第26話
暫く歩いて。
イササとの距離が50mになった。
(もう行ってもいいですよ。今度は落ち着いて、ね)
「ああ、すまねぇな!」
そう言って、イササと燈篭さんは樹海に潜っていった。
いいなぁ。
周りの様子を見て、黒貌とカイに語り掛ける。
「今度は私達が走るか」
「いやダメ! ぼろぼろになっちゃうじゃないですか、色々!」
「けどこの辺り、何にもないじゃないか。開けているから悪魔が来てもすぐわかるし」
ゼブルくんでも上空から監視しているので、当分危険はない事がわかる。
この辺りに悪魔はいない。
「そうだ黒貌。配信者らしく面白い話してよ」
「えっ急にですか? んー……あ、ウロサマ、私の動画を見てくださったとか! ならそこで省いてしまった”最厄の魔物”についての話をしましょう」
「おおー」
「楽しみ……」
「と言っても有名な話なので……知っているとは思いますが、出来るだけ楽しく話すのでお付き合いください」
――アメリカ、フロリダ州。そこに生まれた女の子から、この話は始まります。
とある協会の執事、その子供として彼女は誕生しました。
名を、
父は教会に属していながら、結構なガンマニア。
幼い時から、彼女は銃に触れる機会が多かったのです。
自然、銃好きとして成長します。
いえ、それだけではありません。
彼女は銃に、信仰心を抱いていました。
それがいつ生まれた物か? 何が原因として育んだのか?
今となっては、わかるのはアリアだけです。
年月が経って、彼女が8歳になった時。
父と狩猟に出かけて、知らない動物を発見しました。
紫の煙を纏っている、翼のある蛇。
大きさはそこまでなく、当時のアリアと同じくらい。
当時はUMA全盛期。彼らは愚かにも、狩って写真を撮ろうと考えてしまいました。
しかし、その正体は魔物。立派な武器である銃が、通用するはずありません。
呆気なく、父は殺されてしまいました。
弾丸を撃って、当たったはずなのに聞いていなくて。
首を噛まれて死にました。
アリアは逃げます。殺そうとしておきながら、死にそうになって逃げます。
必死に、必死に。
幸いにも、その蛇は追ってきません。
だから振り返って、銃を撃ちました。
上手く命中。頭に当たって、一撃で仕留めました。
するとそれは霞のように消え、写真を撮る事は叶いませんでした。
それが彼女の、幼少の頃の記憶。
しばらく経って18歳。
アリアは軍人になっていました。
目的は、魔物を殺す事。
彼女には不思議な力がありました。
それは信じる力、信じさせる力です。
不思議な事に、アリアとアリアの仲間の銃は、魔物によく効きました。
まさに八面六臂の活躍。
魔物を殺し、魔物を殺し、そして魔物を殺す。
ただその生涯を送っていた時です。
アメリカに、最厄の魔物が現れました。
名をアバドン。
死者3000万人超、行方不明者5000万人超。
人類史上最悪の魔物災害です。
全長50mを超えるそれは、アメリカのカリフォルニア州に出現しました。
自らの周りに魔物を召喚し、歩くたびに爆発を起こす。
通った場所は跡形も残らず、重火器も効きない。
人類は、滅亡の一歩手前まで追い込まれました。
アメリカ、イギリス、インド、中国……
アバドンは陸を均し、海を穢してやってきます。
それでもアリア達は戦い続けました。
決して少なくない犠牲を出しながら。
そして、気が付きます。
私達の力で、アバドンに弾は当たっている。
しかし、効いていない、と言う事に。
あくまで彼女の力は、弾を当てる、と言うだけ。
しかしアリアは諦めません。
各国首脳に掛け合います。
曰く、大型兵器の使用権原を与えてほしい、と。
当然、彼らは渋ります。
一個人に力を与えていいものか。
しかしこのままでは人類の危機である。
協議の末、彼らは一部地域内での使用を許可しました。
現在進行形で、アバドンが通っている場所。
そこにあるもので、その範囲ならいい、という事です。
彼女はひとまず、それでアバドンと戦いました。
しかし、まだ足りません。
もっと圧倒的な力。
もっと、生物を根本から破壊する力じゃないと、それは倒せません。
アバドンは遂に日本に上陸。
ひたすら東に向かって歩いていきます。
街を破壊し、人を殺し。
アリア達は戦います。
少しでも、犠牲を少なくする為に。
爆弾を投げ、衝撃を与えます。
それを繰り返し繰り返し、少しずつ進路を変えました。
やがて海に出ます。
アバドンは遂に陸地から撤退。
北上し、大陸への移動を開始しました。
それではまた被害が出てしまいます。
ならばどうするか。
海上で、滅するしかありません。
けど、その為の足も力も、アリア達にはありませんでした。
そこへ、アメリカの軍艦が到着しました。
空母、駆逐艦、巡洋艦、戦闘機、爆撃機……あらゆる種類の兵器が、アバドンに対抗します。
いや、それだけではありません。
世界中の戦力が、今ここに集まっていました。
ロシア、イギリス、中国。
すべての砲塔が、ただ一つの標的へ向いているのです。
やがて弾薬が付き、もはや打つ手がなくなりました。
アバドンはもはや、満身創痍でした。
だけどまだ、体は再生し陸に向かって動いています。
艦隊は離れます。
ただ一つの機体を残して。
世界は団結しました。
この行動を以って、今罪は払拭されます。
内ではなく、外へ。
今の倫理にあった、正しい使い方を。
機体から、爆弾が落ちました。
星を灼く光。
宙の屠る風。
現へ障る病。
全てが、奴を覆います。
ある者は、強い光から目を隠し。
ある者は、船を維持して。
ある者は、観測し続けました。
そして目を開けた時。
アバドンはもう、居なくなっていました。
世界中の、どこを探しても。
見つかりませんでした。
人類は、神話に勝利したのです。
その一番の貢献者は今も別の形で、人類の為に戦っています――
「というお話でした! ほら、もう樹海に着きましたよ。いきましょう!」
アリア・カットナー。
人類を救った、救世主。
それが私の孤児院に来て、何の用だったのだろう。
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