記録を取っておきたいのだそうだ。
そしてそれらの情報を冒険者ギルドに売り付ける気らしい。なんとも逞しい商人根性だ。
***
屋敷の外では、ハンヴィー(汎用四輪駆動車)と、マックスプロ(装甲車)を前に、サモンドフォースが整列していた。
「これより! イビルゴア作戦を開始する! 状況開始!」
「「「サー! イエッサー!」」」
サモンドフォースは明らかに私たちゴードンとキビルを置いてけぼりにする統率を見せた。
彼らに支給したG-SHOCKも、彼らだけ装備していて、主にストップウォッチ機能だけ使って、作戦の時間管理をしているようだ。
先導するハンヴィーには、運転手のデビット、助手席にサミー、後ろには私とゴードンが乗り込んだ。
後続のマックスプロは由香里が運転し、残りのメンバーが乗っている。装甲銃搭――屋根に設置された機関銃の砲塔――には、ギルが周囲を警戒する重要な役割を担って上半身を屋根から飛び出させていた。
私は後部座席から身を乗り出してデビットに問いかけた。
「イビルゴア倒せる?」
「あー、実物見てみないと何とも言えんなー。ギル、ティラノサウルスって何発ブチ込めば死ぬんだ?」
デビットが無線のスイッチを押しながら後続車のギルに問いかける。ラジオノイズの後、ギルの声がヘッドセットから聞こえてきた。
ガガッ
『12ゲージ5発も頭にブチ込んでやれは死ぬでしょ。たぶん。オーバー』
「なるほどね。みんな頑張って転倒させてな? 俺はデカい顎で噛み付かれるのはゴメンだ。オーバー」
『隊長、いっそジャベリンでも召喚してもらったらいいんじゃないでしょうか。オーバー』
サンディーの声だ。ジャベリンって確か対戦車ミサイルだったような。
「あー、なんかその方が楽そうだなー。サンディー使える? 俺ジャベリンなんて触ったことねーよ。オーバー」
『使えます。サニー、召喚しといてもらえますか? 1発だけでいいので。オーバー」
「了解。型式はなんて言うの? オーバー」
『FGM-148。オーバー』
無線は思ったより楽しかった。初めてオーバーとか言ったけど、ちゃんと通じた。自衛隊だと「送れ」とか「終わり」とか言うのは、自衛隊が異世界に転移するアニメで見た。
ジャベリンを召喚すると、大きなミリタリー調のケースが車内ギリギリのサイズで現れた。ハンヴィーじゃなかったらドア貫通してたかもしれない。
そんな無線のやり取りをしていたら、テスモア洞窟の入り口に着いた。
歩きだと1時間半ぐらい掛かっていたのだが、やっぱりクルマは速い。
クルマから降りたサモンドフォースは、サミーとギルが伏せて軽機関銃を構えたり、軍隊チックな動きで入り口に銃口を向けていた。
最低限の構えなどを教えてもらっていたゴードンとキビルは、邪魔にならない場所で片膝を付いてMP5を入り口に向けて構える。
私はジャベリンをサンディーに見せた。彼女はいつでも発射できるようにミサイルを装填し、準備を終えた。凄く重いので、イビルゴアの部屋まではアイテムストレージに収納しておく。部屋に入る前にまた取り出そう。
サミーが無線で全員に通達する。
「入り口周辺に敵影なし」
「了解。総員、暗視装置を準備しろ。突入する」
デビットの指令により、全員が隊列を組んで移動を開始した。
クルマはイタズラされたら嫌なのでアイテムストレージに格納しておいた。
最初の部屋はトロールだ。先の部屋へ進むには、ある程度殲滅する必要がある。サモンドフォースのお手並み拝見だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます