第18話 屋敷での出来事

前書きのようなもの


どうも、作者のあるてなです。


今回はですねー、


『お食事中の方には見せられない』


ような話になってしまいました。


是非、お食事を済ませてから


ご覧くださったら嬉しいです。


ご意見ご感想などお待ちしております。




*************




 貧民街での炊き出しを始めて2週間が経ち、屋敷での生活にも慣れてきた頃、一階ロビーではモモが身の丈の2倍はありそうなモップで床を綺麗にしながら走り回っていた。

 2階から降りてきた私は階段に腰掛け、上からモモの元気な姿を眺める。

 子どもは元気なのが1番だ。支給したメイド服もブーツも良く似合っていて、特にブーツが気に入ったのか、床を歩くたびにキュッと鳴るのが楽しいようで、音に合わせて「クフフッ」と笑う。


 すると、軽快に走っていたモモがキュッと立ち止まり、床を凝視している。モモはモップをカランと手放し、姿勢を低くしてそろりそろりと歩き出した。

 気になるので下まで降りてモモの行く先を目を凝らしてよく見ると、そこには――


 Gがいた。


 しかも特大である。


 Gは静止しており、モモはゆっくりとGに接近し、私は恐れるあまり立ちすくむ。私はモモの次の行動を予測した。Gを退治するつもりなのだと。しかし素手である。


「モモモ、モモ……す、素手はダメ――」


 と、次の瞬間。


 モモはGに飛び付き、手のひらサイズはあろうかという特大のそれを両手で捕らえた。モモの両手からはみ出したヤツの足が高速で動いている。


「ひっ! モモ! やめ――」


 それは一瞬の出来事だった。モモの次の行動は両手で潰す、外に捨てに行く、そのどちらかだと思っていたのだ。


 まさか頭からガブリといくとは夢にも思わなかったのである。


 バリッという咀嚼音がロビーに鳴り響く。


「ぎゃーーーー!!! モモーーー!!! ダメーーー!!!」


 私は腰が抜けて四つん這いで必死にモモに背後から近づく。バリッモシャッという音が鳴る度に気が狂いそうになった。


「ダダダダメっ! モモーっ!」


 モモが振り向く。手には三分の一になってしまったG、口からは足がはみ出しピクピクと動いている。私は気を失いそうになりながら白目でモモに訴える。


「ひゅ……モ……モモ、ぺってしなさい……そんなの食べちゃダメ……吐き出すの……ぺって……いい子だから……」


 モモはクリクリとした目で私を見ると、少し間をおいて咀嚼をやめ、床に吐き出した。床には粉々になったそれがベチャッと撒き散らされ、それを見た私はとうとう限界を超えてしまった。


「オロロロロロロロロロロロロロ」



***



 気を失っていたようだ。目を覚ますと後頭部に暖かく柔らかい感触があり、目の前には巨乳の下乳が映った。貧民街で採用したメイド長のカリンが膝枕をしてくれていたのだ。


「ゴードン様、サニー様がお目覚めです」


 周囲を見渡すと、皆総出でロビーに集まっていた。

 貧民街で採用したのは9名。そこにニアとモモとゴードンを足して、私を含めて13名でこの屋敷に暮らしている。

 モモは目が真っ赤で、眉を八の字、口をへの字にして大粒の涙をポロリポロリとこぼしている。


「モモ、こっちおいで」


 モモを抱きしめる。体温が高く、相当泣いたのだろうと気付かされると同時に、もっと落ち着いて対処できなかっただろうかと反省させられた。


「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛……」

「謝んなくていいの。でもあれはもう食べないって約束して?」

「う゛ん゛」

「代わりに皆んなでいいもの食べよ」


 皆を食堂に集めると、私はプリンを召喚した。この世界にプリンを召喚するのは初めてで、皆見たこともない食べ物に興味津々の様子だ。


「甘い匂いがしますね」


 ゴードンはカラメルの部分に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。続けてお祈りを始めようとしたところで、皆に伝えた。


「はい! 今日からお祈りは私流に変えてもらいます! やり方は簡単。両手の指を伸ばして、顔の正面で手と手を合わせます。心の中で食べ物に感謝して、いただきますと言います。はい、皆んな手を合わせてー」


『いただきます』


 皆揃って一口食べると「甘い!」「うまい!」などと舌鼓を打った。この2週間、ハンバーグやスパゲッティなどのしょっぱいものは沢山召喚してきたが、甘いものを食べさせるのは初めてだった。モモが二度とあんなものを食べたりしないように、美味しいものを沢山食べさせてやるのだ。


「ゴードン、質問なんだけどさ」

「はい」

「この世界の人は結構虫食べるの?」

「虫も貴重な食料です。ですが、ガガーリーは苦いので余程空腹でなければ食べません」

「ガガーリー? Gのこと?」

「ロビーでモモが食べた虫です」


 どっちにしてもGだった。おそらく貧民街で飢えていた頃は貴重な食料だったのだろう。あの様子では他の虫も食べていたであろうことは想像に難くない。

 これ以上考えるとまた吐きそうになるので気分転換することにした。


「さ、皆んな食べ終わったらコンビニ行こ。品物並べなきゃ。明日開店できるように準備だよ」


 コンビニの店員には4名雇った。当初は4交代で32時間営業を考えていたのだが、ゴードンに深夜は需要がないと言われ、朝12の鐘――地球で言うところの朝9時から、夜12の鐘まで半日16時間営業することになった。

 電気はゴードンが配電盤にサンダーボルトの魔法を唱えたら使えるようになった。火事になるかと思ったが案外何とかなるものだ。これで自動ドアも電子レンジも使いたい放題である。

 売り物は弁当やジュース、酒などの食料品の他にも、シャンプー、リンス、ボディーソープ、歯ブラシ、歯磨き粉、台所用洗剤、スポンジなどの日用雑貨を取り扱う。


 次々に商品を召喚しては皆で棚に並べた。そこでゴードンが菓子パンを持って聞いてくる。


「サニー様、これは?」

「ああ、それはエクレアだよ。食べてみる?」


 私は袋の開け方をゴードンに教え、半分こしてゴードンとモモに食べさせた。


「美味しい! なんですかこのフワフワとしたものは! それに、この黒いものは……苦甘い!」


 モモはモグモグしながら両手を頬っぺたに当てて至福の表情をしている。


「ひょっとしてパン食べたことないの?」

「ぱん……とは?」


 何と言うことだ。この世界にはパンがないのだ。これは小麦を育てるところから教えなければならないということだろうか。


「わかった。今日の晩御飯はパンにしよう」


 晩御飯はフランスパンに食パン、ハチミツに苺ジャム、あんぱんにクリームパン、パンケーキとパン尽くしにしてやろうと決めた。


 外に出ると、人通りが多く、皆神社やコンビニ、銭湯を気にしながら歩いている。これは早く営業しないと勿体ない。

 空は雲ひとつない快晴で、春のような陽気に思わず「あはは」と笑いながら背伸びをした。

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