第37話 最前線
ゴードンはカウンターを重視した戦闘スタイルで敵を次々に屠って行った。
自身はあまり動かず、飛び込んできた敵の急所目掛けて一撃の元に槍の先端で敵を刺突する。
これを実現しているのは彼の類稀なる動体視力と視野の広さだった。その目はまるで発光しているが如くヘルメットの隙間から敵を捉え、人中、喉、心臓、いずれかの急所を的確に狙う。
対してシャロンは腕力にモノを言わせるハードヒットで文字通り敵を両断して行く。
彼女のモデル体型からは想像もつかないような剛撃が敵の鎧を砕き、縦に横に敵の体を切り裂いた。
これを可能にしているのは彼女の重心移動と遠心力だった。特注の強靭な槍を右手1本で器用に振り回し、スピードに乗ったミスリル製の刃は、斬るというよりも殴りつけるように敵の臓器を撒き散らす。
「キェエエエエエアアアアアアーーー!!!」
カルロスはいつの間にか上半身裸で奇声を発しながら敵陣に切り込んでいく。もはや技術
カルロスは放っておくとして、タリドニア本隊の先頭はシャロンだ。上から見ると、彼女を頂点として、三角形の陣形でテルミナ中央部隊に突撃している。
テルミナ中央部隊の数はおよそ2万。残りの3万は誰もいないタリドニア野営地に向かって走っている。
「右辺! 左辺! 正念場だー! 押し上げて陣を水平にしろーーー!!!」
ウェルギスが戦いながら叫ぶ。このままでは先頭を進むシャロン、ゴードン、ウェルギスに負担が集中してしまう。なんとかして三角形の陣を少しずつでも四角形にしていく必要があった。
「弓兵隊! 見せ場だ! 味方の隙間を狙って敵を射抜けーーー!!!」
弓兵隊隊長のヒーニアスが叫びながら3本の矢を同時に放ち、見事に味方の頭部を掠めて敵3人をヘッドショットする。
「魔法騎士団! 遅れを取るなー! 槍系の魔法で敵を串刺しにしろーーー!!!」
魔法騎士団団長のサリエラが叫ぶと、アイスランス、フレイムランスが敵の頭上に降り注いだ。
私は陣の中央で負傷兵の救護にあたっていた。次から次へと負傷兵が運ばれてくる。
「エクストラヒール! 次っ!」
そこへ両手で地面を這いながら前線から戻ってきた兵士がいた。
「サニー様……っ! 足をっ……」
彼は両足が無かった。魔法で焼き切られたのであろう焦げが残っている。出血が酷い。
「馬鹿だなあ! こんなに出血して手遅れになったらどうすんだよ! ちゃんと運んでもらいなよ!」
「へへっ、みんな取り込み中だったもんで」
「それでも運んでもらうんだよ馬鹿タレ! リジェネレーション!」
回復役が1人しかいないというのは思いのほか痛手だった。自分で言うのもなんだが私は攻撃の要でもある。しかしこうも負傷兵が運ばれてきてはここを離れる訳にもいかない。
仲間を信頼する――シャロン達を信じてここに留まろう。こうして味方を治療すれば部隊全体としての攻撃力を上げることにも繋がるのだ。
だがホセは別だ。どう言うわけか奴は飛べる。また上空からアレを撃たれてはたまったものではない。
奴が出てきたら私の出番だ。次は容赦しない。
周囲では沢山の人が死んでいる。すでに何人もリザレクションで生き返らせた。戦況は完全にタリドニア優勢だ。その分、テルミナの兵士たちは何人も、何十人も死んでいるだろう。
ホセよ。悪いが死んでもらう。私だけ殺さないなどと言える状況ではないのだ。手加減はしない。
すると、一際大きな音と共に、上半身裸の大男が土煙を上げて最前線方向から転がってきた。
「ぐほあああ!」
「カルロス! 大丈夫⁉︎」
「あ、ああ、大丈夫だ。戻らねば。アレは私でないと相手にならん」
シャロンの目の前に立っていたのは身の丈3メートルはあろうかという大男だった。
「
シャロンは半身になり、盾を構えて槍を逆手に持ち替えた。
「シャロン! そいつはお前の手に負えん! ちょっと待――」
ガシャーーーーン!
ジャイアントの巨大な斧がシャロンの盾を粉砕する。その斧は柄の長い両手斧で、柄の先端から刃が両側に設けられた、所謂バトルアックスだった。
「がはっ!」
シャロンがくの字になってウェルギスの方向に吹き飛ばされると、ウェルギスは体全体でシャロンを受け止めた。盾は粉砕されたが身体は無事なようだ。
「キェエエエエエ!」
カルロスが奇声を発しながら跳躍しジャイアントの頭部目掛けて剣を振り下ろす。
ジャイアントはそれを素早く斧で受け止め、空中のカルロスに左拳で反撃する。
「のろい! その拳! 切り刻んでくれる!」
カルロスの素早い剣撃がジャイアントの左拳に命中し、指が何本が飛んだものの、拳の勢いは止まらずにカルロスの頭部を捉えた。
「ぐっ!」
カルロスが回転しながら左に吹き飛ぶ。
それと同時にゴードンとガトリーがジャイアントの両足に斬りかかる。
ゴードンの鋭い突きがジャイアントの右足首に刺さり、ジャイアントが呻き声を上げて片膝を付く。
「うごあ!」
カルロスはこの瞬間を逃さなかった。起き上がりざま跳躍し、ジャイアントの
ジャイアントは一瞬痙攣した後、力なく倒れた。カルロスが呟く。
「希少種族だったが……これは戦争だ。悪く思うな」
一部始終を目撃したテルミナの中央本隊は
「中央総攻撃ーーー!!!」
右翼、左翼に展開しつつあったタリドニア軍は左右の戦力を中央に集中させた。
元々カルロスが蹴散らしていたこともあり、中央は薄かった。
一気に前線中央の敵軍を蹴散らし、シャロンは敵本陣を目視した。
「このまま本陣へなだれ込めーーー!!!」
まるで砂時計の砂がガラス瓶の括れを通過して行くように、タリドニア本隊はテルミナ野営地へなだれ込んで行く。
ちょうどそれと同じくして、テルミナ軍もまた、タリドニア野営地へと辿り着いていた。
「報告! この野営地には誰もおりません!」
報告した兵士の頭を叩いて上官が言う。
「バカっ。見りゃわかんだよ。はー、かったりー。んじゃ戻んのか。つーかこのテントの整列具合は何なんだよ。気味わりーっつーの」
「シノーテ様、このままタリドニア国内に進軍して街を占領してしまうのは如何でしょうか」
「いや、そうも行かねーよ。3万も連れてきちまったんだ。あっちが大変なことになってるだろ。戻んねーと本陣落とされっぞ。はー、マジかったりー。また走んのかー」
タリドニア野営地からテルミナ野営地までの距離およそ1キロ。サニー達はテルミナ軍3万が帰ってくる前に敵将を討ち取る必要がある。
敵将の側にはホセと3人の護衛が待機していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます