第2話 美少女神転生

 その女性は、艶のある灰色の肌にスキンヘッド、豊満なバストに長い手足、そして何より特徴的なのが身体のあちこちにケーブルが接続され、彼女が座る玉座に繋がれているという、まるで1つのコンピューターのような容姿をしていた。

 長い足を組み、右手は頬杖を突いて、その赤い瞳で俺を見ている。


「目的地に到着。容姿を選択してください」


 女性が東京で聞いた声と同じ声で話す。同一人物と見て間違いないだろう。

 あの時は幻聴だ幻覚だと、起きていた事を信じられなかったが、今こうして玉座に座る女性の声を聞き、この西洋風の大広間を見て、これは現実なのだと受け入れることにした。

 すると、女性が言っていた『転生』というのも本当の話で、今俺は転生するためにこの場所へやってきたということだろうか。

 目的地――


「あの、こんにちは。少し聞いてもいいですか?」

「質問を受け付けます」

「ありがとうございます。まず、あなたは神様か何かですか?」

「私は管理者。この宇宙の全てを司る者」

「なるほど……じゃあ管理者さん。ここが目的地、つまり転生先ということですか?」

「その通りです。ここは惑星ニルディーナ。あなたの管轄になる場所です」

「管轄……ん? 俺ここで何か仕事すんの?」

「あなたはここの新たな神に選ばれました」

「ファッツ⁉︎」


 転生は受け入れたが神転生だとは思わなかったというのが正直なところだ。

 正直ついでに言えば神転生は激レアだ。ここは低確率を引いたことを素直に喜ぶべきところだろう。

 思えばガチャ運も仕事運も恋愛運もなかったのに、こんなところでレアを引くなんて、神様――いや、管理者様、ありがとうございます。


「転生に当たって容姿を変更可能です。転生後の容姿をイメージしてください」


 容姿か。MMORPGっぽくなってきたな。『茶色い砂漠』ではキャラメイキングに5時間かかったっけ。

 俺は自分の体を見つめる。思念体というのだろうか。全身が半透明で、素っ裸である。

 両手を前に出すと床が透けて見えていて、下を見ると相変わらずの太った腹が見えた。

 折角新しく生まれ変わるのだから、どうせなら今とは全く違う容姿になりたい。


 このデブでハゲでブサイクな体とは正反対の姿に――


 すると、俺の体はブヨブヨと波打つように輪郭を変え、太った腹は引っ込み、全身が細くなっていく。

 どこまで細くなるのかと心配になるほど形を変えると同時に、視界が全体的に床に近くなり、身長が縮んだのだと察する。

 肌が半透明から美しく白い肌に置き換わり、腕を見ると、驚くほど小さな手と細く綺麗な指先が映った。

 そして肩と背中のサワサワとした慣れない感触に気付き、髪が長くなったのだということを自覚する。

 極め付けは下である。これだけ腹が引っ込んでいれば見えるはずなのだ。

 その見えるはずのものが見えずに、恐る恐る右手を股間に当てる。

 すると、触った事のない感触が指に伝わり、男ではないということを確信した。


「いやっ! 正反対ってそういう意味じゃ――」


 可愛らしく変貌した声でツッコミを入れようとしたが、それを遮るように大型の鏡が床から隆起して現れ、今の姿が映し出される。

 そこには身長140センチ弱で目は赤く、白銀髪のロングストレートの美少女が立っていた。年齢は11歳前後でつるぺったんである。

 容姿変更前の姿と比較すれば、確かに正反対だった。


「ろーりーっこんっ、ろーりーっこんっ」


 管理者が無表情かつ無感情に煽る。


「ちょまっ! ちがっ! 俺の意思じゃな――」

「容姿が確定。名前を入力してください」


 神転生という激レアを引いたかと思えば今度は美少女化を引き当ててしまった。

 超絶イケメンに生まれ変わって今度こそ可愛い彼女を作りたいと思っていたのに、どうしてこうなった。

 しかもロリコン呼ばわりされた挙句この容姿は確定し、何やら床からディスプレイが生えてきたのだが、この床の下ってどうなってんだ。

 名前の入力欄が表示されているが、今はそれどころではない。まずはこの姿を受け入れなければ。

 転生、神化と受け入れてきた俺なら、美少女化も受け入れられるはず。

 美少女化して得のあることと言えば、周りからチヤホヤされることだろう。

 この可愛さなら市場で買い物するときにおまけしてくれるかもしれない。

 そして美少女神だ。ただの女神ではない。これはいい響きだ。うん。この響きで頑張れそうな気がする。


「よし。わかった。受け入れる」


 次は名前だ。このディスプレイを見る限り、マウスとキーボードがないのでタッチパネルだろう。

 タッチパネル式のソフトキーボードはタイピングし難くてあまり好きではない。

 この角度が曲者なのである。ディスプレイが見やすい角度になっている場合、その角度はタイピングに向かないのだ。手の甲がつりそうになる。

 従ってこのディスプレイへのタイピングは人差し指のみで行う。

 名前欄を指先で突っつくと、ソフトキーボードとカーソルが表示された。思った通りである。

 名前は既に決まっている。俺はMMORPGをプレイするとき、男性キャラであれば『Rainy』女性キャラであれば『Sunny』と決めているのだ。

 俺は名前欄に『サニー』と入力してエンターキーを押した。


「名前が確定。女神サニーの登録が完了しました」


 『女神サニー』と聞いて、とうとう女神になってしまったのだという達成感に似た何かを得た。

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