第41話
「では、出発する!」
太陽が頂点に登って、広場にすべてのメンバーが集合していた。
まだ眠たそうに眼を擦る者。
周囲を警戒し続ける者。
何か思案している者。
十人十色の様相だが、1つだけ共通している物があった。
それは、戻りたい、と言う気持ち。
地球に戻りたい。元の生活に戻りたい。
この地獄の生活で、常にその事を考えていた。
もうすぐだ。
もうすぐ戻れる。
あの普通の生活に、戻れる。
だがもし、ウロがここに居たのならば、首をかしげていた。
――可笑しなことを言う。
ここに、SASに来たと言う事は、大なり小なり危険を受け入れていたはずなのに。
普通の生活を望むのなら、自衛隊にでも一般職にでも就けばよかった。
それに、彼らには異能がある。
異能を持って生まれた奴らが、普通の生活を送れるはずがないのに――
と。
斯くして彼らは帰路に就いた。
平原を越え、森を越え。
目的地は学校。”普通”の象徴。
壊されてしまった”普通”に戻るために。
◆
「にゃっ、前方に悪魔! イササ、頼むにゃっ」
「任せろ!」
光を閉ざす森林の中、それでもイササは強力だ。
燈篭の報告を聞き、彼は前に出る。
居たのは、ごく普通の悪魔。
流司から聞いた”何か”ではないし、幾度か見かけた
――
イササは右手を振りかぶる。
この程度なら、暗い場所でも余裕だ。
慢心ではない、絶対的な事実。
溜めて、右手を前に出す。
同時に光線が出現した。
それは何もかも焼き尽くして、樹木ごと悪魔を消し去った。
「……この程度なら、いけるが」
「イサ、大丈夫? あんまり無理しちゃだめだよ」
「……わかってる」
心配したヒルメに顔も向けずに、彼は言い放つ。
怒りや不安の感情が、どろどろに渦巻いてイササを離さない。
それが思わず、動きに出ているのだ。
これまで起こった事を考えると、仕方のない事だろう。
「イササ先輩……」
「イササさん……」
しかし、イササは気丈に振る舞うべきだった。
周囲の顔が曇って、士気が下がっていく。
だが、それを打ち消そうとする者が居た。
「人類サマ! そんな暗い顔をしないでください!」
黒貌である。
訴えかけるような声に、注目が集まる。
「私は今から楽しみなんです! 戻ってもしばらくは無理かもですけど……皆サマとの学園生活が!」
「!」
「いろんな出会いがあって、いろんな別れがあることでしょう……友達が出来て、恋人ができて、そして分かれる。でも、特異というだけで他に受け入れられなかった私達が、今から青春を送れるのですよ!」
彼女は言う。
未来の希望を、装飾して。
にこにこ笑う黒貌を見て、自然、他も笑ってしまう。
ああ、俺もそんな生活を送りたい。と思う人間もいれば。
彼女の相手になりたい、だとか彼女の未来を守りたい、と思う人間もいる。
だが、そんな言葉を受け入れられない奴もいる。
「黒貌! 元はと言えば――」
「あっイサササマこちらです! 悪魔が!」
イササの怒号を手で塞ぎ、彼の手を引いて黒貌は木の裏に隠れた。
周囲を見渡しても何もいない。
「悪魔って、どこにっ!」
「落ち着いてください。そんなに居る訳ないじゃないですか」
「じゃあなんで!」
「それですよ、それ。リーダー気質の人間は、良くも悪くも影響が強いんです。」
「……!」
「明るく振る舞えば他の人間も明るくなります。 暗く振る舞えば他の人間も暗くなります。もっと考えてください、自分の立場を」
「……それは、すまん。でも無理だ、消化できない。どうしてもお前に責任を押し付けて、イライラしてしまう」
「んー、じゃあ私を殴ったら気が済みますかね?」
「そんな話じゃ!」
「……まぁ、責任が私にあるのは分かりますよ。失敗したという自覚もあります。だからせめて、それを無駄にしないよう頑張っているんです」
「……」
顔を伏せる黒貌。
イササも、そんな振る舞いをされたら怒るに怒れない。
「今は、我慢する。だが帰った後、責任を取らせるからな」
「覚悟してます」
神聖喜劇、極楽フルーツバスケット @jegor
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