第3話 神の能力

「次に、能力を選択してください」


 能力――神の能力か。いよいよ異世界転生っぽくなってきて、俺はだんだんこの状況が面白く感じてきた。

 何せあのホームレス生活から脱却して新たな人生ならぬ神生をやり直せるのだから、この楽しみを実感して噛みしめなければ勿体無い。

 この正面のディスプレイに表示されている能力から、とにかく楽しめそうなものを選ぶのだ。

 これから始まる旅におけるどんな困難をも乗り越えられるような能力を。


 ディスプレイには画面左側に能力一覧が表示され、右側には空白の枠、中央には左右の矢印ボタンが表示されている。

 右枠上部には0/9の表示があり、これらの表示から察するに、左枠から能力を選択し右枠に移動しろと言う意図があるのだろうということは、ゲーム慣れしている俺にはすぐにわかることだった。

 そして選択できる能力の数は9個までということだ。


 一覧には次のような能力があった。

 火、水、土、風、木、雷

 光、闇、聖属性魔法

 時間魔法、空間魔法、召喚魔法

 剣術、槍術、斧術

 盾術、弓術、体術

 物理無効、物理反射、物理吸収

 魔法無効、魔法反射、魔法吸収

 状態異常無効、状態異常反射

 状態異常吸収

 火炎耐性、水呼吸、真空呼吸

 痛覚無効、自己再生、不老不死

 鑑定、言語理解、自動戦闘


 能力を選択するに当たって、まずはここの世界観に関する情報を聞いておかなければならないだろう。

 なぜなら平和なのに攻撃系の魔法を沢山取得する必要はないからである。

 逆に戦闘が多くなりそうな世界であれば、自己再生などの能力は必須だ。


「管理者さん、ここの世界観について教えてください。平和ですか? それとも治安悪い?」

「戦乱です。およそ300年前から醜い戦争が絶えず続いています。あなたにはこの世界の戦争を終わらせ、平和へと導く使命があります」

「……了解です。戦争の主な武器は? 誰と誰が争ってるんです?」

「剣、槍、斧、盾、弓、魔法が主な武器です。戦争に参加している種族は、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族で、魔族の頂点には強力な魔王が君臨しています」

「魔王キタコレ。俺の他に神はいないんですか?」

「いません。一昔前まで『エルヌス』という神がいましたが、信仰を失い消滅しました」

「うっわ……信仰失うと消滅するんだ……」


 消滅する――そう聞いて少し動揺した。

 折角神転生なんて激レアを引いたのに、それが『信仰』などという曖昧なもので終わってしまう可能性があるのは怖い。

 転生したら信仰を集める活動をしなければならないだろう。

 そこである疑問が生じる。


「ん? でも最初は信仰もなにも無くない?」

「転生直後は信仰ステータスにボーナスが付与され、ステータス『良好』の状態で転生します」

「ステータスがあるんだ」

「信仰ステータスは、状況によって最高、良好、普通、不良、最悪と変化し、最悪のまま100年が経過するとその神は消滅します」

「100年かぁ、時間的な余裕はありそうで良かった」


 情報は力だ。知っているか知らないかで、その後の運命は最良にも最悪にも変化する。

 それにしてもこの管理者、聞いたこと以外は教えてくれないタイプのようだ。

 信仰ステータスについても、俺が聞かなければ何も言ってはくれなかっただろう。

 それともどこかのタイミングで纏めて話してくれるつもりだったのだろうか。


 さて、能力の選択について詳しく検討しよう。

 わかっていることは戦争に干渉しなければいけないということ、いずれ強力な魔王と対峙することになるであろうことである。

 能力の一覧を見る限り、属性魔法だけでも9個あり、これらを全部取得するのは得策ではない。

 まずは必須と思われる能力から確保すべきだろう。


 俺が思う必須能力は、自己再生、不老不死、鑑定、言語理解、自動戦闘の5個だ。

 ディスプレイの『自動戦闘』の表示をタップすると、『その時所持している武器で、使用可能なスキル、魔法を駆使して自動的に対象を捕捉し、攻撃、防御、回避、回復を行う』と表示された。

 ケンカなど、まして戦闘訓練などしたこのない俺にとっては必須の能力である。

 物理、魔法、状態異常については、それぞれ無効、反射、吸収がラインナップされているが、これらを全て取得するのはコストパフォーマスが悪い。

 なぜなら聖属性魔法1つで回復できるからだ。万が一、即死になるような攻撃を受けても不老不死の能力で耐える。

 従って聖属性魔法を取得する。これで6個だ。


 残り3個の枠をどの能力で埋めるかだが、時間、空間、召喚の魔法は他の属性魔法と比べてはるかに強力だ。

 時空を操れるというのは所謂ぶっ壊れというものであり、戦闘において時間を止めたり空間を断裂させたりできるのは圧倒的なアドバンテージを生むことに繋がる。


 そして1番壊れているのがこの召喚魔法だ。

 召喚魔法の項目をタップすると『イフリート』『リヴァイアサン』などの著名な精霊、モンスターを召喚できることがわかったが、その中にひっそりと『異世界召喚』なる項目が記されていたのである。

 その『異世界召喚』をさらにタップすると『前世の世界に存在するあらゆるものを召喚できる』と表示されていたのだ。

 つまり、銃やミサイルなどの武器から、衣類、食べ物まで何でも召喚できるということだ。

 これはもはや必須取得の能力である。


 俺はディスプレイの右枠に、聖属性魔法、時間魔法、空間魔法、召喚魔法、自己再生、不老不死、鑑定、言語理解、自動戦闘の9個を移動し、確定ボタンを押した。


「能力が確定。最終処理を実行します」


 一瞬、管理者の口角が上がり、ニコッと笑った気がして2度見してしまった。

 今、まじまじと見ている限りでは少しも笑っていないのだが――見間違いということにしておこう。

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