第25話

「あたしは白虎になれるんにゃ!」

「……具体的に、なにができるんです?」

「え? えっと……足が速いのと、高いとこから落ちても大丈夫なのと、耳がいいのと……」


 虎と言うより、猫じゃないか? 喋り方もそうだし。


「まあいいや。明後日、学校に遠征するので準備しておいてください」

「あ、え、ん? りょ、了解にゃ!」


 私はこの人からも、早く離れたかった。

 何故なら、年上が語尾に”にゃ”を付けているのは、厳しいからである。



「伝えて来たよ、わざわざ足で」

「まぁありがとうございますぅ! よく出来ましたねー!」

「小学生だと思われてる?」


 本部に帰ってきて、直ぐに椅子に座った。

 周りを見渡しても何もない、殺風景な場所。

 

 なんだか妙に疲れた。

 5日振りに歩き回った身体的疲労か、慣れない相手と話した精神的疲労か。

 どっちも嫌だな。


「さ、また日常回ですよ! 仕事はずっとあるんですから、頑張ってくださいね!」


 

 また、テレパシーで拠点を管理する日々だ。

 特筆すべき事もない、なんての事のない時間。


 私とって、一番辛い時だ。

 けど今回は大丈夫。もうすぐ、遠征がある。


 まるで遠足を待つ子供の様に、ゲームを買って帰る子供の様に、興奮しながら仕事をする。


 戦闘班の会的。特になし。

 夜番戦闘班の会的。特になし。

 偵察班の発見。特になし。

 補給班の要求。特になし。

 雑用班の要求。特になし。


 

「さあ、遠征の日が来た!」


 空は快晴で、襲撃もない。

 私の邪魔をするものは、何もない。

 

「ウロサマ、思っていたよりずっと興奮してますね……」

「当たり前だろう。やった動けるんだ」


 ああ、清々しい気分だ。

 興奮が収まらない。


「いつ出発するの? もうすぐかな?」

「こうも子供っぽい姿を見せられると、疑う気が無くなります」

「ああ……」


 失礼なことを言われている。

 しかしも問題ない。今、テンションがとても高いから。


「ウロ、おはよう」

「おはようカイ! 昨日はよく休めた? 準備出来た?」

「う? うん」


 燈篭さんとイササが同時に来た。

 ああ、思っていたより速い到着。有難い事だ。


「さあ行こう、未知の世界へ! 驚きと発見が私達を待っている!」

「テーマパークのナレーションみたいになってます……」

「あれ? 俺らが先に行くんじゃなかったか?」

「……なら早く言ってくださいよ。後続が控えてるんです」

「す、すまん」


 一気にテンションが冷めた。

 いや、奥からまた再燃している感覚はあるが、すこし落ち着いた。

 こればっかりはイササに感謝かもしれない。

 冷静な判断を下せる。


 と思っていたら、彼らは足早に出発した。

 なけなしの草を踏み潰して駆けていく。

 ……悪い事をしたかもしれない。

 彼らには命の危険が付きまとう。それを無理行って早くいかせるなんて、酷い事をした。


「ああ、やってしまった……」


 私は天を仰いだ。

 

「ね、ねえ。ウロの様子がおかしい」

「しまった、縛り付けすぎたかもしれません……」


 天を仰いだまま、ゼブルくんの視界にシフトする。

 もはや空からの距離測定離れたものだ。

 今は……40mか。

 ちょっと盛ってもバレないのでは?


「一応、私見てますからね。不正はさせませんよ!」

「…………あっ50m過ぎた。早く行こう!」

「本当に過ぎてます。というか先行隊の足が速い! ゆるめるように伝えてください!」

「了解!」


 私達も歩き始める。

 言われた通り彼らをいさめ様と、テレパシーで燈篭さんの視界を見ると、なんと走っていた。


「速いニャ、チササ! まさかこの白虎について来られるとは、やるじゃにゃいか!」

「ハハッ! 俺の”能力”はエネルギーの変換! この程度何でもないさ!」

「あたしの制御もあるしねー!」


 随分楽しそうだな、あいつら。


 速度を下げろと、その旨を伝えようとしたとき、気が付いた。

 彼らの目の前へ、影が現れた事に。


 それは悪魔だった。


「おおっ!? 悪魔!」


 流石に慣れているのか、彼は減速すらせず光の剣を出現させた。

 そしてそのまま一刀両断。悪魔の断面は焼けていた。


 ようやく、彼らは足を止める。


「調子乗っちまった。ウロ、聞こえるか? どんくらい離れた?」

(90m程度です)

「そんなに、か。すまねえな」

「ごめんにゃさい……」


「って謝ってるけど、どうする?」

「どっちもそういう喋り方ですからね……ま、今はいいでしょう」


 彼らは許されたようだ。

 まぁ、ここで叱って士気を下げても仕方がない。

 

「ああでも、もう森は見えたぜ。いい距離になったら読んでくれ、出発するから」

(わかりました)


 これでやっと、冒険に集中できる。


「けど、この辺りはなにもないね」

「そういう場所を選びました! バ火力が居る場合、隠れるよりむしろ目立った方が有利です!」


 バ火力は言うまでもなく、イササの事だろう。

 さっきも、一撃で悪魔を屠っていたし。


 ……よく考えたら、私は普通の悪魔と戦ったことがない。

 出会ったのはみんな、上位種みたいな奴らだった。


 普通の悪魔なら私でも戦えたりしないだろうか。

 これでも武術には自信がある。

 刀、槍、弓なんでもござれ。人間相手ならテレパシーを使わなくても勝てる。

 でも人間と悪魔では勝手が違うだろう。

 少なくとも1回目は、間違いなく苦戦を強いられる。


 でも、化け物状態なら圧勝だと思うな。

 明らかに他と各の違う、大翼の悪魔と張り合えてたんだ。

 普通の悪魔なら問題ないだろう。

 それに、あの姿には触手が6本あった。

 全部に武器を持ったら最強では? 使いこなせるかどうかは別として。


 ただ一番の問題は、成り方がわからないって事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る