第48話 最新装備
「トーマスー! 元気だった⁉︎」
庶民街の靴店、ガザエル・ブランドの店にやってきた。1人息子のトーマスは、白血病から解放されて少し肉が付いてきたようで、肌の艶もいい。抱っこすると、ずっしりと重く感じた。
「うん! 元気! でもボクもう赤ちゃんじゃないよ!」
トーマスがじたばた暴れる。
「あは! モモより小さい! あーそーぼっ!」
トーマスは目をクリクリさせてモモを見つめた。そして数秒黙った後、少し警戒した様子で答えた。
「いーいーよ」
トーマスを降ろすと、ニアとモモと手を繋いで店の奥へと入って行った。
「子ども部屋があるんで、そこで仲良く遊ぶでしょう。私はブーツを取りに行って参りますので、少々お待ちください」
そう言うと、ガザエルは工房の方へと足を運んで行った。ちょうど昨日完成したとのことで、私の家まで届けに行くところだったらしい。行き違いにならなくて良かった。
「ここって貴族も来るのかな」
「貴族は庶民街の店であっても、良い商品があれば来ます」
「ふむふむ。じゃあ中心街ならもっと来る?」
「はい。中心街は激戦区です。平民も貴族も足を運びます」
なら化粧品販売店は中心街で正解かもしれない。庶民向けの化粧品も売る事になるから、価格設定は難しくなるが。
この店では、売り場を庶民向けと貴族向けとに分けて明確化している。この方法を採用しよう。幸い店舗になるであろう屋敷は広い。
「お待たせいたしました」
ガザエルは白ベースに赤い装飾が施されたロングブーツを持ってきた。そのデザインは私のローブに合わせたもので、ガザエルの記憶力の良さと職人としての手腕が窺い知れる出来栄えだった。
「すごい! カッコいい!」
ブーツと言ってもゴツゴツしていなくて、女性用のスラッと細長いスタイルだ。
「履いてみていい⁉︎」
「もちろん。こちらへどうぞ」
ガザエルは私を試着用の椅子に案内すると、椅子を引いて座らせてくれた。
元々履いていた赤のパンプスを脱ぎ、ブーツのサイドジッパーを開けて足を入れる。
さすがオーダーメイド。サイズはぴったりで足に吸い付くフィット感だった。
「ふふー、これ履いてく。ゴードンが買ってくれたパンプスも大事にするからね? ドレスにも似合いそうだからコレと履き分ける」
「明日はドレスですので是非」
「え? 明日の予定決まってんの?」
「明日は朝イチで王宮へ参ります。その後はパレード、来賓歓迎会、調印式、晩餐会と休む暇はありません」
「来賓? 誰か招くの?」
「ハイマン・デル・エルラドール。それからミナス・フォートピア。前代未聞の事態です」
調印式ってそう言うことか。私はダナトスに署名させて満足してたけど、3国相互での停戦協定はしてない。それを成そうとしてるんだ。
「エルラドール皇帝がタリドニアに来るんですか⁉︎」
ガザエルは知らなかったようだ。
「明日知ることを今日知っただけだ。明日のパレードは大変な騒ぎになるだろう」
「じゃあ警備も大変だ。護衛は連れてくるのかな」
「王宮騎士団が全力で護衛網を張り巡らせています。来賓の護衛は各国3名までで調整したようです」
「ニアとモモ連れてってもいい?」
「いえ、それは控えた方がよろしいかと。万が一の時、格好の餌食となります」
そうか。ピリピリする感じなんだ。そんなとこに2人を連れて行けない。なんか嫌だな。楽しくやればいいのに。
「えー、じゃあ今日この後のんびりしたい。ピクニック行く。どっかいい場所ない?」
「それでしたら――」
***
私たちは一旦屋敷に戻り、中心街の「家族」を全員連れて、王都南西の湖を訪れた。歩きでも1時間かからない距離で、見たところクレーターのようだ。
ここは「サマダ湖公園」という国が管理する公園らしく、綺麗に草刈りしてあったり、柵で大型のモンスターが入ってこれないように整備してある。
湖を囲むように遊歩道が設けられ、ボートに乗る人や釣りをする人も見受けられた。
「サニー様! 楽しいね!」
「ふふふ、ねー」
私と手を繋いで、もう片方の手はニアと繋いで、モモが上機嫌で歩く。遊歩道は一周30分ほどの距離で、散歩するには丁度いい。
私たちのすぐ後ろには、ゴードンとキビルが付いてきていた。ゴードンは神官服なのであまり目立たないが、キビルは本気仕様の鎧と盾と槍を持っているので雰囲気ぶち壊しである。
「キビルー、その装備なんとかなんないの?」
「はっ、では次は背中に斧を背負って参ります」
「そうじゃねーんだよなー。決めた。お前には1番にSPの装備を支給する」
遊歩道を進むと、家族がレジャーシートを広げて団欒していた。元の13人から、ゼニスとキビルとソフィアを足して16人になった大所帯は、1枚のレジャーシートじゃ足りなくて、大きいのを3枚召喚した。
私はカリンが作ってくれたクッキーを食べながら、キビルのSP化に向けて装備を召喚する。
まずは黒のスーツだ。それから真っ白なワイシャツにネクタイ。ネクタイはタリドニアらしく青にした。
