第30話 襲撃
それは突然起こった。カルロスの告白が終わりゴードンが次の議題へと舵を取ろうとしている時だった。
――ドオオオオオオオオン!
会議室が大きく揺れる。私は直下型の地震を想像した。しかし立て続けに同じ轟音と揺れが襲いかかる。
「敵襲! 総員外に出て迎え撃て!」
シャロンが叫ぶと、全員隣の部屋へと
「シャロン! 先に行ってるからね!」
狭い通路を抜け、幾つもの階段を登ると、森の中に出た。周囲は山火事と化しており、2つの大きなクレーターと、その中央の大岩が目に付いた。2回の揺れの原因はこの大岩だろう。直径10メートルはありそうな縦長の
「ぬあっはっはっはっはー! ゴミ虫どもよー! 早く出てこい!」
一際大きな声に反応して顔を向けると、2人の男性が宙に浮いていた。片方は胸を張って腰に手をやり、足を大きく広げて島を見下ろしている。後ろに控えたもう片方には見覚えがあった。カルドだ。
「3人は水魔法使える⁉︎」
「使えます」
ロベルトが宙に浮く2人を睨みながら答える。
「そしたら3人は消火活動! あの2人は私が相手する!」
「サニー様!」
「ゴードン! ここで待機! 地上に誘導できたら戦闘に参加して!」
「心得ました!」
私はフローティングの魔法を唱えると、カルド達2人組の元へ急いだ。
「これはこれは、天使殿。魔王様、これが例のサラエドの天使です」
「ほーう。小娘ではないか。おい、名はなんと言う」
「サニー。お前が魔王ダナトスか?」
「いかにも! カルロスはどこだ? 話がある」
「なんでここがわかった?」
「我は配下の魔族の魔力を追跡できるのだ。カルロスがここにいることはわかっている。早く出せ」
魔王ダナトスはライオンのたてがみのような長い黒髪に、水牛のような角、凛々しい眉に自信満々の笑み、上半身は屈強な筋肉を
話があるだけなら島を火事にするなと説教したいところだったが、ぐっと堪えて話した。
「話なら私が聞くよ。私もお前に用があるんだ」
「何? お前が? なら早くエルラドールへ侵攻しろと伝えろ。そしたらまた戻ってこい。用とやらを聞いてやる」
「エルラドールへは侵攻しない。テルミナにもだ。停戦してもらうぞ? 魔王ダナトス」
「そうか」
魔王ダナトスはすぅっと息を吸うと、大声で叫びながら突進してきた。
「なら今すぐ死ねーーー!!!」
私は自動戦闘を有効化した。魔王ダナトスが嬉々とした表情で迫り来る様もしっかりと見えていたので、とりあえず対処はできそうだ。
体が勝手にファイティングポーズになる。魔王ダナトスの拳を避けると、私の体は高速でカルドへと向かった。カルドは突然の出来事に反応できていない。
カルドの
「があっ! っ!」
カルドは口から
「貴様ーーー!!! 貴様の相手は我だ!」
ダナトスが振り向きざま私の背後に襲いかかる。私の体はカルドの両腕を掴んで振り回し、カルドを盾にした。
ダナトスは勢いを殺せずカルドの背中を殴打する。背骨に当たったのであろう鈍い音が響き渡る。
「がっ……は……」
私の体はカルドをゴードンがいる場所へと投げつけた。
「ゴードン! それ縛っといて!」
ダナトスは邪悪な笑みが消え、怒り心頭の表情をあらわにした。
ここが正念場だと感じた。ここでダナトスを叩きのめし、言うことを聞かせられたら上々だ。
ダナトスの右拳が私の頬をかすめる。風圧で前髪が
私の体はダナトスの右腕に飛び付き、両足で肘を絡め取って逆関節を
「うぐぐ! 何だこれは!」
ダナトスは力任せに私を振り回した。遠心力で関節技が解ける。
刹那、ダナトスの
一瞬ダナトスの呻き声が聞こえたかと思うと、ダナトスは私が振り切った右足を掴み、力任せに島の方向へと放り投げた。
「キューブ」
口が勝手に詠唱した。放り投げられた私の進行方向に黄色の立方体が出現し、それを足場にして四つ足で着地。すぐさまダナトスの方向へと跳躍した。
するとダナトスは小声でぶつぶつと呟き始めた。
「イーヴェノートギャロラウィル、サンシュガルラシュトロウィル、スルヴィトライーヴェノルサンシュマウトキルスタリドゥアラモルゼ。メティ――もがっ!」
私の右手はダナトスの口を塞いだ。それは勢いをつけた掌底であり、ダナトスは首から上が後方に吹き飛び、それに引っ張られるように首から下が宙を舞った。
「ぐっ! 放せっ! もがっ!」
ダナトスは両手で私の右手首を掴み、手を引き剥がそうとする。私の体はお構いなしにそのままゴードンの目の前の地上へとダナトスの頭を
轟音と共に地上の木々が揺れ、ダナトスの頭を中心に5メートルほどのクレーターが出来上がる。
「抵抗しないなら離してやる」
「もがっ! 殺すっ!」
左手がダナトスの眉間を殴る。鈍い音が響き渡り、ダナトスの後頭部が地面に叩きつけられた。
「抵抗しないなら、離してやる」
「がっ! ぐぞっ!」
再度眉間を強く殴る。ダナトスの両手両足が痙攣する。
「ぐがっ!」
「抵抗しないなら! 離してやる!」
私の右手の指がダナトスの頬に食い込む。
「うぐっ! ご、ごろずっ! ぎざまっ!」
「ダメだこりゃ」
私は自動戦闘を解除し、ダナトスの股間を膝で蹴り上げた。
「うごうふっ!!! ごええええ!」
ダナトスは噴水のように嘔吐し、白目を剥いて気絶した。
「カルドは?」
「こちらに」
カルドは鎖で上半身を強く拘束してあり、微動だに出来ない様子だった。
「こいつ背骨折れてないかな。けっこうエグいのが入ってたんだよね。ま、いっか。一応、エクストラヒール」
カルドの全身は緑色の光に包まれた。気は失ったままで
ダナトスも鎖でグルグル巻きにされており、股間が心配になった私は、エクストラヒールをかけてあげた。
「まさか、魔王をここまで
カルロスが呟く。思っていたより強くなかったというのが第一感だ。口を塞いだ手を振りほどこうとしていたが、それほど力を感じなかった。管理者が強力な魔王と言っていたのが気掛かりだ。今回の戦闘では発揮されなかった力が隠されているのかもしれない。
「この鎖は切れないの?」
「これは強化の魔法がかけられており、破壊はほぼ不可能です。また、これに触れた者は魔法の使用も禁止されます」
「ちょっと試していい?」
ゴードンは鎖の一端を私に渡した。私は鎖を全力で引っ張った。メキメキという音は鳴るが千切れそうにない。
「これなら大丈夫か」
「一瞬、千切れるのではないかと焦りました」
「あはは、いい音したね」
辺りはすっかり鎮火し、立ち上る水蒸気が2つの月にかかり、幻想的な灯りが仄かに地上を照らしていた。
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