第27話

 いや、アリア・カットナーの事は今じゃない。

 

 とりあえずはこの遠征を楽しもう。

 ……違う、情報を得よう。


「先行隊に何か異変あります?」

「ないね。走ってもないし、何にも遭遇してない」

「いい調子ですねぇ。学校も居なかったらさらによし!」


 根を跨いで歩く。

 木の葉を退けて歩く。


 5日振りの事なのに、随分久しぶりに感じる。

 それだけ濃密な時間を過ごしてきた、と言う事だろう。


 でもやっぱり面倒だなこれ。


「イササに全部焼き払ってもらわない?」

「絶対悪魔来ますよ!」


 進んでいくと、景色が変わっていった。


 此処は暗い。

 上を見ると、木の枝が絡み合っている。

 そこに土が積もって、また別の木が生えていた。

 要は階層構造になっている。


 それで日光が遮られているおかげか、下層の植物はあまりない。

 さっきの場所よりかは大分動きやすくなった。


「君達が逃げる時もこのルート?」

「逃げながらだったので私は覚えてないですねー。ナギササマに聞くしか」


 確かに。私も学校からピラミッドへのルートを覚えていない。

 ゼブルくんを飛ばしているから位置が把握できるけど、そうじゃなかったら迷いまくっていただろうな。


「そうだ。いつかピラミッドの中もみないと」

「あー……地球帰ってからの話ですよね?」

「ハハ、冗談」

「何がです!?」


 ピラミッドは、動物が少ない事に気が付いて見つけた。

 では対して、ここはどうか。

 答えは、全然いる、だ。

 

 学校を出てすぐに見た気がする空飛ぶハエトリグサも、鎌が生えた蛇も大量にいる。


 厄介と言えば厄介だが、それよりもカイの方が強かった。

 上から襲撃してきた蛇を、カイの爪が切り裂く。


「ありがとう、カイ。しんどくない?」

「大丈夫、余裕」

「ならよかった。事業の調子はどう?」

「事業? ああ、順調」

「あ、風のうわさで聞いてますよカイサマ! 眷属を貸し与える代わりに世話してもらってるとか!」

「ちゃんと仕事はしている」

「いえ、文句を言いたい訳じゃないです。ただ、人気者はつらいぞ、って事を教えようと思いましてぇ」

「……私は生まれた時から人に好かれていた。それくらい知っている」

「へぇ、カイってそうだったんだ」


 少し意外だ。

 私のイメージとしては、マスコットとかその辺りの認識だった。

 マスコットで辛い、なんてことはあまりない気がする。

 ……いや、あるにはあるだろうけど、それは自分のなりたい姿とのギャップで生まれる物だろう。

 

 黒貌が言っている、アイドル方面での辛さだ。

 好かれる努力、期待を裏切らない努力。

 数多の努力を化粧して、芸能人は生きている。


「……みんなの期待に応えないといけない辛さなら、わかる」


 今、テレパシーだ。

 

 テレパシーとは、何でも登頂できる、という能力ではない。

 その人間の脳の中を、無意識だろうが意識していようが読み取る、と言う力だ。


 だから、対象の過去を知りたいのなら、対象に過去を思い出させないといけない。

 さっきの会話だと、ほんの少し思い出した程度だろう。

 しかし、気になるのだ。


 嫌な記憶だった場合、聞かれるのはやめてほしいだろう。もっと思い出してしまうから。

 しかし勝手に見る分には問題ない。

 

 バレなきゃ誰も傷つかないからな。


 さて、それではカイの過去を拝見させていただこう。

 一瞬だけ映像が映るはずだ。


 映ったのは、大勢の人間に囲まれる景色。

 何か気力を失ったような大人が、口々に叫んでこちらに向かっている。

 視点は彼らより高いところにあり、叫ばれているのは自分だと認識できた。


 と、それで階層は終わってしまった。

 余計にカイの過去が気になる。


 しかし、あの記憶を見た所いい思い出ではなさそうだ。

 何か機会を作って、そこで直接聞くことにしよう。


「ふむふむ、そうでしたか! これは余計な事を言っちゃいました、ごめんなさい!」

「にゃるは厄介なのをよく捌いている。あれを教えてほしい」


 思い出すのは流司だ。

 彼はわきまえている様だが、ファンってのは厄介なのがそこそこいるんだろう。

 例えば、同格と勘違いしている奴とか。


「いやー、あれはそういうキャラでやってるから大丈夫なだけですよ。逆にカイサマ人気の秘訣を教えてほしいですね」

「需要と供給」

「えっそんな経済学みたいな話になるんですか」


 人気者談議が始まってしまった。

 おのずと、私は会話から弾き出される。

 ……これだとまるで、人気のない人間の様だ。

 

 いや、現状そうなのか?

 先生と悪魔と黒貌のヘイトを買っている、負の人気者なんだろうか?


 これ以上考えるのはやめよう。私の得にならない気がする。


「へぇ! そんな方法で……」


 彼女たちの会話に耳を傾けながら、イササの視界を見る。


 映ったのは、これもまた樹海。

 どうやらまだ着いていないようだ。


(調子はどうですか?)

(ウロ! 悪魔とは遭遇してねぇし、学校もまだ見えねぇ。進展はまだまだ先になりそうだ)

(よってくる蛇は私が焼き来ちゃった!)

(……そうですか。ではまた定期連絡で)


 また、割り込まれた。

 イササの能力だからイササの一部、みたいな論理で入ってきているのだろうか?

 ありそうだな。

 クルア先輩の話では、月光は太陽光の反射! という理論で夜も戦えるらしいし。

 

 本当、厄介な人間だな

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