武器はHK45。45口径、装弾数10発の自動拳銃だ。タリドニア軍の標準装備にしようと思っている。ショルダーハーネスに予備のマガジンを2本装備させる。
私が次々に地球の装備を召喚していると、家族達がぞろぞろ集まってきた。ゴードンがまた何か始めたと言わんばかりに問いかける。
「サニー様、これは……」
「キビルの装備。キビル、こっち来て」
「はっ」
キビルにスーツを着させる。キビルは鎧の下にエアコン機能がついたセパレートの全身タイツを着込んでおり、その上からスーツを着てもらった。
サイズはピッタリで、青のネクタイを付けてあげたら感激して喜んだ。
ショルダーハーネスを付けさせる。ベルトの長さを調整して、拳銃が取り出しやすい高さにする。
「サニー様、これは何ですか?」
「ふむ、これ持って」
私はマガジンを抜き取り、チャンバーに何も装填されてないことを確認してから、HK45を手渡した。
「いい? これは人殺しの武器。鋭く磨がれた剣と一緒。特にこの銃口は剣の切先と同じで、これを向けると言うことは、その人を殺すと言っているも同然だと思ってね。そしたらどこに向けとくのが安全?」
「剣の切先……下です」
「よろしい。船では上に向けるように。使わない時は、ここにしまうの」
私はショルダーハーネスのホルスターに拳銃を収納させた。上着を着させて真っ直ぐ立たせる。筋肉質な逆三角形の体格に、スーツはとてもよく似合っていて、サングラスを付けさせれば立派なSPだ。
「いいね。次は銃の使い方を教える。武器を抜いてみて。素早く」
キビルはサッと銃を取り出した。人差し指がグリップを握っていて、お粗末な構えだ。
私は銃の握り方から教えた。
「これはね、こう握るの。ポイントは、相手を殺す瞬間までは人差し指をここに掛けないこと。いざ殺すとなったら、こう掛ける」
私はトリガー(引き金)に人差し指を掛けて、撃つ時以外は指を掛けないように説明した。
次に射撃の実演。ちょうど近くに人が通っておらず、太い木が5メートル先に立っているので、それを的にした。
「よく見て。周りのみんなもよく見てね。これがマガジン。弾が入ってるの。見える?」
私は1発、45口径ACP弾を取り出し、皆んなに見せた。弾丸と薬莢がセットになっていて、火薬が炸裂し、弾丸だけが銃口から飛び出すことも説明した。
「じゃあ、このマガジンを、こうセットして。ここポイント。マガジンをセットした直後は、ここを引いて初弾を装填すること。こうしないと撃てないからね」
実銃を撃つのはパトロギス会議の時と今回で2回目だ。少し緊張する。だが5メートルぐらいならアイアンサイトでも当てる自信はある。
私は足を肩幅に開いてやや半身になり、両手で構えて銃口を木に向け、人差し指をトリガーに掛けた。
「大きい音がするから驚かないでね。撃つよ?」
――バァァァン!
木の中央に穴が開くと共に、周囲にいた鳥が飛び立つ。モモは目が飛び出すほど大きく見開いた。
「もう一度言うね。これは人殺しの武器」
そう言いながら、マガジンを抜き取り、スライドを引いてチャンバー内の弾を抜き、マガジンに装填した。
キビルに手取り足取り構えや照準のつけ方を教える。様になってきたところで、マガジンの装填からセーフティの取り扱いなど、私が知る限りのことを教えた。
キビルが木を狙う。全員固唾を飲んで見守った。
――バァァァン!
ビシィっと木に穴が開く。私が当てた場所とほぼ同じ箇所を狙った通り撃ち抜いたようだ。
「これが……新しい武器……」
「そう。もう近接格闘の時代は終わり。交戦距離は手が届かないし、鎧も無意味なんだよ。だから、これからはこのスーツ着て、この武器を装備して護衛してくれる?」
「はっ!」
「サニー様、これ私にも1つ頂けませんか?」
ゼニスが羨ましそうに言う。
「もう少ししたら屋敷全員に支給するから待ってて。というかこれがタリドニアの標準になるから。キビルには鎧を脱いでもらうために先に支給したけどね」
私はキビルに弾薬200発と、サイレンサーを追加で支給した。屋敷内に弓の練習場があったが、あそこで練習してもらうためだ。撃つたびに轟音を轟かせては王宮内まで聞こえてしまう。
サイレンサーを手に入れたキビルは、さっそく近くの木を穴だらけにした。
私がニアとモモと3人で川の字になって昼寝し、起きた時には弾薬が無くなってしまっていた。
キビルは勤勉で、練習の成果を私に見てほしいと、弾薬を補充しては、予備マガジンを左手の指に挟み、9発連射後、スライドストップが掛かる前に素早くマガジン交換、更に連射というタクティカルな技をやってみせた。誰も教えてないのに。
ゴードンとゼニスも練習していたようで、ゴードンが5発連射したところで木が倒れ、射撃大会はお開きになった。
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