第49話 各国集う
ピクニックから一夜明け、私はソフィアにドレスを着せられ、化粧をしてもらっていた。赤いドレスで、所々、黒のリボンや装飾があしらってある。
ソフィアに化粧の雑誌を見せたら、写真だけ見てポイントを掴み、現代日本のメイクを覚えたらしい。ソフィアに言われるままに化粧品を召喚し、今はビューラーで
ニアとモモは私の部屋で昨日買ったばかりの服に着替え、2人でサニー対ホセごっこをしている。
昨晩、一緒に寝たいという2人に、キルリダ平原で何があったのか話してあげたのだ。
「甘い! リリース!」
「な⁉︎ あああああ!」
モモが迫真の演技で胸を押さえてソファーから落ちそうになる。落ちそうになるが、落ちない。2人は何かを期待した眼差しでゴードンを見つめる。
「ゴードン! 早く助けにきて!」
「やれやれ。ゴホン。サニー様ーーー!!!」
「キャハハ! ひゅーーー、どさ」
モモがカーペットにドサリと横になると、見兼ねたゼニスが咎めた。
「こら。モモ、はしたない。起きなさい。ニアもソファーに立ち上がるのはやめなさい。行儀が悪い」
「「はーい」」
ゴードンとゼニスは、昨晩スーツと拳銃が待ちきれず、2人にも装備を一式召喚した。
昨夜は夜通し1000発以上、弓の練習場で拳銃の練習をしていたそうだ。屋敷にはパシュっという空気音と、ビシィっという木に穴が開く音が
「よし! 準備できた! 行こう!」
ニアとモモにお留守番を頼んだら、2人とも大粒の涙を流しながら「わ゛か゛った゛」とか言うもんだから、連れて行くことにした。2人はキルリダ平原の戦いの時から、待っているのが何より辛かったのだとか。何もできない無力感と心配で、心が張り裂けそうだったと涙を流す。
子どもが泣いているのは私も辛い。危険はあるかもしれないけど、一緒にいて笑っていられる方を選んだ。
「いってらっしゃいませ」
玄関ではゼニスとソフィアが見送ってくれた。カルタスは玄関まで迎えに来てくれて、城門の外にはランドクルーザーが停めてあった。洗車道具を一式召喚してあげたのだが、ランクルはピカピカのスベスベだった。
「ガソリンまだある?」
「まだ半分以上残っております」
「無くなりそうだったら言ってね」
スーツ姿でランクルに乗り込むゴードンとキビルを見ると、現代に帰ってきたような気がして思わずニヤニヤしてしまった。
ランクルは王宮ではなく、王都の南門へ向かった。街は警備の兵士と、パレードを待つ国民で溢れ、パレードが行われるメイン通りは通行制限がかけられていた。
群衆を掻き分け、ランクルは南門に到達する。南門ではカルロスと妻のエミリー、娘のマーガリーが待機しており、護衛はシャルマンとウェルギスの2人だけだった。
ランクルを降りてカルロスたちにニアとモモを紹介する。
「おはようカルロス。少ないね。もっと盛大に歓迎するのかと思ったよ。あ、これニアとモモ。私の息子と娘だと思ってね」
「おはよう。あまり兵士を置くと警戒していると思われるのでな。おお、小さいな。昔を思い出すわ」
「おはようございます陛下。ニアと申します」
「おはようございます。モモです」
間も無くテルミナ国家元首、ミナス・フォートピアが到着する。カルロスは何度か国内外で密会しているそうだが、公式に首脳が外国を訪問するのは初めてだそうだ。距離の関係でテルミナが先に着くが、この後、東門にエルラドールが到着するらしい。
「来よったか」
カルロスがいち早く遠くの馬車を見つけた。御者はアルベルトだ。護衛は3名とのことだったが、残りの2人は見えない。ホセかリキエのどちらかは付いてくるだろう。
果たしてどういうスタンスで来るか。第一印象は大事だ。私は自然体が1番だ。変に腰を低くしてもナメられるし、上からの態度は性に合わない。ただ2人のチビたちを守る。それだけだ。
馬車が門の手前で停車し、アルベルトが扉を開く。すると、中からホセとシノーテが出てきた。シノーテは右手を差し出し、その右手には白いグローブが乗せられ、そこからまた白い肌の女性がエスコートされて出てきた。
テルミナの象徴、緑のドレスを纏い、相当長いであろう黒髪をポニーテールにして風に靡かせ、長い前髪から覗く切れ長のつり目からは、ただならぬ色気が溢れていた。そして何よりも特徴的なのは耳だ。所謂エルフ耳で、幾つものピアスを付けている。
彼女の歩き方にも色気があった。モデル歩きで迫る様はファッションショーのようで、腰まで切れ込んだスリットからは、艶やかな足が見え隠れしていた。
私は目を丸くした。
なぜなら。
こんな色気を撒き散らしながら、
身長が私よりも5センチぐらい低く、胸はぺったんこだからである。
「出迎えご苦労。貴様がサニーか?」
「あ、え、うん。君がミナス?」
「そうじゃ。貴様、頭が高いな」
「あ、ごめん。君いくつ?」
「
これはとんでもない生き字引だ。こいつから得られる情報は宝の山だろう。ご機嫌を取っておいて損はない。
「ミナス、美味しいもの食べたくない?」
「なんじゃ。妾は食にはうるさいぞ」
「ふふ。異世界召喚『いちごチョコクレープ』」
いちごチョコクレープを、のじゃロリBBAに食わせる。ミナスは小さい両手でクレープを掴むと、小さい口をいっぱいに開いてかぶりついた。
「はむ。むぐむぐ」
瞬間、ミナスの目が星マークになる。
「な、ななな! なんじゃこれはーーー!」
手応えあり。生クリームはこの世界にない極上のスイーツ。幼女が甘いものに弱いのはモモで実証済み。私はモモとニアにもクレープを召喚して与えた。
「あは! いただきます!」
「やった! いただきます!」
「むぐむぐ、貴様ら! それは妾のじゃ!」
「ミナスは今食べてるでしょ? 足りないなら新しいの出してあげるからゆっくり食べなよ」
こうして南門での挨拶は無事に終わり、ミナスたちテルミナ一行はシャルマンに連れられて王宮へと入って行った。ホセとシノーテの両手には、予備のクレープが4つ握られていた。
***
――ところ変わって東門。
東門ではシャロンと門番が話をしていた。門番の兵は腰が低く、何度も頭を下げて相槌を打っている様子だ。あれでは話している方も、聞いている方も疲れるだろう。
カルロスの馬車とランクルが到着したことに気付いたシャロンは、門番に別れを告げて本来の役目に戻った。
「おはようございます陛下」
「おお、おはよう。ご苦労だな」
「もう間も無く到着するとの報告が入っております」
シャロンは軍服姿で、相変わらず制帽が似合っていた。武器を持っている姿が目に焼き付いている私は、丸腰のシャロンがどこか新鮮で、返り血で汚れていない髪の毛も綺麗に見えた。
「おはようサニー。ん? そのチビたちはどうした?」
「貧民街で保護したの。私の息子と娘」
ニアとモモは片腕のないシャロンが怖いらしく、私の背中でもじもじしている。
「痛くないの?」
モモが泣きそうな声で問いかける。
「ああ、貧民街で暮らす痛みに比べたら屁でもない」
「でも痛みはあるんだ。治す?」
「まだだな。戦犯を追いかけている間は私の戦争は終わらない」
ゲラルドたちのことだ。彼女が納得する終結とは、どんな形だろうか。
私にできることは、この停戦の先に、各国に強みを持たせ、戦争なんかよりよっぽど利益も楽しみもある「国作り」をさせることだ。
それによって和平交渉をスムーズにし、停戦後に戦争が再開されることを防ぐ。
シャロンに教えてやらなければ。平和とは「何もせずに草むらで横になること」そして「両手で愛する人を抱擁すること」であると。
今のシャロンにはどちらもない。私にとって、シャロンが1番辛い目に遭っている戦争被害者であり、彼女を救うことが使命であると改めて思う。
彼女を幸せにしてやるのだ。そうすれば、また彼女が弱い者を救ってくれる。そうやって繋いでいくのだ。彼女こそ「人を巻き込む」カリスマの持ち主なのだから。
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